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認知症の祖母が病院で骨折!悔やみきれないその理由とは?

 東京―岩手と遠距離で、認知症の母の介護している工藤広伸さん。子宮頸がんを患った祖母や父の介護経験もある。

 家族の目線で”気づいた””学んだ”数々の介護心得をブログや書籍などで公開し、リアルな実体験が役に立つと評判だ。

 当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、工藤さんの介護経験に基づいた知識や心の持ち方などをアドバイスしてもらっている。

 今回は、認知症の人の骨折について。高齢者の転倒、骨折は、注意しなければいけないことの一つだが、認知症の人の場合、特に気をつけるべきことがあるという。

 * * *

 亡くなった祖母(要介護3、当時89才)は認知症だったのですが、入院中にベッドから転落して、大腿骨を骨折してしまいました。この事をきっかけに、わたしは認知症の人の転倒・骨折について調べるようになりました。同じ過ちを認知症の母には繰り返してはならない、そんな強い気持ちを持ったからです。

 今日は認知症の人の転倒、骨折、その対策についてお話しします。

病院のベッドを自宅の布団と思い込んだ祖母

 子宮頸がんで余命半年と宣告された祖母は、子宮に大きな腫瘍があったものの、病院内を歩き回り、わたしが病院へ着替えを届けに行くと、ナースステーションで看護師さんたちと談笑しているほど、なぜか、元気でした。

 放射線治療が終わり、高齢のため外科手術は難しいと判断された祖母は、療養型病院へと転院しました。転院後、その病院のベッドから転落、大腿骨を骨折したのです。それを機に、元気だった祖母の様子は一変しました。

 転院前の病院では、ベッドを床に付くぐらいの高さまで下げ、転落事故の対策をしてくれていました。しかし、転院した療養型病院で、前の病院のベッドの高さの話をしたら、

 「当院のベッドは、これ以上は下げられません」

と言われてしまいました。

 当時のわたしは、その高さでも問題ないだろうと安易に考えていました。しかし、その妥協によって、ベッドからの転落、骨折を引き起こし、結果、次第に寝る時間が長くなり、衰弱し、亡くなったと悔やんでいます。

 祖母は、早朝、ベッドから飛び降りたのですが、なぜそんなことをしたのか…、その理由を考えたとき、祖母が89年間、ベッドではなく、布団で寝ていたことを思い出しました。

 病院を自宅と勘違いするほど、認知症が進行していた祖母にとって、目が覚めた瞬間に自分の居た場所は病院のベッドではなく、自宅の布団の中だったと思われます。

 いつものように布団から起きあがり、床に一歩踏み出すつもりだった。しかし高さのあるベッドだったため、転落して骨折したのだと。

 その後、大腿骨に大きな金属のボルトを埋め込む手術を行い無事成功しました。

 このときのエピソードは“「認知症でよかった」と介護家族が思えた2つの出来事”でも紹介しています。

 祖母目線で考えれば認知症でよかったと思えたこともあったのですが、歩くためのリハビリが始まったとき、認知症という病気の本当の怖さも思い知らされたのです。

骨折したことを忘れてしまい、リハビリが困難に

 祖母はベッドから落ちて大腿骨を骨折したことを、完全に忘れていました。そのため、リハビリをしようにも、なぜ自分がリハビリをしなくてはならないのかという目的が分からず、また、歩きたいという意志もなくなってしまったのです。

 わたしは、祖母がリハビリを頑張って、また元気に病院内を歩き回る姿を想像していました。リハビリのゴールは「歩くこと」だと信じていました。

 しかし、リハビリの目的も、歩きたいという意志もない祖母のゴールは、「歩くこと」ではなく、「車椅子」に変わってしまったのです。

 このように認知症が進行した人が骨折してしまうと、リハビリ自体が困難になることもあるのです。だから、認知症の人の転倒や骨折には、十分注意しないといけないと思います。

高齢者の骨折原因と対応策

 認知症の人だけでなく、高齢になると転倒のリスクが高まると言われています。

 国民生活センターの調査によると、65歳以上の高齢者の事故発生場所で一番多いのが「住宅」で、実に77.1%という結果が出ています。「屋外」ではないのです。

 その事故のきっかけの1位が「転倒・転落」となっており、発生場所の詳細は、居室、階段、台所、玄関の順になっています。

 具体的には、部屋にあるコードにひっかかったり、床にあった新聞や雑誌ですべったり、敷居の段差につまずいたりして、転倒や骨折をしてしまうそうです。

 階段の場合は、段差が見えない、手すりが設置されていないなどの原因で転倒、骨折をしてしまうことがあるようです。

 では、なぜ高齢者はちょっとした段差でつまずきやすくなるのでしょう?

 認知症の母をリハビリしている作業療法士の方の話によると、高齢者はつま先の筋力が低下していて、自分が思っている以上につま先を上げて歩いていないのだそうです。だから、ちょっとした家の中にある段差でつまずき、それが転倒や骨折の原因になるということでした。

 認知症の母は老化というよりも、元々持っている難病のせいで、つま先が上がらず、常につま先が垂れた状態になっています。そのため、足を高く上げて歩くことを意識しているため、室内での転倒は少ないほうです。

 それでも転倒予防はしたほうがいいということで、作業療法士の方からご紹介して頂いたのが、『転倒予防靴下』です。

 この靴下は縫い目が特殊で、靴下を履くだけで自然とつま先が上がる設計になっています。母も履いてみたら、確かにつま先が上がりました。

→関連記事:「つまずく」原因って?!何もないところで転ぶその理由と改善法を解説

 認知症の人が骨折すると、リハビリの目的が分からなくなるというリスクがあること、そして転倒は、屋外ではなく、屋内のほうがリスクが高いということを覚えておき、スロープや手すりなどの対策をしっかりしておいたほうがいいと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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