命を守るお風呂の入り方5つのルール 入浴すると危険な時間帯は”朝”【医師監修】
寒い季節は温かいお風呂でリラックスするのが至福の時間。しかし、冬場は「浴室での死亡」が激増する季節でもある。特に、後期高齢者の75才以上はそのリスクが高まるという。お風呂で死なないために、覚えておくべき入浴法を専門家に教えてもらった。
風呂に入ってはいけない5つのタイミング
溺死、転倒にかかわらず、浴室の死亡事故が発生するのは午後6時~午前3時の間が多い。だが、東京都市大学人間科学部学部長・教授で温泉療法専門医の早坂信哉さんは「夜の時間帯に入浴する人が多いだけ」と語る。
「むしろ、風呂に入るのを避けた方がいい時間帯は『朝』。ホルモンと自律神経の影響で血圧が変化しやすいだけでなく、血中の水分量も少なくなっている。一日の中で最も浴室での事故が起きやすい時間帯だといえます」(早坂さん)
飲酒時に風呂に入ってはいけないといわれるのは、アルコールを摂取すると血管が拡張し、血圧が下がりやすいから。同様に、食後は血液が胃腸に集まっていて血圧が下がりやすいため、食べてすぐの入浴も避けてほしい。国際医療福祉大学大学院教授で、温熱医学などを専門にしている前田眞治(まさはる)さんが言う。
「食後だけでなく、空腹時の入浴も危険です。低血糖状態のときは、脳などの中枢神経がエネルギー不足なので、意識障害を起こしやすい。食事の前後30分間は入浴を控えてください。また、運動の直後も要注意。体温が上がって自律神経が乱れているため、血圧のコントロールが利きにくくなっています」(前田さん・以下同)
「40℃で10分間」ならむしろ健康になる
「命を守る入浴」には、血圧が乱高下しやすいタイミングを避けることは必須。次に重要なのは、やはり浴室や湯の温度だ。前田さんも早坂さんも、脱衣所や浴室を20℃以上に温め、リビングとの温度差を5℃以内にしておくことをすすめる。
「浴室に入ったら、まずシャワーの湯を壁や床にかけて、浴室を暖めてください。その後、手先・足先など、心臓から遠い場所からかけ湯をします。3~5回ほどかけ湯をすることで血圧が下がることが実験によってわかっています」
シャワーの温度は41~42℃程度、湯船の温度は40℃以下が適温だ。いまの時期はぬるく感じるかもしれないが、早坂さんによれば、ぬるめのお湯の方が、実際に体を温める効果は高いという。
「熱いお湯に浸からないとお風呂に入った気がしない」という場合も、まずはぬるめの湯船を。お湯に浸かったまま給湯器で1℃ずつ湯温を上げれば、血圧への影響を抑えることができる。
「体感温度の変化を緩やかにするために、脱衣所では下着や肌着などを1枚だけ残し、浴室に入ってから脱ぐことをおすすめします。そして、入浴の前はコップ1~2杯の水を必ず摂るようにしてください。ここまですれば、少なくともヒートショックはある程度防ぐことができるでしょう。さらに、湯船に入浴剤を入れると温熱効果が高まって効率よく体を温められるので、入浴時間の短縮になります」(早坂さん)
というのも、湯船に浸かるベストな時間は「10分間」だからだ。湯船の温度が41℃なら、25分ほど浸かっているだけで、体温は38℃を超え、熱中症を引き起こしかねない。だが、湯船に浸かる時間が短すぎると、免疫力や代謝を上げたり、自律神経を整えたりする入浴本来の健康効果が得られない。体にとって最も負担が少なく、メリットもしっかり享受できるのが「10分間」なのだ。
「よく“年を取って熱さに強くなった”と言う人がいますが、これはたんに、皮膚感覚が鈍くなっているだけ。高齢者ほど、自分の体感ではなく、時間を計って湯船に浸かってほしい。うっすら汗をかいてきたら体温は約1℃、玉のように汗が出ているなら、体温は約1.5℃上がっていると考えてください」(前田さん)
湯船から出たあとも注意が必要
どんなにゆっくり温まっていたくても「汗をかいたら出る」が鉄則。ヒートショックは風呂に入るときだけではなく、出るときにも起こるため、体を拭くのは浴室内で。皮膚の表面に水分が残ったままだと、気化熱で体が冷え、血圧の上昇につながるからだ。体と浴室があたたかいうちに簡単に水分をぬぐってから脱衣所に出て、細かいところは脱衣所で改めて拭くのがいい。そして、少しでも体がだるいと感じたら、湯船から上がるだけではなく、脱衣所に出ることを忘れないでほしい。
「湯船から出ることができたとしても、そのまま浴室内で倒れてしまったら、自分の体がじゃまになって浴室のドアが開かなくなる恐れがある。家族などが気づいても、助けてもらうのが遅れるかもしれません。動けるなら脱衣所に出て、水分を摂るなどの応急処置を。もちろん、立ち上がれそうにない場合は絶対に無理をしてはいけません。座ったままで湯船の栓を抜いてください」(早坂さん・以下同)
転倒のリスクを減らすためにも、湯船の近くには手すりを設置しておいた方がいい。また、シャンプーや石けんかす、溶け残った入浴剤などですべらないよう、ホームセンターなどで売っている転倒防止テープを使うのもいい。これからの時期、高齢者は特に入浴時の事故に慎重になってほしい。だが、本来湯船に浸かることは、正しく行えばいいことずくめだ。
「過去に1万4000人の高齢者を追跡した調査では、毎日湯船に浸かる人は、週に2回しか湯船に浸からない人と比べて、要介護認定になるリスクが3割も下がることがわかりました。毎日湯船に浸かることで、20年後の脳卒中や心血管疾患の発症リスクが下がるというデータもあります」
命を守り、永らえる入浴を。
「命を守る入浴」の5つの掟【まとめ】
◆浴室内・脱衣所
・温度を20℃以上に保つ。
・風呂場の床や湯船の底に転倒防止テープを張る。
・可能なら、湯船の近くに手すりを設置する。
◆時間帯
・朝、食事の前後30分間、飲酒時、スポーツの直後はできるだけ避ける。
◆入浴前
・タオルは2枚用意しておく。
・コップ1~2杯の水を飲んでおく。
・下着や肌着など、最後の1枚は風呂場の中で脱ぐ。
・床や壁にシャワーでお湯をかけて浴室を暖め、手先・足先から3~5回かけ湯をする。
◆入浴時~入浴後
・湯船の温度は40℃以下にし、できれば入浴剤を入れる。熱いお湯が好きなら、湯船に浸かった状態で少しずつ温度を上げる。
・湯船に浸かるのは10分以内にとどめ、汗ばんだら上がる。
・浴室内で体を拭いてから脱衣所に出る。
◆緊急時
・具合が悪くなったらゆっくり立ち上がり、脱衣所に出て水分を摂る。
・立ち上がれそうになければ、湯船の栓を抜く。
※女性セブン2021年11月25日号
https://josei7.com/
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