精神科医 香山・リカさん56才「苦手だった運転や運動に挑戦したら心の靄が晴れた」
人生の後半を考えたとき、「この先の自分がどうありたいかを想像し、実現させるには、そこに向かって何をすべきかを、何才からでも、思い立ったときに考えてみるといい」と言うのは、精神科医の香山リカさん(61)。
いくつになっても人生は変えられる
香山さんは55才のときに仕事で行った講演先で、医大時代の同級生が地元に戻って地域医療に携わっていることを知って刺激を受けたことが、60代以降の人生を考えるきっかけになったという。
「最初は軽い気持ちで『将来、へき地や無医村で医療に従事する』としたら、いったい何が必要なのかをイメージして紙に書き出してみたんです」(香山さん・以下同)
そこで導き出したのが、次の3つのことだった。
【1】地域医療には、内科なども総合的に診られる医療の知識が必要。
【2】へき地で在宅医療などを行うには、自力での移動手段を確保しなくてはならない。
【3】ハードな仕事に耐えられる体力、運動能力も大切。
「このときは、ぼんやりした将来の夢でしたが、もし本気になったら挑戦できるように準備を整えておきたいと思って、まずはこの中で手っ取り早く取れる『自動車免許の取得』を目指すことにしました」
香山さんは20才のときに免許を取ったものの、教習所の指導員のスパルタ的指導に苦労し、運転にはまったく自信が持てなかった。どうにか免許を取得したものの、同乗した弟からも「運転は無理だ」とさじを投げられ、一度も更新せずに失効した苦い思い出がある。
しかし、思い切って教習所に申し込むと、今回はやさしい指導員が励まし、褒めてくれる中で教習を受けることができたという。
「学科の勉強に苦労し、時間はかかったものの、無事に免許を取得できたことで、“もっと違うこともできるかも”と運動にも挑戦。護身術系格闘技のクラヴマガやシステマ、筋トレのジムに入ったりしながら、いまはズンバというエクササイズを継続しています」
体力&運動という課題を、楽しみながらクリアし、ついに、地域医療に携わる場合、最も重要となる「医療の学び直し」も開始。2019年から母校の総合診療科に週1回通い、患者さんの身近にあって何でも気軽に相談できる総合診療の勉強も行っている。昨年からは、新型コロナウイルスのワクチン接種の担当も始めた。
「思えば自動車の運転も、運動も、精神科以外の医療(内科や外科など)も、すべてに苦手意識を持っていました。自分で判断したものもありますし、周囲から言われたことが『呪い』のように染みつき、自分を縛っていた気もします。思い切って挑戦してみることで、アプローチの仕方が変化したからなのか、実はそれほど苦手でもなかったことに気づきました。なんだか心の靄(もや)が晴れ、すっきりとした自分に生まれ変わった気もしています。精神科医として心の問題に敏感だったはずなのに、自分にこんな思いが隠れているとは思いもよりませんでした」
今年4月から、香山さんは北海道むかわ町の診療所の副所長に就任し、地域医療に携わることが決まっている。
「週末は東京に戻りますが、医師として新たなスタートが始まります。亡くなった母は、『60代は心身ともにとてもいい時代だから、好きに楽しみなさい』とよく言っていました。当時はピンときませんでしたが、いまは『その通り!』と思います」
人生の後半でやりがいのある仕事にシフトチェンジするのも、思春期ゆえの決断だ。
教えてくれた人
精神科医 香山リカさん
東京医科大学在学中より執筆活動を始め、精神科医に。現在も都内クリニックで臨床を行う。立教大学現代心理学部教授。
取材・文/山下和恵 取材/廉屋友美乃
※女性セブン2022年3月24日号
https://josei7.com/
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