「志村が話しかけてきた気がした」高木ブーがどうしても除幕式に参列したかった理由
「アイーン」のポーズをした志村けんさんの銅像が、東村山駅の駅前に設置された。6月26日の除幕式に駆け付けた高木ブーさんは、志村さんとの久しぶりの“対面”に胸がいっぱいになったという。ドリフのメンバーを描いた画集も、志村さんのお兄さんに渡すことができた。志村さんの銅像と、どんな会話を交わしたのかを教えてくれた。(聞き手・石原壮一郎)
「志村、久しぶりだな」と声をかけることができた
「3、2、1、アイーン」の掛け声で、銅像にかけられた布が取り払われた。羽織はかまを着た志村が姿を現したときは、胸がいっぱいになったな。
去年の3月に亡くなって、コロナ禍でお別れの会もまだできていない。この日はお祝いの式典だから手は合わせなかったけど、心の中で「志村、久しぶりだな」と声をかけることができた。
志村のことは気持ちの区切りがついていなかったから、今回の除幕式はどうしても行きたかったんだよね。志村のお兄さんの知之さんも喜んでくれたし、行けてよかったよ。銅像ができたことで、志村けんもザ・ドリフターズも永久に名前が残る。あの像は、5000年ぐらいの耐久性があるらしいしね。やっぱり志村はすごいヤツだよ。
銅像の顔を見て、すごくいいなと思った。表情の雰囲気も髪の毛も、若い頃じゃなくてわりと最近だよね。記憶に新しい志村によく似てるし、しかもとっても凛々しい。じっと見てたら、「高木さん、まだまだ元気でやってくださいよ」なんて話しかけられてる気になっちゃった。
羽織はかまを着ているのは、日本の心を感じさせる姿にしようっていうのと、舞台の「志村魂」とかで津軽三味線を弾く姿がカッコよかったからだって聞いた。お正月の日劇のステージでも、ドリフみんなで羽織はかまを着て三味線を弾いたことが何度かあったな。ラフな格好にする案もあったらしいけど、こっちで正解だったと思う。アイーンのポーズと羽織はかまの組み合わせは、志村のいろんな一面を同時に表現してるんじゃないかな。
真っ先に『高木ブー画集 ドリフターズとともに』をメンバーに見てほしかった
もうひとつ、除幕式に行けてよかったのは、出来上がったばかりの『高木ブー画集 ドリフターズとともに』を志村のお兄さんに渡せたこと。ホッとしました。ドリフのメンバーを描いた絵を集めた本だから、メンバーにはいちばん先に見てほしかったからね。加藤や仲本にはもう渡して、長さんの仏壇にもお供えしてもらった。志村も今ごろ見てるかな。「高木さん、こんな顔に描くなんてひどいよ」って怒ってるかもしれない。
画集には妄想をふくらませて描いたドリフのメンバーの姿が
絵はもう30年ぐらい描いてるけど、先生について習ったわけじゃなくて、まったくの自己流です。近所の文房具屋さんで買ったマービーの100色入りのサインペンを使って、色紙に描いてる。仕事の関係者や親しい人にプレゼントするカレンダーを10年ぐらい作っていた時期があって、毎年毎年、季節に合わせた絵を描いているうちにたまっちゃった。
「全員集合」のコントの場面をモチーフにしたものもあれば、妄想をふくらませてメンバーが競馬をしたり火星に行ったりしてるのもある。本当にできたら楽しかっただろうなと思いながら、荒井さんも入れた6人ドリフで、ハワイアンを演奏している絵も描きました。加藤と志村は腰ミノとハイビスカスの髪飾りをつけて、横で踊ってる役でね。七福神の絵でも、人数が足りないから荒井さんに出てもらった。「なんだバカヤロー」って言われそうだね。
根がズボラだから、色紙の裏に描いた日付をメモしたりしてない。でも、絵を見るといつごろ描いたのかだいたいわかるんだよね。絵柄の違いもあるけど、大きな手掛かりになってくれるのが、志村の髪形。後ろで縛ってるからわりと昔かな、とか。
長さんの頭にワッカがついてる絵も、けっこう多いかな。でも、長さんが亡くなった2004(平成16)年以降に描いたとは限らない。本になることが決まってからほとんどの絵に手を加えたんだけど、そのときにワッカを付け足したのもあるから。だけど志村の頭の上には、まだワッカを描き加える気にはならないな。いなくなった実感がまだわいてきてないしね。これから少しずつわいてくるのかな。わかんない。
ドリフの画集を出すのは、長年の夢でした。たくさん描いているうちに「絵でドリフターズを残していくのは、自分の役割かもしれない」って感じ始めたんだよね。志村が銅像になってドリフを残して、ほぼ同じ時期に僕の画集が出て、ちょっと拡大解釈かもしれないけど、またメンバーで力を合わせることができたのかなって勝手に思ってます。
コロナが落ち着いて気軽に移動できるようになったら、みなさんも東村山駅の前にいる志村に会いに行ってやってください。ポーズだけじゃなくて、たぶん声に出して「アイーン」って言ってくれると思う。寂しがり屋だったから、あれこれ話しかけてあげるときっと喜ぶよ。
ブーさんからのひと言
「銅像になるなんて、やっぱり志村はすごいヤツだよね。同じ時期に僕の画集が出せて、またドリフのメンバーで力を合わせた気持ちになりました」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。6月21日に初めての画集『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)を上梓!
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
写真提供/高木ブー