ドン小西が「心臓弁膜症」経験を語る 病からの生還で変わった人生観
テレビの健康番組をきっかけに、重度の心臓弁膜症を患っていることが判明したドン小西氏(67才)が、「作り置きなのにヘルシーな、心臓に優しいハートレシピ」発表会に登場。
病気発覚の瞬間から、「人生観が変わったよ」という手術体験、食事に気をつけながらの社交術のコツまで、赤裸々に語った。
テレビの収録中にいきなりの病名宣告
2011年11月に放送されたテレビ東京系「主治医が見つかる診療所」で人間ドックを受けたドン小西氏。結果は番組収録中に、専門医から初めて聞かされた。
「心臓の大動脈弁に異常があり、血液が逆流しています」
小西氏は「このときのことはあまり思い出したくないけどね」、と前置きした上でこう話す。
「自覚症状がなかったものだから、そんなバカな、と思いましたよ。どうせ番組を面白くするために大げさに言っているんだろうって」
半信半疑のまま収録を終えたが、気になって再検査を受けたところ、やはり血液が50%近く逆流している高度な心臓弁膜症と診断された。心臓弁膜症とは、心臓に4つある弁のうちいずれかに障害が起こり、血液の流れが悪くなる病気だ。放っておくとじわじわ悪化して心不全や死亡に至ることもある。
→参照記事:「年だから…」と放置しているその症状、もしかしたら【心臓弁膜症】?
心臓弁膜症サイト:http://www.benmakusho.jp/
「再検査の結果を見て、ようやく『これはただごとじゃない』と自覚しました。それで考えてみると、思い当たることがけっこうある。60才過ぎればこんなもんだと、全然気にしていなかったんですけど・・・」
自覚症状なしに進行する心臓病の恐ろしさ
例えば、50才を過ぎて始めたマラソンでは、がんばっても仲間の走りについていけない。ちょっと走っては芝生に寝転がってゼイゼイし、なかなか立ち上がれない。
普段から息切れもするし、風呂に入るとすぐのぼせてしまう。動機や息切れ、疲れやすさなど、加齢につきもののこうした症状は、心臓弁膜症の代表的な症状でもある。
「結局ね、体がキツくても『太りすぎだからだろう』『この頃睡眠不足だからかな』なんて自分の中で適当に理由をつけて、その場その場をやりすごしていたんですよ。まさか心臓が悪いなんて、考えてもみなかった」
話を聞いた東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター長の医師、渡辺弘之先生はこう話す。
「心臓弁膜症という病気を知っている人は、おそらく1割もいません。患者さんに病名をお知らせしても、ドンさんと同じように『まさか』とおっしゃる方がほとんどです」
渡辺先生によると、日本の心臓弁膜症患者の実数はわからないものの、治療を受けるべき人の3割から半数しか治療を受けていないという推計がある。
「心臓弁膜症は高齢になると増える病気です。これから高齢化が進んでいくにしたがって、この病気の人はもっと増えてゆくと考えられます」(渡辺先生)
医師も驚くスピード復帰でテレビ出演
テレビ番組のレギュラーをいくつも抱えていたドン小西氏。しかし、正月用の番組収録を終えた後は、レギュラーの仕事がしばらく休みになる。このタイミングで手術を受ける決断をした。
「正月明けの番組にどうしても出たかったし、マネージャーにも『今回の休みを逃すと、もう手術のタイミングがありません』と言われて、あっという間に決断しました。そんな後押しがなかったらきっと『仕事を休めないから』とずるずる先延ばしにしていたと思う。それである日バタッと倒れて救急搬送されて、というパターンだったんじゃないかな」(ドン小西氏)
小西氏が受けた手術は、胸を切開した上で、人工心肺をつかって心臓を止め、心臓の大動脈弁を人工弁に取り替えるというもの。人工弁は、ウシの心膜を利用して作られた最新の生体弁が選ばれた。
手術は12月末に行われ、翌年の元旦には退院。1月3日放送のテレビに生出演というスピード復帰をした。この経緯について、渡辺先生はこうコメントする。
「通常、開胸手術の場合は1週間から10日間は入院される方が多い。ドンさんは体力とやる気が十分にあって、恵まれたケースだろうと思います。心臓の弁を人工弁に取り替える方法としては、胸を開く外科的手術のほかに、もっと傷口が小さくて、4~5日で退院できる治療法もあります。心臓外科手術については、治療の選択肢がどんどん増えていて、20年、30年前とはまったく違います。十分に検査して、積極的に知識を得たうえで、患者さんと医師が一緒になって考え、一番よい方法を選びとってほしいですね」
ドン小西氏、減塩食に開眼
心臓弁膜症の治療を受ける前のドン小西氏の食生活は、本人曰く「60過ぎて、それじゃダメでしょ」というほどひどかった。
「遊びは大好きだし、仕事としてもオフィスワークが終わったらパーティーに行くのが当たり前でした。あの当時はパーティーが多くて、1晩に3か所をはしご、多いときは5か所くらいに顔を出していましたね。
どの会場でも、着けばかならずシャンパン2杯。ケータリングのキャビアやフォアグラとか、塩気の強い料理も大好きだしね。毎晩フラフラになって、脚がパンパンにむくんで、そのまま寝ちゃったりして。
今考えてみると、自分の体を過信していたんですよね。やる気があれば体はついてくるもんだって勘違いしていた。ゆっくりやってる人を見ると、『お前は気合が足りない、もっとガンガン行けよ!』なんてとんでもない暴言を吐いていました(笑)」(ドン小西氏)
そんな食生活が、入院を機に一気に変わる。もっとも印象に残っているのが、心臓への負担を抑えるために塩分を控えた病院食だ。
「それまで不摂生していた僕が、ああいう食事を食べるとなんだか謙虚な、けなげなことをしているような気分になる(笑)。食べられるってありがたいな、なんて感じて。ねえ先生、たまには病院食もいいですね」(ドン小西氏)
「ドンさんのように、病院食をポジティブにとらえるという考え方、非常にいい勉強になります。ほとんどの患者さんはまずいと言いますから。でも、病院の食事はすべて栄養士さんたちが健康のためにいろんな工夫をしてお出ししているもの。食生活でも参考にしていただきたいメニューばかりです」(渡辺先生)
「そうでしょ。鰹節をうまく使って、もの足りなさを補ったりとかね。すごく参考になりました。今では自分で鰹節の大きなパックを買ってきて、バーミックスで粉々にしたカツオパウダーを作って、容器に入れておくんです。塩分を控えて、その代わりにパウダーをかける。スーパーでもコンビニでも、自然に減塩のものに目がいくし、高カロリーのものは控えるようになった。そういうことが日常的にできるようになりました」(ドン小西)
→レシピはこちら。日本心臓財団「心臓に優しいハートレシピ」:http://www.jhf.or.jp/heart_recipe/
入院をきっかけに変化したドン小西流の社交術
心臓弁膜症とその治療を経たとはいえ、ドン小西氏のパーティー好きは変わっていない。とはいえ、パーティーを楽しみながらも、体をいたわるためにちょっとした工夫を取り入れている。
「コミュニケーションは大事。仕事でもあるし、人前に出ないと人間としてダメになるような気がするんです。でも、以前のように本能のおもむくままに飲み食いするのではなく、ちょっとした“術”のようなものを身につけて、うまくやっています。例えば、このパーティーでは挨拶するだけとか、名刺交換するときだけちょっと飲むとか、優先順位をつけながらね。
ファッションもちょっと変わってきたかな。今日はタイトな服装だけど、パーティーのときは場の雰囲気に柔らかく溶け込めるような、ボリューム感のあるスタイルを取り入れるようになりまいた。スニーカーをコーディネイトするなど、ちょっと楽な雰囲気に変わっている部分はありますね」(ドン小西氏)
心臓弁膜症という病気を経験したことで、自分の体に対する考え方は大きく変わった。
「クルマで出かけようとエンジンをかけたとき、『今日はエアコンはきくかな』なんて考えないでしょ? それと同じで、心臓は何もしなくても動いて当たり前だと思っていたんですよ。でも、違うんだな。体は勝手に動いて、働いているんじゃないんです。
年をとれば何かしらの欠陥は出てきて当たり前。だけど、そういうウィークポイントを知って、うまく付き合っていくのが大事ですね。クルマはエンジンが止まったら『調子悪いかな』で済むけど、人間の体はそうはいかないから。
こういう経験をしたことで、僕らしくない言葉ですけど、『生かされている』という気持ちが強くなりました。だから、生きている間は最大限いい仕事をして、どんな環境でもベストを尽くそうと、そんな風に生きる気力みたいなものが今、すごくみなぎっています」
撮影/政川慎治 取材・文/市原淳子
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