高齢の親にイラッとしたときに効く対処法|親子トラブルを上手に乗り越えた4つの実例
親が年をとるほどに、増えてくるのが親子の口げんか。その原因は、「親が頑なに譲らない」「何をするのにも遅い」「いくら言っても、言うことを聞いてくれない」などさまざまだ。
つい、イラッとして文句を言ったら最後、険悪なムードになってしまうが、実はそれ、親が年をとったことだけが問題ではないという。自粛生活で接する機会も増えたいま、心穏やかに過ごすためにも、親子断絶の危機を救う秘策を探った。
親子の口論の原因を年のせいにしていませんか?
以前は仲よくしていたのに、年をとるとどうして口論が増え、親は頑固でわがままになるのか?
「確かに、誰しも年をとることにより、『体が動かなくなる』『目が見えづらい』など、以前と同じようにできないことが増え、それに伴い、イライラすることも増えていきます。ただ、親子の日常的な口論の原因は、子供が『親が年をとったから』と、年のせいにしてしまうことから起こることが多いんです」
そう力説するのは、高齢者を多く診てきた眼科医の平松類さん。
「たとえば、親が何か物忘れをすると、子供は『もしかして認知症?』と、老いを疑います。また高齢の親に対して、幼児に対して使うような言葉で話す人もいます。これは失礼な話で、親からすれば『バカにして!』と不快になる。親の性格は70~80代になっても、大抵50代の頃と変わりません。敬意をもって話すことも大切です」(平松さん)
親のイライラは子供側にも原因が…
高齢者事情に詳しいライターで、老年学研究者の島影真奈美さんも平松さんと同様、「親の行動にイラッとするのは、子供側の行動にも問題がある」と指摘する。
「親の家が散らかっていると、『片づけなさいよ!』と、子供が怒るケースもよくあるのですが、親にしてみれば『どこに何を置こうが私の勝手でしょ?』と、カチンときてしまう。
もし、親が自分の家に来て、『こんなに散らかして!』などとガミガミ言い始めたら、『なんでそんなこと言われなきゃいけないの!』と頭にきますよね? 親子で口論になる場合、『そんな言い方をされる覚えはない』という、“言い方”の問題でもめることが少なくありません」(島影さん・以下同)
近い間柄だけに、遠慮なく本音を言いがちだが、親子だからこその工夫は必要なのだ。
「親との関係が良好な人ほど親の行動にイラッとしがち。自分が親の面倒を見なくてはと、責任感が強く、『自分がなんとかしなきゃ!』と考えているからこそ、つい、親に強い態度で接してしまうんです」
以下で、具体的な実例をもとに親とのトラブルを上手に解消した成功例を見ていこう。
高齢の親と上手につきあう4つの秘策【実例】
顔を見ればけんかするような間柄でも、言い方ひとつで相手の態度は変わってくる。親子のトラブルを上手に乗り越えた実体験を紹介。専門家の解説付きでお届けする。
【1】否定をやめて自尊心を傷つけずに説得
近所でひとり暮らしをしている母(79才)は、シンプルな家に住みたいと常に片付けをしています。でも、なんでも天井に吊るす癖があるんです。
ある日、母を訪ねると、亡くなった祖父と父の写真を並べて天井から吊るしていました。日本家屋ならまだしも、母は白壁のマンションに住んでいます。「おかしいからやめて!」と言ったのですが、聞いてくれませんでした。
その日は説得を断念し、一晩考えて、翌日お茶を飲みながら、「お母さん、この写真、まるで北の将軍さまみたいだね」と言ったら、「それは変だわ!」と言って、下ろしてくれました。(50才・会社員)
【解説】
「否定をやめて、“変だ”と思うような例を出したことで、お母さんの自尊心を傷つけずに説得できたのでは」(日本老年医学会専門医・榎本睦郎さん)
【2】スマートスピーカーがよい味方に
音声だけでリモート操作できるスマートスピーカーの『アマゾンエコー』を購入。父(88才)には嫌な顔をされましたが、私が「アレクサ、○○して」と声をかけるたびに、“アレクサ”がなんでも答えてくれるのを見ていた父は、すっかり気に入ったようで、いくら言ってもやらなかった体操を、アレクサでラジオ体操の音楽を流しながら、ご機嫌でやるようになりました。(55才・自営業)
【解説】
「音声だけで反応して、あれこれやってくれるスマートスピーカーはデジタルに慣れていない高齢者もとっつきやすい。繰り返し質問しても文句を言わないのでよい味方になりそう」(老年学研究者・島影さん)
【3】食事は親の好物を柔軟に出す
食べたいものがコロコロと変わる母(79才)。朝食にトーストを用意したら、「おかゆがいい」と言ったので、次の日はおかゆに。すると、「朝食はトーストにカリカリベーコンを添えた目玉焼きがいい」と言い出す始末。
それで、朝がおかゆのときは、昼をトーストと目玉焼きとベーコンに。その次の日は朝と昼を逆にするようにしていたら、黙って食べてくれるようになりました。(43才・パート)
【解説】
「高齢になって低栄養にならないためにも、食べてくれそうな好物のものを柔軟に出すのがいいですね。“なんでもおいしく食べてくれてありがたいわ”と言うと、さらに効果的です」(医師、医学博士・平松さん)
【4】薬をサプリに変えてみたら…
うちの父(88才)は薬がないと不安になるタイプ。ある日、薬を出してみたら、下痢止めと便秘改善薬を両方のんでいることが判明。下痢止めはかかりつけ医に、便秘改善薬は違う胃腸科の先生から処方されていたんです。
それで、父に黙ってかかりつけ医に相談して両方やめることにしました。すると、「おれの薬がない!」と大騒ぎに。そこで先生にまた相談し、ビタミン剤を処方してもらったら父は安心して、毎日、のんでいます。(60才・パート)
【解説】
「高齢期は薬の量が増え、“多剤服用”になりやすく、副作用などのトラブルを招く原因に。ただ、むやみに薬を減らすと不安感をあおりかねません。医師や薬剤師と相談しつつ定期的に確認を」(島影さん)
教えてくれた人
■榎本睦郎さん/日本老年医学会専門医 榎本内科クリニック院長高齢者を中心に地域医療に励む。著書に『老いた親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)ほか。
■平松類さん/医師・医学博士 眼科医。のべ10万人以上の高齢者と接してきており、シニア世代の症状や悩みに精通。著書に『老人の取扱説明書』(SB新書)ほか。
■島影真奈美さん/老年学研究者 ライター・編集者。夫の両親との別居介護の経験をもとにもめない介護にまつわる情報を執筆。著書に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)。
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/はまさきはるこ
※女性セブン2021年6月10日号