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海外の知見を活かした運営で評判の介護付有料老人ホーム【まとめ】

 オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。

 先進的な取り組みを行い、中国などこれから高齢化を迎える国からの視察を受けいれている施設も増えてきているが、海外から学べることもまだ多いようだ。実際に福祉先進国と言われるデンマークやスウェーデンの介護方法や哲学を取り入れているところも。そこで今回は、海外の知見を活かした運営を行っている介護付有料老人ホームの取り組みを紹介する。

 * * *

福祉先進国デンマークの理念を取り入れた介護付き有料老人ホーム「デンマークINN深大寺」

(1)本人の意思尊重(2)残存能力の活用(3)生活の持続性。これは高齢者福祉先進国であるデンマークで1982年に作られた高齢者福祉3原則だ。「デンマークINN深大寺」はその名の通り、実際にデンマークへの視察を重ね、その哲学を取り入れて設立・運営されているという。運営する社会福祉法人新樹会は特定医療法人研精会グループの一員。研精会を作った山田禎一氏は1957年の精神科病院開設以来、医療・福祉の分野で多大な功績を残しており、その哲学がしっかりと引き継がれてきた。

 デンマークINN深大寺の立ち上げにも関わったデンマークINN深大寺の施設長・山本隆子さんは看護師。自身の専門性も活かしながら責任者を務める山本さんに、デンマークの高齢者福祉3原則の1つである“残存能力の活用”などについて聞いた。

「デンマークではご入居者に合わせて、職員がゆっくりと待つそうです。全く同じことをすると、日本では面倒をみてくれない、ほったらかしだと思われてしまう可能性もありますが、こちらでも残存能力の活用を意識して、ご入居者自身ができることはなるべく見守りながら援助しています。食事の介助の時も、ご自身でできることはやっていただいています。そうすることで、ご自身の能力を維持・活用できるようになります。ご本人がお疲れになってしまったら様子を見ながらお手伝いをしますが、効率を良くするために職員のペースで食べていただくようなことはしません」(デンマークINN深大寺施設長の山本さん 以下「」は山本さん)

 高齢者福祉3原則の1つである「本人の意思尊重」。日本の介護現場でも少しずつ浸透してきているが、これまでは、入居者本人が入居する老人ホームを選んだり、入居後の生活のあれこれを自分で決めることが難しいことが多かった。しかし、ここでは開設当初から小さなことでもできるだけ本人や家族の意思を尊重してきたという。例えば、生活用品を買う時も、施設職員主導ではなく、必ず、入居者の希望を聞き、家族に連絡、決定しているという。

「ご家族のお気持ちにも添うように連絡を密にして、ご意見を伺っています。どんなに小さなことでもご家族にまず相談しているので、トラブルなどはほとんどないですね」

 デンマークで提唱された高齢者福祉3原則を取り入れ、精神科の病院を母体として実績を積み重ねてきたデンマークINN深大寺。理念に基づいた温かく丁寧なケアが評判で、介護施設の各種ランキングで上位に選出されることも多いそうだ。空室が出ると、入居者家族の紹介ですぐに契約者が決まるのも納得できる。

→福祉先進国デンマークの理念を取り入れた介護付き有料老人ホーム<前編>
→デンマークの福祉理念を実践、病院が母体の介護付き有料老人ホーム<後編>

米国仕込み!リハビリに力を入れる介護付有料老人ホーム「サンライズ・ヴィラ西葛西」

 東京、神奈川、埼玉で22の介護付有料老人ホームを運営するライクケアネクスト株式会社。ここには「ご入居者全員にリハビリの機会を」という考えのもと、理学療法士の三田地敏希さんが常勤している。三田地さんは病院勤務を経てアメリカに留学し、PNFという手法を学び、高齢者のリハビリに活かしているという。

「アメリカのカイザー病院に留学してPNFを学んできました。PNFはポリオ後遺症患者に対するリハビリテーションから始まり、脳梗塞や脊髄損傷のリハビリ、スポーツ障害などで使われてきました。プロ野球選手やプロゴルファーなど、スポーツ選手も取り入れています。PNFは3次元的な動きをすることが特徴で、一つの箇所に負担がかからないので、高齢者のリハビリにも向いています」(三田地さん)

 理学療法士が常駐しているメリットの一つは、入居者の日々の変化を把握できること。三田地さんはリハビリが始まる前に一人ひとりの部屋を訪ねて、ベッドから車椅子への移乗を手伝うなどして、身体の状況や体調を確認しているという。

「リハビリの場に来ていただくための工夫もしています。ただ『リハビリが始まりますよ』と声がけをするのではなく、お一人おひとりに合わせたお話をして、モチベーションを高めることを心がけています。リハビリに取り組む意欲を持っていただけるように、介護職と効果的な声がけの方法を共有しています」(三田地さん)

 入居者の心を三田地さんがほぐしていくことで、リハビリに消極的だった人も楽しみながら参加するようになってきたという。どんなに高い技術を持っている理学療法士がいたとしても、入居者が信頼し、楽しいと思わなければリハビリは続かず、意味がなくなってしまう。

「理学療法士の三田地と施設長の和氣のコンビはいい組み合わせだと自負しています。施設長の和氣は生きるモチベーションを上げるためのレクリエーションに特化し、理学療法士の三田地は身体を動かすためのモチベーションを上げています。大事にしていることは、高齢者の気持ちに寄り添って、生きていくための気持ちを高めていくことです」(ライクケアネクスト株式会社営業部部長の蟹江望世さん)

→施設長はレクの専門家!笑顔が溢れる介護付有料老人ホーム<前編>
→米国仕込み!リハビリに力を入れる介護付有料老人ホーム<後編>

イギリスの「パーソン・センタード・ケア」に基づいた認知症ケアを導入している介護付有料老人ホーム「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ l」

 東急田園都市線「たまプラーザ」駅北口より徒歩13分。ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジl、ll、lllが見えてくる。広大な敷地に3棟が建ち、それぞれが特徴を持ちながら、一体で運営されている。今回主に紹介するビレッジlは介護型、llとlllは自立型だ。自立型のll、lllに入居し、介護が必要になった場合にlに移り住むことができる。慣れ親しんだ場の中での引っ越しで、スタッフや入居者も顔見知りで安心感がある。実際に移り住んだ入居者もいて、口コミで評判が広がっているという。

 ここでは「パーソン・センタード・ケア」というイギリスで提唱された考え方に基づいて認知症ケアを行っている。認知症によって起こる行動は人それぞれで、ケアスタッフは表面的に行動を見るのではなく、本人の望んでいることと自分たちにできるサポートを探りながら工夫を行う。そのためにはまず人格を尊重し、声にならないメッセージを受け止める必要があるという。

「特に認知症をお持ちのご入居者の場合は、言葉での表現や行動でご自身の望みを示すことが難しく、ケアスタッフもご本人が真に望んでいることを探りきれないことがあります。当社では、周囲の関わりやサポートによってご本人のより良い時間を増やすヒントを見つけるために、認知症ケアマッピング(Dementia Care Mapping=DCM)という行動観察手法を取り入れています。まさに地図を作るように、5分毎にご入居者の様子を観察・記録し、チームでのケアの検討に活かしていきます」(ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ l支配人の岩佐茂さん)

「パーソン・センタード・ケア」を実現するために、有資格者のスタッフが「介護マップ」を作成する。手間と時間をかけて、入居者の行動、感情の動きを記録していくのだ。

 たとえば──
「一人うつむいて険しい表情の時間が続いたが、スタッフが言葉をかけたことをきっかけに、その後やさしい表情になった」
「入居者同士で言葉を交わしたら少し不安な様子になったが、スタッフが同席できるようになってから徐々に表情が戻っていった」
など入居者の様子を連続的に観察し、スタッフが関わっていない時間も含めて、一連の変化をグラフも用いて記録していく。その記録を読み解き、ケアのヒントを得ていくという。

 また、「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ l」は、介護の先進国といわれるデンマークの高齢者住宅も参考にしているという。介護保険が導入される以前より現地に視察に行き、その後も継続して訪れているそうだ。「ヒルデモア」という名前は、デンマークの童話作家・アンデルセンの作品に登場する「ニワトコの木に住む妖精」が由来となっている。

→「終の住処」を追求する介護付有料老人ホーム<前編>
→「終の住処」を追求する介護付有料老人ホーム<前編>

 いかがだっただろうか。海外の実績ある介護方法や哲学を日本に合わせた形で導入しているそれぞれの施設。施設を探す際にどの国の福祉を参考に運営をしているのかをチェックしてみるのも良さそうだ。

撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ

※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。

→このシリーズのバックナンバーを見る

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