脳卒中のリハビリ後の課題 「ふたたび、運転席へ」を支援
高次脳機能障害の治療およびリハビリを終えた人にとって、次なる課題は車の運転再開である。とくに地方部では、車がなければ通院や買い物も困る地域も。ホンダでは2011年から、運転復帰プログラムで「移動の自由」をサポートしている。
道路交通法改正で運転者の適性検査が厳格化
2013年6月に道路交通法が改正され、脳卒中、認知症などを含む一定の病気に該当する運転者は臨時適正検査を受けることが厳格化された。
「これを受けて、たとえば脳卒中のリハビリを終えた人が運転再開を望む場合、医療現場で高次脳機能障害が残っていないか、残っていても運転に支障がないか検査・確認した上で、運転能力を調べ、運転免許センターが検査して運転再開の可否を判断する…という流れになっています」
そう説明するのは、本田技研工業 安全運転普及本部 開発普及課チーフの塚本末幸さん。ホンダは創業者である本田宗一郎さんの「われわれは、人の命を預かる車をつくっている。お客さまの安全を守る活動は、一生懸命やるのが当たり前」という理念のもと、“事故ゼロ”のモビリティ社会を目指して、1970年に安全運転普及本部を設立。
以来、交通教育センターを拠点にした安全運転教育や、障害者が自分で運転する自操車両の開発など、安全運転支援活動を続けている。
運転に支障があるかどうか判断する基準がなかった
「しかし、『運転に支障があるか、ないか』を判断する明確な基準がなく、医療現場では苦慮していたんですね。そこで2011年からリハビリテーション向け『運転能力評価サポートソフト(以下、サポートソフト)』と、実車による自操安全運転プログラムをご提供しています」(塚本さん)
サポートソフトでは、付属のペダルやハンドルを利用し、反応の速さや正確さなどを測定する。シミュレーション上の運転コースは、難易度に応じてさまざまな運転環境を用意。
現在、サポートソフトは全国150か所の病院やリハビリ施設が導入。
近森リハビリテーション病院(高知県高知市)の作業療法科科長補佐の矢野勇介さんは、「患者様に体験していただくと、どの方向に注意が向いていないかなどの傾向が掴みやすくなり、従来のリハビリ訓練と組み合わせたことで、注意障害の症状が改善したかたもいます」と評価する。運転は五感を同時に駆使する。頭で考え、手と足を同時に動かすトレーニングとしても活用している。
「とくに男性のかたは、リハビリへのモチベーションアップにもつながっているようです」(矢野さん)
「車を買ったんじゃない 人生を買ったんだ」
「実車安全運転サポートプログラム」は現在、ホンダの交通教育センター7か所と、青森、長野、沖縄の自動車教習所で受講が可能だ。地域の自動車教習所へノウハウを提供することで、運転再開希望者が、近隣地域でも受講できるようにすることが狙いだ。今後、さらなる広がりが期待されている。
自操安全運転プログラムでは、「走る」「曲がる」「止まる」といった基本行動を、実車走行で体験。運転操作・感覚を把握できる内容になっている。また、病院や福祉施設で送迎を担うドライバーを対象にした「移送安全運転教育プログラム」も提供している。
「『自由な移動の喜び』と『豊かで持続可能な社会』の実現、これがホンダの環境安全ビジョンです。
車両については、乗って楽しい車づくりとともに、体に障害のあるかたがたが“自立”と“自由”を確立するツールとして、足だけ、手だけで運転できる自操車を30年以上前からご提供しています。
とくに足だけで操作可能な『フランツシステム』を搭載した福祉車両は、現在国内ではホンダにしかありません。1台1台、オーダーメードで製造させていただいています」(塚本さん)
そして事故ゼロを目指す安全運転の普及。
「都市部に暮らしていれば移動の心配はないかもしれませんが、地域によっては、車が唯一の移動手段というケースも多く、安全な運転再開への支援は、車メーカーとしての責務だと考えています」(塚本さん)
車を買ったんじゃない。人生を買ったんだ──「ホンダさん、勘違いしないでね」と、塚本さんは言われたことがあるそうだ。
そんな、車と生きるすべてのドライバーのために、ホンダの地道な取り組みは続く。
【問い合わせ】
本田技研工業 安全運転普及本部
電話:03-5412-1736
URL:http://www.honda.co.jp/safetyinfo/
※女性セブン2017年9月7日号