人はなぜ”夢”を見るのか…夢って何?悪夢ほど覚えているのはなぜか【専門家解説】
「大火事の夢は吉夢」「“死の夢”は新たな人生の暗示」などといわれるが、夢には占いのような予兆があるのか? また、 夢を見る人と見ない人がいるのはなぜか? そんな謎多き「夢」について夢研究の第一人者に話を伺った。
「夢」は毎晩見ているの?
空を飛んだり、“推(お)し”と恋に落ちたり。夢の中の突飛な体験は、何かの“兆し”?
「かつて、夢は科学で解明できない神秘的な存在でしたが、この70年余りで大脳生理学、神経科学の研究が飛躍的に進みました。ですから、夢を占い的な予兆とはとらえませんが、夢に出てきた素材には理由があります」
そう語るのは、統計を利用し、夢を論理的に研究する心理学者の松田英子さんだ。
「睡眠中、脳内では日中に蓄積された膨大な情報(記憶)を整理しています。その過程で生まれるのが“夢”です。『私はまったく夢を見ない』という人も、朝起きたときに記憶に残っていないだけで、実は誰でも毎晩3~5つくらいは夢を見ています」(松田さん・以下同)
「悪夢」ほど覚えているのはなぜ?
いい夢より悪夢を覚えていることが多いのはなぜか?
「夢は心理状態と関連しているので、心配事や悩みを抱えていると、ネガティブな夢となって現れやすくなります。
私も大学生の頃、毎日見る夢の内容が気になって、夢分析の本を数冊読みましたが、解釈が腑に落ちず、モヤモヤしているうちに夢を見なくなりました。
後に、頻繁(ひんぱん)に見ていたのは進路に悩んでいた時期で、迷いが解決した途端、見なくなったことに気づきました。それで、『夢と心理的に重要な出来事には何かある、夢分析とは違う方法で夢のメカニズムを知りたい』と思い、研究の道に入ったのです」
浅い眠り”ノン睡眠”のときに「夢」を見る
睡眠にはノンレム睡眠(深い眠りから浅い眠りまで4段階)とレム睡眠の2種がある。一般的に、入眠して90分ほどでノンレム睡眠が、その後90分ほどでレム睡眠が訪れ、このサイクルが3~5回ほど繰り返されるといわれる。
「レム睡眠は、『眼球以外の体は休んでいて、脳は働いている』状態です。脳は、生まれてからこれまでに見聞きした情報(記憶)を無限に蓄積しています。
「夢」とは記憶の振り分け作業で再生される物語
脳内には図書館のように『家族』『子供時代』『会社』『恋愛』などジャンルごとのフォルダーがあり、レム睡眠の間、脳は蓄積された情報を引っ張り出して取捨選択し、各フォルダーに振り分けています。この、記憶の振り分け作業の過程で再生された物語が夢。
レム睡眠中は、頭の中の活動が活発になっているため、ストーリー性のある夢が見られるわけです。
つまり夢は、自分が体験し、脳内に蓄積した記憶の中から生まれる、いわば『私だけのドキュメンタリー映画』なのです」(松田さん・以下同)
「夢」を見ない=覚えていない理由
ノンレム睡眠に入ると夢を忘れてしまうため、目覚める直前に見る最後の夢だけを覚えていることが多く、インパクトが強い夢ほど記憶に残りやすい。なのに夢を覚えていないのは、問題だろうか?
「夢を見ない(正確には覚えていない)のは、脳内の情報処理が正常に終了したということ。精神的に安定している証拠です。生活が順調で健康な人は、夢を覚えていない(覚える必要がない)傾向があるんです」
体の緊張が緩んでいるレム睡眠のときに、夢の通りに動き回ってしまう「レム睡眠行動障害」という病気もある。
「初老期の男性に多く、暴漢をつかまえようとして壁に激突したり、大声でサッカーチームを応援していたなどの症例があります」
教えてくれた人
松田英子さん
東洋大学社会学部社会心理学科教授。博士(人文科学)、公認心理師、臨床心理士。近刊に『夢をデザインする』(朝日出版社)、最新刊に『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2021年9月9日
https://josei7.com/
●睡眠と認知症の関係を専門医が解説 深い眠りを得るために心がけたい生活習慣