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「志村の弟子で、僕のウクレレの生徒が書いた『我が師・志村けん』を読んで」高木ブー【連載 第39回】

 志村けんさんの突然の訃報から、もうすぐ1年。追悼番組での「志村は死なないの」という高木ブーさんの言葉は、大きな感動を呼んだ。志村さんの弟子である乾き亭げそ太郎さんが書いた話題の本『我が師・志村けん』には、志村さんの知られざる一面が描かれている。ウクレレの師匠として登場する高木さんは、この本をどう読んだか。(聞き手・石原壮一郎)

志村の声が聞こえてくる気がする

 もうすぐ1年か、早いよね。去年の3月に志村の訃報を聞いたときには、まさか1年後もコロナが収まってないなんて思ってなかった。追悼番組で言ったように、もちろん今も、僕の中では志村は生きてます。たぶん加藤(茶)や仲本(工事)も、同じ気持ちじゃないかな。

 乾き亭げそ太郎っていう変わった名前の芸人がいて、20年ぐらい前まで志村の付き人を7年間やってた。今は故郷の鹿児島のテレビ番組でリポーターやイベントの司会をしたりしてがんばってる。その彼が、このあいだ『我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと』(集英社インターナショナル)っていう本を出した。

我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと

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 付き人時代のことや、彼から見た志村について書いてある。僕が読んでも「へえー、志村ってそんなこと考えたのか」「やっぱりあいつは、すごいヤツだったな」なんて思って、なかなか面白かった。読んでると、志村の声が聞こえてくるみたいな気がするしね。

 本には僕のこともけっこう出てくる。彼が志村の付き人をやめてすぐの頃、僕が麻布十番に出してたバーでしばらくアルバイトをしてくれてた。そこでやってたウクレレ教室の生徒でもあったから、「僕のお笑いの師匠は志村さんですが、ウクレレの師匠はブーさんなのです」なんて書いてあるんだよね。

 去年の秋に、彼の地元のテレビ局の番組で「東京のゆかりの人や場所を訪ねる」みたいな企画があって、僕のところにも来てくれた。今でも営業に行ったときは、たまにウクレレを弾くこともあるらしい。ウクレレを習い始めたときは「楽器は初めてです」って言ってて、初歩的なコードを押さえるのも苦労してたけどね。教え方がよかったのかな。アハハ。

 本の中に、こんなエピソードが出てくる。「ドリフ大爆笑」の収録のとき、志村に「ちょっと歩いてみろ」って突然言われた。でも、カメラの前で歩くのは初めてだったから、緊張してまともに歩けない。そしたら志村が、こう言った。

「世間のヤツらが高木(ブー)さんのことを『何もできない』とよく言ってるけど、普通に歩くのがどれだけ難しいことか。それをわかってない連中が多いんだよな」

 もっとほかにホメるところはなかったのかとは思ったけど、弟子とそんな話をしていたっていうのは、テレ臭いけど嬉しいよね。

 げそ太郎は、そのときはよくわからなかったけど、今考えてみると「今後ドリフのコントを見るときは俺だけじゃなく、ほかのメンバーがどう動いているのか、そこもよく見ておけよ」という教えだったのかもしれないと思ったそうだ。

 志村は普段はものすごくシャイで、弟子に対してストレートに「ここをこうしろ」と言うタイプじゃない。もしかしたら、そういう意図があったかもしれないな。ただ、僕としてはコントのときに「普通に歩こう」と意識してたわけじゃなくて、ほかのメンバーにくっついて動いてただけなんだけどね。

 彼が「乾き亭げそ太郎」っていう芸名になったのは、いつ頃か僕は覚えてなかったんだけど、本によると2004年のことだった。志村の付き人をやめて、そのあとに組んでたコンビを解散してひとりでやることを決めたときに、先輩芸人たちがノリで付けたらしい。

 そのあと、僕のところにも「今度、こういう名前でやることになりました」って報告に来た。だけど、あまりにも個性的な名前だから、僕は賛成じゃなかったんだよね。「新しい名前を考えてやる」って言って、「ウクレレボーヤがいいよ」って勧めたんだけど、もう事務所に報告したのでとか何とか言ってスルーされちゃった。

 まあでも、一度聞いたら忘れないし、名前だけで「プッ」と吹き出しちゃうから、「乾き亭げそ太郎」でよかったんじゃないかな。何年か前に彼が出る鹿児島のイベントに呼ばれて行ったことがあるけど、地元では番組をいくつもかけ持ちしている人気者で、会場から「げそちゃーん」なんて声が上がってた。たいしたもんだよ。

 志村の命日の前日にあたる3月28日に放送される『春だ!ドリフだ!みんな集まれ全員集合!』(フジテレビ系、午後7時~9時54分)では、局の垣根を超えて、志村が出てる「8時だョ!全員集合」のコントや合唱隊の場面もたっぷり放送されます。ぜひ、思いっ切り笑ってください。空の上にいる志村も長さんも、それがいちばん嬉しいはずだから。

「志村が僕のことをホメてたことを弟子の乾き亭げそ太郎が書いた本で知りました。テレ臭いけど嬉しいです。あいつはやっぱりすごいヤツだったなあ」

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高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」( イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評!  

LET IT BOO

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。3月25日に最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が発売。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

●高木ブー悲嘆「志村へ。そしてドリフターズ時代のこと」

●高木ブーが公開!“6人”のドリフ写真と志村さん、荒井注さんの珍道中【連載 第19回】

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