”心不全”が年々増加している理由 原因や症状を専門医が解説「実はがんより怖い」
日本人の3大死因のうち、もっとも恐ろしいのはどれか?──こう聞かれたら、ほとんどの人が「がん」と答えるだろう。だが、本当に死亡率が高く、治療も難しいのは「心臓病」だ。休むことなく働き続ける“生涯のパートナー”と、どうつきあっていくべきか。「心不全パンデミック」とも呼ばれるほど増えている理由やその背景を心臓の専門医が解説する。
ここ数年で「パンデミック」という言葉をよく耳にするようになった。実はコロナ禍の陰で「心不全」もまた、静かにその裾野を広げ、パンデミックを起こしつつあるという。心不全は、時間をかけて心臓の機能が低下して血流が悪くなり、むくみや息切れといった“軽い”症状とともに進行し、じわじわと命を縮める病気だ。
現在、心不全患者の数は約120万人規模と推計されており、2025年には120万人を超え、2030年には130万人に達するとの予測もあるほど、心不全患者は急激に増加の一途を辿っている。
いま、こうした状況は「心不全パンデミック」と呼ばれ、多くの医療関係者が警鐘を鳴らしている。
心不全はがんより怖い
ご存じの通り、「日本人の死因」としてもっとも多いのは「がん」だ。厚労省によれば1981年以降、死因の第1位に留まり続けており、年間37万人以上の人ががんで亡くなっている。3人に1人ががんで亡くなっているほか、2人に1人はがんを発症し、治療を受けている。
だが、心不全は、がんよりも恐ろしい病気と言っても過言ではない。まず、心不全は、死亡率も再入院率も、がんより高い。がんの発症後の「5年生存率」が70%なのに対し、心不全は50%しかない。一度発症したら、半数の人は5年以内に亡くなってしまう。
小倉記念病院副院長で循環器内科主任部長の安藤献児さんが言う。
「人口10万人あたりの死亡者は、がんが300人弱のところ、心臓病は150人ほどです。この数字を見て“がんの半分だけじゃないか”と考えてはいけません。がんの死者数はつまり、胃がん、肝臓がん、大腸がんなど、いろいろな部位のがんを合計した数字です。一方、心臓病が発症するのは当然ながら心臓だけです。単一臓器でこれほどの死者数の病気は、ほかにありません」
心臓病もがんと同じく、早期発見・早期治療が肝要で、早ければ早いほど回復の見込みは大きい。だが、がんが医療技術の進歩によって「治りやすい病気」になりつつある一方で、心臓病は再発しやすく、完治しにくいという。
しかも、心不全は、検査で見つけるのが難しい場合も少なくない。
「心臓の左心室が収縮して血液を送り出す量を示す『左室駆出率』が落ちている場合は、超音波検査で“収縮不全”として見つけることができます。ですが反対に、左心室の拡張不全の場合は、検査では正常と出ることが多い。治療方法も充分に確立されていません」(安藤さん・以下同)
厚労省の推計では、心不全の患者数は1996年に約21万人だったが、2017年になると約34万人と、約20年で激増しているのだ。
「1990年代半ばは、心臓病の治療を受けているのは主に60代前後でした。ところが、最近では70代、80代、90代も珍しくない。心臓もほかの臓器と同じく、年を取ればどうしても機能は衰えます。慢性的な心不全を抱えていると、全身のさまざまな箇所に少しずつ不調が表れる。それを何とかごまかして暮らしていたのが限界を迎えて、診察を受けて初めて心不全がわかり、入院……というケースが珍しくありません。自覚のない“心不全予備軍”が増えている印象です」
24時間365日、全身に血液を送り続けている心臓は、いっときたりとも休ませることはできない。1日に約10万回もの拍動を何十年も続けている以上、長生きするほど注意が必要だ。
教えてくれた人
安藤献児さん/小倉記念病院副院長で循環器内科主任部長
※女性セブン2022年9月15日号
https://josei7.com/
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