健康

沈黙の臓器「肝臓」を知る!飲酒しない女性がかかる肝臓の病気は?恐怖…肝硬変の実例も

 心臓、胃、腸が自分の体のどのへんにあるのか知っている人は多いだろう。しかし、肝臓の場所はわかるだろうか? 日本人にとっては存在感の薄い肝臓だが、海外では「肝活」が大ブーム。飲む量も食べる量も増える年末年始のこれからのシーズン、沈黙の臓器の謎を探ってみよう。

欧米では腸より肝臓の方が重要という考え方が主流

 近年、国内では「腸活」が大ブームになっている。しかし、海外に目を向けると、「腸活」よりも肝臓を意識した「肝活」の方が盛んだという。

「欧米では腸より肝臓の方が重要という考えで、ドラッグストアにはさまざまな種類の“レバーサプリメント”が並んでいます。肝機能を強化するというサプリですが、日本ではほとんど見かけません」(アメリカ在住記者)

 肝臓は昔から大事な臓器だと考えられ、「肝心要」「肝を冷やす」「肝に銘ずる」など、「肝」にまつわる慣用句はたくさんある。それにもかかわらず、現代の日本人にとって肝臓の優先順位は決して高くない。肝臓専門医の浅部伸一さんが警鐘を鳴らす。

「肝臓はほかの臓器と比べてかなり“予備の能力”があり、たとえば半分を手術で切除しても、命に別状はないことが多いのです。脂肪肝になっていても、症状が出ない人がほとんど。そのため、なかなか関心を持つ機会がない。症状が進んで異変を自覚するレベルになったときは、手遅れの可能性が高いのです」(浅部さん)

沈黙の臓器だが、体内いち多忙な臓器

 症状が表れにくいことから「沈黙の臓器」と呼ばれている。心臓や胃腸と比べ、肝臓の場所がわからないという人も多いのではないだろうか。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが解説する。

「肝臓は体の右側、お腹と胸の間あたりにあり、肋骨の陰に隠れています。肋骨の下あたりを押すと、柔らかくへこみますが、そこが肝臓の下縁の部分です。肝臓は悪くなると腫れてきますが、自分で触ってもわからないでしょう。重さは1~1.5kg。人の体で最も重い臓器だといわれています」(岡田さん)

 お酒を飲みすぎたときや、健康診断の数値程度しか意識することがない肝臓。実は、体内いち多忙な臓器であることは、あまり知られていない。

肝臓の働きを解説

 肝臓には大きく4つの働きがある。岡田さんが続ける。

「生命維持に必要な酵素や栄養素を作るのが、肝臓の役割の1つです。嫌われ者のコレステロールや中性脂肪も体にとっては不可欠な栄養素。肝臓で作られ、血液にのって全身の細胞に届けられます」

 さらに、人の体を動かすエネルギーとなるグリコーゲンが貯蔵されるのも肝臓だ。肝臓が壊れるとエネルギーをためることができなくなり、スタミナ切れを起こして疲れやすくなる。

「脂肪を消化するために必要な胆汁も作られています。肝臓が悪くなり胆汁が出なくなると、脂肪が吸収できないので下痢になり、最後は栄養を摂れなくなって死につながります」(岡田さん・以下同)

 肝臓の役割として最も有名なのが解毒作用だろう。アルコールや薬剤など、体内に取り込まれた異物や毒物を分解して排出する。

「お酒は肝臓で分解され、最終的に水と炭酸ガスになります。日本人が欧米人に比べてお酒に弱いといわれるのは、肝臓にあるお酒を分解する酵素が生まれつき少ない人が多いからです。酵素が多いほど、スムーズに分解してくれるので酔っ払いにくいのです」

 あらゆる化学反応の場となる肝臓を「人体の化学工場」と表現する浅部さんは、近年注目されている肝臓と腸内環境の関係についてこう話す。

「胆汁は食べ物を食べたときに十二指腸に分泌されて脂肪の分解を補助します。さらに、胆汁の分泌が腸内細菌の数や活動にも深く関与していることが最近わかってきました。つまり、肝臓の機能が低下すると、腸内細菌のバランスも乱れるということです」

肝硬変が怖い! 最終段階に進行すると1年以内に半数が亡くなる

 肝臓の病気で最も心配なのが「肝硬変」だ。肝炎ウイルスへの感染、飲酒、栄養の過剰摂取などによって慢性肝炎や肝障害が進行し、肝臓が繊維化して硬くなった状態をいう。

「肝硬変になると、本来の肝臓の機能を果たすことは困難になります。肝硬変の進行度は、A~Cの3段階で評価され、A段階なら原因を改善するよう努めて治療すれば日常生活はほぼ問題なく過ごせます。逆に、かなり進行したC段階になると、コレステロール値の異常、糖尿病、脳症、感染症、多量出血、筋肉の衰えなど複数の症状を併発して、1年以内に半数程度が亡くなるといわれています」(浅部さん)

女性がかかりやい肝臓の病とは?

 脂肪肝が肝硬変へと進行する可能性もある。消化器内科医師の中川頒子(しょうこ)さんは、「50代以降の女性は、脂肪肝のリスクが高くなる」と指摘する。

「肝臓を悪くするのは大酒飲みのイメージがありますが、お酒を飲まない人が肝障害を起こす『NASH(非アルコール性脂肪肝炎)』という病気が増えています

 エストロゲンの分泌量が減ってホルモンバランスが崩れる更年期以降にNASHになるリスクが高くなり、そこから肝硬変に至る可能性がある。肝硬変の末期は、体中がむくみ、腹水が出てお腹が張ってくる。足も腫れて、想像を絶する苦しい最期になります」

 女性がかかりやすい肝臓の病気として、「原発性胆汁性胆管炎」というものもある。浅部さんが説明する。

「肝臓と十二指腸をつなぎ、胆汁の通り道となる『胆管』が炎症を起こす病気で、難病指定されています。患者は閉経した中年以降の女性に多く、皮膚のかゆみ、骨粗しょう症の進行などが心配されます。薬が効けば悪化を防げますが、長く服用し続ける必要があります」

 胃や腸と肝臓が違う点として、すべての血液が流れ込んでいることが挙げられる。そのため、肝臓は“病気のデパート”とも呼ばれる。

「血液が流れ込むということは、血液中の毒素にさらされやすいということ。さらにリンパ管も通っているので、胃がんや大腸がん、子宮がんなどが転移しやすい。体内のあらゆる臓器と連携している肝臓は、体のリスクを一手に引き受けている部位でもあるのです」(岡田さん)

 肝臓の健康を知るには、まずは血液検査だ。疲れやすさなど体調の異変を感じたときは、医師に相談して検査しよう。

まとめ

●肝臓の病気は症状に気付きにくい。自覚する頃には手遅れの場合も

●肝硬変の進行度3段階A~CのA段階ならば、生活の改善と治療で日常生活を問題なく送れる

●C段階まで進行すると、一年以内に半数程度が亡くなる

●肝硬変末期は、想像を想像絶する苦しみに

●50代以上の女性は、脂肪肝のリスクが高く、飲酒しないのに肝障害を起こす『NASH(非アルコール性脂肪肝炎)』が増える

●女性は、原発性胆汁性胆管炎にも注意

●肝臓の健康を知るには、まず血液検査を!

教えてくれた人

肝臓専門医の浅部伸一さん、新潟大学名誉教授の岡田正彦さん、消化器内科医師の中川頒子さん

※女性セブン2021年1月1日号
https://josei7.com/

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