平均年齢69才の容姿端麗チアチーム ミニスカとつけまデビューできた理由
東京都内の体育館、18時過ぎ。30℃超のこの日、暑さ残る中、それよりもっと熱い女性たちがいた。アップテンポなポップスの大音量に負けない大きなかけ声。赤・青・黄のカラフルなTシャツ。華やかな金・銀の“ポンポン”。軽やかなステップと弾ける笑顔。日本最高齢のシニアダンスチーム「ジャパンポンポン」のメンバーだ。
「ジャパンポンポン」は1996年結成。わずか5人からスタートし、今や総勢30人の大所帯。週1回・2時間の練習を積み重ね、「USAナショナルズ」という大会に毎年チャレンジするなど、国内外で広く活躍している。練習を終えたメンバー4人にご登場いただき、早速、座談会を行った(以下、敬称略)。
* * *
滝野:「今日もみんな、よく動いたわね」
矢島:「今日はかなりテンポが速い曲だったから、結構大変でしたね」
この日の練習曲は、ミュージカル映画『ヘアスプレー』の劇中歌『You Can’t Stop The Beat 』。アップテンポな2分半の曲だ。メンバー全員の動きが揃わなくなったり、誰かが振り付けを忘れて動きが止まるや、コーチが曲を止め、動きの再確認が行われる。1小節ずつ、コーチの手拍子に合わせ、全員の動きが揃うまで、何度も何度も繰り返される。
矢島:「覚えたつもりでも、次の練習では忘れているから困っちゃうのよね」
名倉:「私は加入オーディションのときのことを思い出します。最初は音に合わせることなく、ひたすらステップだけを教わって、最後のテストで音楽に合わせて踊るんですけど、うまくいくと、わぁ~って、体の中から幸福感が湧いてくるのがわかるんです。自分でも驚きました。でも…そこに至るまでのステップを覚えるのが、キツイですね~。なんせすぐに忘れるので」
一同:「アハハ」
名倉:「なんせ、近時記憶に危うい年頃だし、もともと覚えが悪いことには天才級なので、その才能を生かさないようにするのもつらくて(笑い)」
富田:「私も時々忘れることがあります。なので、自宅でもしっかり練習しないと、ついていけなくなっちゃうの。それに年を重ねるにつれて、すぐに疲れて、思うように踊れないことが悔しいです」
滝野:「たしかに、私たちのような年代になると、ダンスを覚えるのに時間がかかるからつらいわよね」
矢島:「でも、チームとして1つのダンスが完成していくのを実感できるのは、なんとも気持ちいいですよね」
練習では、一人ひとりの立ち位置も重要だ。間違えると、全体のフォーメーションがバラバラになる。誰かが立ち位置を間違えると、近くのメンバーからすかさず「ここだよ!」と声がかかる。それを何度も何度も繰り返しているうちに、皆の呼吸がピタリと合ってくる。脚を上げるラインダンスも、一糸乱れぬ高さで揃うようになる。
富田:「このチームに加入してよかったのは、いい仲間に出会えたこと。みんな明るくて楽しい人たちばかり。メンバーみんなのためにも、よりよいダンスを踊り上げたいな、と思います。それに、会長の滝野さんを見ればわかるように、本当におしゃれなかたが多いと思います」
つけまつげデビュー
滝野:「そういえば、結成した当初の衣装は、袖のあるハイネックの衣装だったのに、今じゃノースリーブにミニスカート。だんだん露出度が高くなっているのよね(笑い)」
富田:「最初は恥ずかしくて、人前に出るのが不安だったり」
矢島:「でも練習を重ね、大会に出るうちに、年齢なんて関係ない! 自分自身が楽しめて気分が上がれば、それでいいじゃないって思えたのよね」
名倉:「衣装に付いている“キラキラ”はうれしいですよね~、非日常的で。とてもそんな格好では電車に乗れませんけど、ダンスチームならそれを存分に楽しめる。私はチームに入って1か月にして初めて、衣装を先週1着いただきましたけど、ようやく仲間になれたんだな~って実感が湧きました」
大会やイベント出場時に着用する華やかな衣装は、チアの本場であるアメリカ・フロリダのメーカーに直接発注している。
富田:「最初の頃の衣装は、スパンコールがたくさん付いていて重かったわよね~(笑い)」
滝野:「ヘアメイクもみんなそれぞれ個人でやってるけど、それがまた楽しい。つけまつげしたり、2000円くらいのウイッグを揃えて被ったり。これまた、だんだん派手になってるわね(笑い)」
富田:「本当にそういうのは楽しめるよね~」
滝野:「この年齢で、ばっちりメイクをして、キラキラの衣装を身に着けられると、気持ちが明るくなって、モチベーションが上がるわね」
矢島:「私はずーっとつけまつげを付けていなかったんだけど、去年ついにデビューしちゃったわ(笑い)」
富田:「自分じゃ付けられないから、仲間に付けてもらったりね。ふだんのメイクとは違うから、ワクワクして気持ちが若々しくいられるの」
矢島:「人に見られているのが、緊張感を持つことにつながっているからいいのかもね」
滝野:「そうそう。人前で発表する機会があると、練習もダラケることなく、張り合いが出るの」
富田:「私は、去年の10月に台湾のイベントに呼ばれて、現地の人たちの前で踊ったのがとても印象に残ってる」
矢島:「台湾よかったわよね」
富田:「すごく歓迎されてうれしかったわ。たくさんの拍手と歓声をもらって感動した。私にとっては初めての海外遠征で、今も心に残ってる」
滝野:「ジャパンポンポン結成2年目にアメリカ・アリゾナ州のサンシティに初の海外遠征をして、現地の『サンシティポンズ』というシニアチームと交歓会をしたけど、以来、海外遠征はいい刺激になっているわね」
55才以上&「容姿端麗」
滝野:「週1回の練習に、海外遠征。年齢を考えると結構キツいようにも思うけど、みんな、本当に若いわよね。みんなを見ていると、うちの入会条件の1つが“55才以上であること”というのを忘れてしまうわ」
矢島:「そういえば私、55才以上という規定があることを知らなくて加入して、3年間『私は55才です』って言い続けてたのを思い出しました」
一同:「アハハ」
滝野:「もう1つの入会条件が、『自称、容姿端麗』であること。(メンバーを見回しながら)これはみんなクリアしてるわね」
一同「ええ、もちろん(笑い)」
ジャパンポンポンのオーディションは、年に1度、春先に行われる。オーディション後、2か月のトライアル期間があり、この期間中に2分程度のステップを覚える。ステップを習得し、テストを通過した人のみがメンバーとなる。
名倉:「私の加入時、オーディションを受けたのは30人以上。で、受かったのが8人。そもそも、この年齢でオーディションを受けるということ自体、すっごく勇気がいるんですよね。でも、自分なりにチャレンジして、それが認められてメンバーになれた。そのことに誇りを感じます」
ジャパンポンポンのコーチを務めるのは、チアリーディングやダンスを指導・育成するアメリカの団体USA(United Spirit Association)の日本支部・副代表を務める長峰美紀さん。プロ野球球団、千葉ロッテマリーンズのチアリーディングディレクターも行っている斯界のプロだ。長峰さんの指導の下、1曲のダンスを半年かけて完成させ、年間2曲完成させることを目標にしている。
練習をしている体育館には、三脚に掲げたビデオカメラやスマートフォンがズラリと十数台並んでいる。各々が自前のハンディーカメラを持ち込んで録画をし、自宅での練習時の参考にしているのだという。その表情こそ笑顔だが、行っていることは学生の部活動のごとく、完全に体育会系なのだ。
矢島:「うまくできていないところをチェックしたり、先生の振りを覚えるために映像はとても役立ちますね」
滝野:「私の場合、カメラアングルが悪くて自分が映っていない、なんてことがあるのよね(笑い)」
富田:「あるある! よくあります! 録画を見直すと、肝心なところが映っていなくて『失敗した~』って」
滝野:「それにしても、みんな熱心よね。練習が終わったあとでも居残り自主練してるし。体力あるなぁ、と感心しちゃうわ」
富田:「私は週2回ジムに通って、筋肉をつけるようにしています。それに、ポンポンを握って踊っているから、腕の筋肉はそれなりにあるかも。練習へ行ったり、ジムで体を鍛えたり、日々充実することで、心も元気になりますよ」
矢島:「私は、腰痛に悩まされていた時期があったの。そこで、ピラティスのようなストレッチを毎日やるようにしています」
滝野:「泳いでもいるんでしょ?」
矢島「:ほとんど毎日泳ぎますね。主人には『ちょっとやりすぎじゃない?』って言われるくらい。でも、私にとって体を動かすことは体の緊張をほぐすことでもあるんです」
名倉:「私は五十肩で腕が上がらなかったので、ストレッチをやったり、1か月に1度、小学校時代の仲間と日帰りで2000m級の山に登ったりしています。モノレールやリフトを使えるところまでは使っていますけどね」
滝野:「みんなすごいわね。私は、便秘にならないようにグレープフルーツを食べているくらいよ(笑い)」
結成から22年。ダンス未経験者が多いながらも、レパートリーは20曲を超えた。平均年齢69才のチアチームの勢いは増すばかりだ。滝野会長が言う。
「目標は、2020年に予定している、ジャパンポンポン25周年記念チャリティーショー。10曲ほどの演目を予定しているので、今以上にもっと体力をつけなくちゃ! 私たちの活動が、高齢者や若者に元気や勇気を分けてあげられるように、ずっと活動を続けていけたらいいなと思います」
撮影/浅野剛
※女性セブン2018年9月13日号
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