『日本沈没―希望のひと―』大地震は予想より早いのか?「最愛の人を守る」でスピンオフ作品にも注目
TBS「日曜劇場」をさまざまなテーマで考察する隔週連載。前回にひきつづき、小栗旬主演『日本沈没―希望のひと―』)を、ドラマと昭和史に詳しいライター・近藤正高さんがさらに深く考察します。Paraviで配信中のスピンオフ『最愛のひと~The other side of 日本沈没~』と本編の関係についても解説。
関東沈没公表までの道のり
日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』が、選挙特番のため一週休止して、11月7日に第4話が放送された。
前話では、田所博士(香川照之)のデータ分析により、関東沈没が半年以内にも始まる可能性が高いことが判明するも、政府はその事実を国民にはひとまず伏せ、対策を秘密裡に進めることを決める。これに対し、環境省官僚の天海啓示(小栗旬)は国民の命を守ることを優先し、公表するべきだと主張。ついには週刊誌記者の椎名実梨(杏)と手を組んで、週刊誌には圧力がかかったため、同系列の新聞で大々的に報じることになる。第4話では、さらに新聞で首相の東山(仲村トオル)がこの件について会見を行うとも伝えられた。しかし、東山に会見の予定はなかった。
天海の所属する若手官僚の組織「日本未来推進会議」では、誰がマスコミにリークしたのか問題となるが、天海はしらを切りとおす。そしてここぞとばかりに、東山を説得して会見を行わせた。東山は会見で沈没の時期や確率までは明かさなかったが、発表を受けて、首都圏からの人々の脱出が始まり、株価が暴落するなど社会や経済は大きく混乱する。
未来推進会議は避難計画の策定などを急ピッチで進めることになった。それに乗じて天海は次の一手として、田所にテレビを通じて関東沈没の確率はきわめて高いと訴えさせる。国民は動揺し、政府に事実をあきらかにするよう求める声が高まった。こうした騒動のなか天海は、それまで関東沈没の公表に反対だった副総理・財務大臣の里城(石橋蓮司)をも動かし、財界の政府への全面協力を取りつけることに成功する。
脇が甘すぎる小栗旬
ただ、天海はいまひとつ、自分のしたことに対する覚悟が足りなかったような気がする。“共犯者”である椎名が官邸から呼び出しを受けたと知ると、「何かあったら俺がすべての責任を背負う」「記事を出すよう頼んだのも俺だといつでも言っていい」と言ってはいたものの、記者には取材源の秘匿という鉄則があるわけで、彼女が簡単に天海の名を出せるわけがない。実際、椎名は東山首相から直接問いただされても隠し通した。
そもそも、「すべての責任を背負う」と告げたときもそうだが、リークを疑われながら椎名と会うのは脇が甘すぎる。政府が沈没対策に本格的に乗り出してからも、天海は、出勤停止になっていた彼女と再び会って謝罪する。これが官邸の内偵に引っかかり、ひそかに写真を撮られ、東山に2人の関係が知られてしまう。激怒した東山から「私は君を信用できない」と告げられ、天海は未来推進会議から離れざるをえなくなる。
学生時代からの親友である経済産業省の常盤(松山ケンイチ)との仲にも亀裂が入る。新聞に記事が出て以来、常盤からはリークしたのはおまえじゃないかと再三訊かれたものの、否定し続けてきただけに、いざ事がバレてしまえば天海が彼を信用していなかったと受け止められてもしかたがない。天海としてみれば、将来は政界へ進出するつもりの常盤を巻き込みたくないという思いやりからだったようだが、本当に覚悟をもって椎名に情報を提供したのなら、せめて常盤にだけでもそのことを伝えておくべきではなかったか。
考えてみると、こうした天海の覚悟の足りなさが、妻の香織(比嘉愛未)から愛想を尽かされる原因にもなったのではないか。彼はたしかに妻も幼い娘の茜も愛してはいるが、おそらく仕事に打ち込むあまり、きちんと家庭に向き合わないままやりすごしてきたのだろう。
香織は、新たなパートナーである野田と一緒に茜も連れて福岡に引っ越すことを、すでに天海にも相談して決めていた。この時点ではまだ関東沈没は公表されていなかったが、天海は妻と娘のため何も言わず福岡行きを勧めたのだった。
早かった大地震
天海は、バスで旅立つ妻子を見送る際、初めて野田と対面する。野田役の俳優が筆者には一瞬、お笑いコンビ・平成ノブシコブシの吉村崇に見えたのだが、同じ芸人でも落語家の瀧川鯉斗だった(この2人、眼鏡をかけると結構似ている)。鯉斗は元暴走族の総長という異色の経歴の持ち主で、いまも講談師の神田伯山など後輩芸人から兄貴分のように慕われているが、そのキャラクターに対して今回の役はいかにもおとなしそうで、ちょっと意表を突かれた。
天海は離婚届を香織に渡し、茜にも再会を約束して別れる。2人の乗ったバスを見送ったところで、やはり同じバスで母を送り出した椎名とばったり出くわした。2人一緒に歩きながら、自分のやったことに後悔はないと負け惜しみのように言う彼に、椎名は「それでいいんですか」「天海さんが正しいと思うことをするためなら、どこででもやれることはあるはずです」と励ます。
そこへ突如として大地震が襲う。予想よりも早くその日が訪れ、果たして天海と椎名はどんな動きを見せるのか。また、おそらくまだ関東を脱出する前だったであろう2人の家族の運命は!? 物語はいよいよ佳境に入ろうとしている。
スピンオフと本編の関係
ところで、『日本沈没―希望のひと―』の放送と並行して、Paraviではスピンオフドラマ『最愛のひと~The other side of 日本沈没~』が配信中だ。こちらは、ドラマ本編と同じく関東沈没という危機を背景にしながらも、若い男女による純愛ストーリーとなっており、現在までに全6話のうち4話までが公開されている。
乃木坂46の与田祐希演じる本作の主人公は、『日本沈没』本編にも登場する居酒屋のバイト店員の山田愛。彼女は店に客として来ていた蒔田奇跡(板垣瑞生)という青年と出会ったのち、本編でも描かれた伊豆沖の無人島の沈没をきっかけに恋に落ちる。そういえば、本編の第2話で、居酒屋の常連客である天海と常盤に、愛がいきなり彼氏ができたとツーショット写真を見せる場面があった。いささか唐突な気がしたが、スピンオフを見るとそこにいたるまでにはちゃんと物語があったことがわかる。
愛は北海道出身で、現在は上京してバイトしながら専門学校で絵を学んでいる。幼い頃に両親を亡くし、兄の誠(福山翔大)と2人で育ってきた彼女は、両親が死んだのは自分のせいだとずっと思い込んでいた。誠は誠で、両親が死んだのは医者のせいだと信じ、恨み続けている。だが、愛が付き合い始めた奇跡はよりにもよって医者だった。ただでさえ妹が恋愛することに厳しい誠に、この事実はとても伝えられそうになかった。
奇跡もまた、将来は病院を継ぐよう父親に厳命され、付き合う女性についてうるさく言われていた。愛と奇跡はそんなふうにさまざまな壁を乗り越えながら心を通わせていく。そこへ関東沈没の可能性が高まり、愛は兄のいる北海道に奇跡も連れて帰ることにした。だが、出発直前になって大地震が起き、奇跡は医者としての使命感から病院に戻っていく。そこで彼が口にするセリフがいかにも死亡フラグっぽくて、心配になる。果たして、愛は無事に奇跡と再会できるのか? 本編とあわせてこちらも今後の展開が気になるところだ。
出演が告知されながら本編ではいまのところ出番のない居酒屋店主役の空気階段・鈴木もぐらも、スピンオフでは折に触れて登場。とくに4話では関東沈没の危機が迫るなか、愛に対して泣かせるセリフを口にしている。もぐらが私生活では目下、妻子と離れて暮らしていることを知っていると、そのセリフがちょっとシンクロして聞こえる。
ドラマ本編はこれまで、政府や官僚の動向を中心に話が進むがゆえ、どちらかといえば、事態を高所から眺めるように描かれてきた。だが、物語の軸となる天海と椎名が職を離れた次回以降は、もっと地に足がついた視点から、家族との関係などに焦点を当てたものになるのではないだろうか。そのなかで、スピンオフと同様、最愛の人をいかに守るかというテーマが浮上してきそうな予感を抱く。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。