猫が母になつきません 第301話「こおらせる」
大好きな苺…旬のブランドものを思い切って2パック買う。楽しみにしていたのに、冷凍庫を開けた瞬間に目に飛び込んできたのはそこにあってはいけないはずのかわいい苺たち。一瞬ですべてを理解した私は声もなくかちんかちんになったかわいそうな子たちをそっと取り出す。ヤラレタ…。「冷凍庫に苺入ってたよ」「えー、なんでかしら。全然おぼえてないわ」そうでしょう、そうでしょう、一応ご報告したまでです。「なんで冷凍庫にいれたのよ」とか「せっかくの苺が…」とかそんな会話はありません。最近は多少おかしなことがあってもほとんどスルーする癖がついていて、母に注意したりするようなことはしません。母に何を言っても返ってくるのは「おぼえていない」という言葉だけ。それがわかっているので会話すること自体意味がないという気持ちになってしまう。噛み合わない会話、何度も繰り返される会話、まったく理解されない会話…そんな会話に疲れて、私はどんどん言葉少なになっていきます。人と会話をする機会が減った母と会話をするようにしようと思っていたのに…今のところ完全挫折です。贅沢に苺を使ったジュースは美味しくて、母はこんなに飲めないといいつつごくごく飲み干していました。まあ、いいか。今日のところはとりあえず美味しかったってことで。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。