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『日本沈没―希望のひと―』原発事故は本作の発想源にあるのか 軸となるのは小栗旬と杏の今後の関係   

 TBS「日曜劇場」をさまざまなテーマで考察する隔週連載。前回にひきつづき、小栗旬主演『日本沈没―希望のひと―』)を、ドラマと昭和史に詳しいライター・近藤正高さんがさらに深く考察します。

原子力発電を思い出さずにはいられない

 日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』は今月10日にスタートして以来、直近の第3話まで世帯平均視聴率は15%台(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で推移し、好調である。

 小栗旬演じる主人公・天海啓示は環境省の官僚として、CO2の排出量削減の切り札として新たなエネルギー資源を海底から採掘する「COMS(コムス)」計画を推し進めていた。だが、このプロジェクトに対し国民のあいだでは、逆に環境を破壊するとの反対もあった。そのなかで地球物理学者の田所(香川照之)が、COMSによって日本近海のプレートが大きなダメージを受け、それが原因でいずれ関東地方が沈没すると予測していた。

 天海は当初、この説を信じていなかったが、田所が関東沈没の前兆として起こると予測していた伊豆半島沖の日之島の沈没が現実化したのを境に、しだいに田所説に傾き、危機感を募らせていく。他方で、地球物理学界の権威である東大教授の世良(國村準)は、田所をともなっての潜水艇調査で関東沈没説を裏づけるデータを得ておきながら、ひそかにその改竄を指示していた。その後、天海の追及を受け、世良は改竄の事実を認めたものの、関東沈没の確率は1割と低く、その対策のために経済を停滞させることは避けねばならないと言い残し、劇中から去っていった。

 COMSはもちろん架空のプロジェクトだが、CO2削減のため建設が推進されながら、大きな厄災をもたらす可能性も有しているという意味では、どうしても原子力発電を思い出さずにはいられない。気候変動と地震活動は基本的に関係ないというのが専門家の常識だと、『日本沈没』で地震学監修を務める山岡耕春・名古屋大教授も述べているが(ドラマの公式サイト参照)、それをあえて結びつけた本作の発想源の一つには、東日本大震災により起こった福島第一原子力発電所の事故が間違いなくあったはずである。

クセのある学者を香川照之が熱演

 現実の環境問題との関係でいえば、世良教授を演じた國村準は、最近日本公開されたアメリカ映画『MINAMATA』(ジョニー・デップがプロデュースと主演を務めた)で、高度成長期に問題化した公害病のひとつである水俣病の原因企業の社長を演じていた。水俣病は有機水銀による中毒症で、化学工場の廃水に含まれるメチル水銀が海水を汚染し、その海で獲られる魚介類を食べていた住民から多数の患者が発生した。しかし、企業側はひそかに猫を使った実験でその事実を知りながらも、國村演じる社長は責任をなかなか認めようとしない。不都合な真実を隠蔽し続けるところといい、経済を優先するあまり結果的に人命を軽視する立場をとってしまうところといい、この社長と世良教授は似通っている。

『日本沈没』において世良教授は、表向きは紳士然として、当初はヒール役という感じはなかった。むしろ田所のほうが、研究者としては優秀ながら、キャラクターとしてはかなりクセが強く、むしろヒール役の趣きすらある。実際、研究費欲しさに経費を流用したために大学を追われ、その後も怪しいビジネスに関与しながら研究費を捻出している。劇中ではたびたび、うな重など高いものを食べている場面が出てくるが、そのごちそうも他人にたかったものだ。そんな田所を、クセのある人物を演じさせたらいまや右に出る者はいない香川照之が演じているのだから、視聴者の注目を集めるのは当然だろう。

小栗旬と杏の関係はどうなる?

 田所とくらべると主人公の天海はキャラクターとしてはやや弱いかもしれない。いずれは政治家を目指す野心家という設定ならば、もっとガツガツしたところを描いてもよかったような気もする。

 ともあれ、このドラマでは、天海と田所のほか政治家や財界人、「日本未来推進会議」で一緒になった官僚、また別居している妻と幼い娘など、さまざまな人物の関係を描きながら物語が展開していく。とりわけ、今後大きな軸となっていきそうなのが、杏演じる週刊誌『サンデー毎朝』記者の椎名実梨と天海の関係だ。

 これまでにも何かにつけて天海の周辺を取材して回っていた椎名は、10月24日放送の第3話において、天海と親友である経済産業省の常盤(松山ケンイチ)との会話をこっそり録音して、衝撃の事実を知ることになる。それは、すでに1年以内と予測され、政府首脳や「日本未来推進会議」に集まった官僚など一部の関係者には知らされていた関東沈没の時期が、田所のさらなるデータ分析の結果、半年以内へと早まったという事実だ。

 それを知って衝撃を受けた椎名は、報道すべきかどうか葛藤しながらも記事にまとめた。だが結局、編集長(伊集院光)に、これは誌面に載せられないと却下されてしまう。すでに編集部に対し、副総理の里城(石橋蓮司)から記事を出さないよう圧力がかかっていたのだ。

 天海もまた、人命を優先するべく、関東沈没についてすぐにでも国民に公表するよう東山首相(仲村トオル)に進言するも、パニックを避けるためにも公表するのは対策を立てたあとだとして聞き入れられなかった。

 このあと、街でたまたま椎名と遭遇した天海は、彼女も自分と同じ境遇に置かれたことを知り、ともに闘わないかと持ちかける。『毎朝新聞』の一面トップに関東沈没の可能性を伝える記事が出たのは、その翌朝のことだった。新聞報道を受け、政府首脳や官僚たちに動揺が走る。週刊誌に圧力をかけた里城も、まさか新聞で報じられるとは予想外であった。日本未来推進会議では、官房長官の長沼(杉本哲太)が、メンバーの誰かがリークしたのではないかと追及するが、名乗り出る者はいない。だが、これはあきらかに天海が椎名と手を組んで仕組んだことであった。

山崎豊子作品の匂いを感じる

 政府筋から圧力をかけられて一旦は没にされたスクープが、別媒体で報じられるパターンといえば、山崎豊子の小説で映画・ドラマ化もされた『不毛地帯』でも似たようなエピソードがあった。

『不毛地帯』の主人公は、戦時中は大本営参謀を務め、戦後はシベリア抑留を経て商社の幹部となった壹岐正という人物である。その作中、壱岐は防衛庁(現・防衛省)の次期戦闘機をめぐる商戦にかかわるなかで、自分の会社に不利益となる情報を『毎朝新聞』の記者につかまれたと知るや、有力政治家を介して記事が出ないよう手を回す。おかげで翌朝の新聞に記事は出なかったのだが、せっかくのスクープをつぶされた『毎朝』の記者・田原は、壹岐の裏工作に勘づくと、別の新聞社の記者に資料類をそっくり渡して、その日の夕刊でスクープさせたのだった。ちなみに『不毛地帯』が2009~2010年にフジテレビでドラマ化された際には、壹岐を唐沢寿明、田原を阿部サダヲが演じている。

 このエピソードにしてもそうだが、今回の『日本沈没』にはどことなく山崎豊子作品の匂いを感じる。国家の機密情報を授受する天海と椎名の関係からして、かつて日曜劇場でドラマ化もされた『運命の人』における新聞記者と外務省の女性職員の関係を彷彿とさせる。もっとも、『運命の人』の記者と職員が男女の関係を持ってしまうのに対し、天海と椎名はそのようなことにはならない。これが一昔、いや二昔ほど前のドラマ、あるいは『運命の人』のように昭和を舞台にしたドラマであれば、互いに似た立場に置かれた天海と椎名が、にわかに心を惹かれ合い、ホテルで一晩すごすという場面が挿入されていたのではないか……と、つい妄想してしまう。もちろん、2023年という近未来を舞台とするこのドラマに、そんな前時代的な展開はありえないが。

選挙で一週休み、次回11月7日が楽しみ

 なお、『日本沈没―希望のひと―』で脚本を担当する橋本裕志は、日曜劇場ではこれまでに『華麗なる一族』、前出の『運命の人』と、山崎作品の脚色も手がけている。このうち『華麗なる一族』の原作となる単行本は1973(昭和48)年4月と、小松左京の『日本沈没』(同年3月刊行)と、奇しくもほぼ同時期に出版されている。

 日曜劇場版の『華麗なる一族』は本連載でも以前紹介したように、原作が発表された昭和40年代という時代設定そのままにドラマ化したために、ロケなどで苦心したという。これに対し、今回の『日本沈没』は昭和40年代に発表された原作を、設定を現代に置き換えたところに苦労があったことだろう。だが、気候変動の問題と絡めたところといい、その点はいまのところ成功しているように思われる。次の日曜(10月31日)の放送は、総選挙特番のため休止となるが、11月7日の第4話以降の展開がいまから待ち遠しい。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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