天皇陛下の御理髪掛を担当した専門家が教えるフケ対策”8つのNG”と正しい頭皮ケア
肌の乾燥が気になり始めるこの季節。頭皮のかゆみとフケが気になる人のために、対策法をご紹介。フケ専門のヘアケア商品はいろいろあるが、その効果をきちんと発揮できているだろうか? 頭皮のためにやっていたことが、実は逆効果だったら――これまでの常識を覆す頭皮ケアを、達人に教えてもらいました。
間違いだらけのフケ対策
フケやかゆみが出ているときは、とにかくスッキリさせたい。そんなとき、頭皮を刺激しながら洗えば、スーッと爽快、頭皮のかゆみも一瞬はおさまったような気がしていた。しかし…。
「強くゴシゴシ洗うことが、必ずしもフケを解消するわけではありません」と言うのは、OHBA 赤坂店スカルプディレクターの古中美どりさん。
「シャンプーの仕方を教えてもらう機会がないため、美容師さんの洗い方を見て、まねしているかたが多いのではないでしょうか。ただ、フケを防ぐには、頭皮をこすらないことがいちばん。たいていの洗い方は強すぎます」(古中さん)
同店4代目で現代表の大場隆吉さんは、2007年から10年間、当時の天皇陛下と皇太子殿下の御理髪掛(ごりはつがかり)を担当した、髪と頭皮のエキスパートだ。
「頭皮に適したケア法を20年以上かけて研究し、たどり着いたのが、頭皮に指を密着させて“触れる”ケアです。フケを撃退するには、よい頭皮を育てること。この触れ方で毎日シャンプーすると、頭皮のターンオーバーが整います。その結果、フケのみならず、髪のハリやコシも蘇ります」(大場さん)
その考え方でいくと、下記のケアはすべてNGという。
フケ対策に8つのNG!
1つでも当てはまれば、フケに逆効果。
1.シャンプー時は頭皮に爪を立てず、指先でこするように洗う
2.朝のスタイリングが楽なので、断然朝シャン派
3.コンディショナー、トリートメントは頭皮にもつける
4.熱めのシャワーで汚れをしっかり洗い流す
5.血行促進のため、頭皮をブラッシングする
6.頭皮の乾燥が気になるので、オイルをつける
7.乾燥はフケの大敵! 洗髪は3日に1回にしている
8.汚れが気になる日は、1回以上シャンプーする
まず、頭皮は血流が滞りやすく、皮脂や汗も多く敏感な部位なので、一見効きそうな感じがする1、4、5の行為は、刺激を与えすぎて頭皮が炎症を起こし、硬くなるリスクがある。
「それに、皮脂が多い頭皮に油分を与えると栄養過多になり、雑菌が繁殖してかゆみの原因になるので、3と6もNGです」(古中さん・以下同)
8のようにこまめに洗うのもダメなのだろうか?
「洗い方が問題です。濡らした髪にシャンプー剤を塗布し、泡が立つとすぐにすすぐかたが多いのですが、これだと肝心の頭皮までシャンプー剤が浸透せず、髪の表面しか洗えません。さらに、この洗い方で頻繁に洗えば髪に負担がかかります。逆に、7の場合は皮脂が残り、シャンプーだけでは簡単に落としづらくなるのです」
これは、根本からケアを見直す必要がありそうだ。
理想の頭皮の条件3つ
1.柔らかい
2.弾力がある
3.厚みがある
自分の頭皮を指の腹で軽く触れてみよう。そこから軽く押し、力を抜いたときに戻ってこない感触があれば、頭皮が健康ではないサイン。
「栄養分が豊富な土壌で、植物がすくすくと育つのと同じで、フケをなくすには健康な頭皮という土壌作りが必要です。潤っていて柔らかく、弾力のある頭皮には必然的に厚みがあります。この状態ならフケも出ず、元気な毛根が育つので、抜け毛の心配もありません。元気な土壌を作るためには頭皮を耕すような、丁寧なケアを」(古中さん)
“ゼログラム”の力加減で頭皮が柔らかくなる
頭皮を柔らかくすることで、フケ改善や薄毛対策になるという「触れるケア」とは、どんなものなのか?
「『ゼログラムタッチ』と呼んでいますが、0gの力で指の腹を頭皮に触れながら密着させ、頭皮全体を動かすことで、血流を促すケア法です。実際に計量器を使ってゼログラムタッチの感覚を体得しました」(大場さん・以下同)
なぜ、触れる程度の力で頭皮の血流が改善されるのか。
「血液を送るためにはポンプとなる筋肉が必要ですが、頭頂部には筋肉がなく、帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)という筋膜で覆われています。ここは自力で動かせないため、放っておくと血流を滞らせ、フケや薄毛などのトラブルを招きます。そこで、帽状腱膜全体をゼログラムタッチで少しずつ、丁寧に触れながら腱膜の下にある間質液の滞りを流していくのです。こすらずに触れることで血流をよくしていき、施術後には驚くほど頭皮が柔らかくなる。20年以上お客さまの頭皮に触れ続け、筋膜をほぐすことの重要さを実感しています」
イタ気持ちいい系のツボ押しやマッサージでは、逆に炎症を起こして頭皮をさらに硬くしてしまうことも。また、繊細な頭皮を傷つけてしまう“こする行為”ももってのほかだという。
この「ゼログラムタッチケア」をシャンプー時に取り入れれば、頭皮も柔らかくなり、汚れも落とせて一石二鳥だ。
また、頭皮の硬さが気になる人は1日3回、時間が空いたときに行うと、より効果的。力加減が難しいが、触れる感覚を覚えれば、やり方は至ってシンプルだ。
「指の腹で頭皮にふわりと触れてから密着させ、絶対にこすらないこと。離すときは指をふわりと離すのが鉄則です。始める前に、指を頭皮に置いたまま、密着している感覚をつかんでください(覚えたらこの工程は割愛できる)。密着したまま、円を描くように指の腹で頭皮を動かしていきます。
最初は1mmの小さな円を描くイメージで、その次は2mm、3mm…と、指の腹で動かせる限界まで広げていきます。描く円の方向は左右どちらでもOK。左の手順は初心者向けに長めに設定していますが、慣れたらすべてを3分ほどで行えます。
ただ、男性より女性の方が、指先を立てて力を入れがち。髪と頭皮が『ジョリッ』といったら強すぎです。指の腹と頭皮が密着していることを再度意識してください。慌てずゆったりと動かしてほしいのですが、忙しいと焦ってパパッと手を動かしてしまいます。ふーっと吐く息を意識しながら、呼吸を続け、その日の頭皮の状態を確かめながら行いましょう」
★ワンポイントアドバイス
皮膚に触れる寸前まで静かに指を近づけてから、指の腹でふわりと肌にタッチ。桃の皮に触れるような感覚で! 離すときも「ふわりと」を忘れずに。
これをベースに、次からのシャンプー法で、より健やかな頭皮を目指しましょう。
1日3回+シャンプー時に頭皮を育てる“ゼログラムタッチケア”
アプローチするのは、頭頂部にある【1】帽状腱膜、【2】側頭筋、【3】後頭筋の3か所。親指以外の4本の指の腹と頭皮を密着させたまま、指の腹だけを小さく動かしていく。指に力を入れず、ゆっくりと呼吸を続け、離すときは「ふわり」と離す。指の感覚が身についたら、下の【1】~【2】を3分くらいで行えるようにスピードアップを。
【1】帽状腱膜のラインに触れていく
生え際の頭皮に4本指の腹を置き、指が温まるまで動かさずに密着させる(約2分)。その状態で、指の腹だけ円を描くように動かす。約1分動かしたら少し上に指の位置をずらし、つむじまで4か所ほど移動しながら同様に、各1分ほど動かす。
【2】側頭筋のラインに触れていく
耳の上に4本指の腹を当て、【1】と同様に30秒ほど動かしていく。上にずらし、頭頂部で指が交差するところまで、4か所ほど移動しながら計2分動かす
「頭のハチの部分である帽状腱膜は、注意深く触れてください」(大場さん)
【3】後頭筋のラインに触れていく
首の後ろに4本指の腹を置き、【2】と同様に動かす。指を上にずらし、頭頂部の指が交差するところまで、同様に動かす。計4か所を2分かけて行う。
OHBA式 ゼログラムタッチシャンプー術
【1】予洗いする
38~39℃の湯を頭皮にしっかりと当たるように、汚れを洗い流す。
「前屈みでシャワーを当てていると首の血流が悪くなるので、上向きで行ってください」(古中さん・以下同)
頭全体をまんべんなく、2~3分かけて流す。
【2】頭頂部でシャンプーを泡立てる
シャンプーを手のひらと指の間に塗り込み、髪全体になじませる。横から髪に指を入れ、頭頂で指を絡ませて髪を持ち上げ、上下にゆらして空気を含ませながら泡立てる。
「きめ細かい泡を、洗う前に作っておきます」。
【3】ゼログラムタッチで洗う
ゼログラムタッチケアの手技と同じ要領で、中央、横、後ろのラインを洗っていく。目安は約3分。その後、“上向きシャワー”で2~3分かけてしっかりと洗い流す。頭皮を避けて髪にコンディショナーなどを塗布し、よく洗い流す。
【4】タオルドライ&保湿後ドライヤーで乾かす
洗ったらすぐにタオルやヘアターバンなどで頭をくるみ、水滴をタオルに吸い込ませる。乾燥が気になる人は、顔用の化粧水や刺激の少ない育毛ローションなどを頭皮に塗り込んでからドライヤーで乾かす。
「洗いから拭き取りまで、徹底的にこすらないこと。保湿は、顔のケアのついでに行うと効率がいいですね。化粧水をスプレーボトルに移し替えて吹き付けるようにすれば、まんべんなく頭皮を潤すことができます」
★ワンポイントアドバイス
頭皮の土壌作りのためには、手足など末端を温めるとより効果的だ。
「筋膜は、頭の先からつま先までつながっているので、手足の血行を促すことで頭皮も心地よく緩みます」(大場さん)
まず体のついでに頭皮も予洗いをしてから湯船につかり、手足を揉んだり、指を閉じたり開いたりした後、湯船に入ったまま上の要領でシャンプーを行うと、体も冷えずにゆっくりとゼログラムタッチを実践できる。
シャンプーは健康法の1つと心得よう
洗う前に頭の上で泡立てておくのも、このシャンプー法のユニークな点だ。
「先ほど、泡が立つとすぐにすすぐ洗い方では、髪の表面を洗うだけとお伝えしましたが、最初に泡を作ってから洗えば、シャンプーが毛穴にも届き、頭皮の余分な皮脂や角質、汚れが落ちるのです」(古中さん)
洗う時間は、夜がおすすめだ。
「朝シャンは交感神経が優位になっていますし、後の用事のことを考えていると、せわしなくなり、力も入ります。予定を済ませた夜の方が、リラックス度がまったく違います。このシャンプー法は、皆さんがこれまでやってきたものに比べて、少し時間がかかりますが、効果が出れば楽しくなってきます。20年近く続けていらっしゃるお客さまは、85才ですが髪もふさふさでトラブル知らずです。まずは、3週間、毎日根気よく続けてみてください。シャンプー剤は、お好きなものでかまいません」(大場さん)
体調不良などで洗う気になれないときは、どうしたらいいのだろうか?
「コットンに化粧水を含ませ、頭皮の汚れをやさしく拭きとってから指を頭皮に当て、動かしてみましょう。毎日少しでも頭皮に触れることが大切です」(古中さん)
頭皮の乾燥を防ぎ、新陳代謝を正常にすることで、バリア機能も蘇り、細菌に対する抵抗力もつく。血流がよくなることでフケばかりか、髪の質も上がる。これで、気分も明るくなりそうだ。
シャンプーは健康法の1つと考え、バスタイムを有意義に活用しよう。
頭皮ケアサロンOHBA 赤坂店
1882年創業、祖父の代から親子3代にわたり「天皇の理髪師」を拝命した老舗サロン。コロナ禍の頭皮トラブルにいち早く着目し、独自の触れ方によるシャンプー法を提唱。年齢・性別問わず10万件以上の頭皮ケア実績を持つ。http://ohba.ne.jp/
取材・文/佐藤有栄 イラスト/うつみちはる
※女性セブン2021年12月2日号
https://josei7.com/