【認知症予防】記憶のメカニズム「記銘」「貯蔵」「検索」を解説
齢60を超えると、体の様々な場所が悲鳴を上げ始めるが、「脳」も例外ではない。「あれ、アイツの名前が出てこない」「何を買いに来たんだっけ?」──若い頃なら考えもしなかった物忘れに「いつか認知症になるのでは」と怯える向きもあるだろう。一方で、いくら歳を重ねても全く記憶力が衰えない人を羨ましく感じた経験もあるのではないか。その差はどこから生まれるのか。
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10年後には1000万人を超える「認知症社会」の到来!?
「穏やかで充実した老後を送りたい」―─これは誰もが持つ願いだろう。しかしそんな理想の余生を根底から覆しかねないのが「認知症」リスクである。
いまや予備群も含めると860万人(12年)、65歳以上の4人に1人が認知症とされる時代である(厚労省推計)。10年後には1000万人を超える「認知症社会」の到来も予見されており、多くの中高年が、程度の差こそあれ「自分も認知症になるのではないか」という不安と戦っている。
健康食品を取り扱う株式会社エバーライフの年齢研究所の「年齢と老化に関する意識調査」(30~60代の男女2000人対象)によれば、「老化を原因とする自覚症状」として「物忘れ」を挙げた人は、60代の62.8%に上る。「アレだよ、アレ…」の回数が増え、ふとしたことが思い出せないという人は少なくないだろう。
3段階で構成される「記憶」のメカニズムを解説
そもそも「記憶」とは、どのようなメカニズムになっているのか。横浜新都市脳神経外科病院内科認知症診断センター部長の眞鍋雄太医師によれば、人間の記憶は分かりやすくいえば「1:記銘」「2:貯蔵」「3:検索」という3段階で構成されているという。
「情報はまず脳の中心部に位置する『海馬』という場所に一時的に保存されます(記銘)。そこで1時間から1か月程度かけて必要な情報と不必要な情報に選別し、必要な情報を大脳皮質に移し替える(貯蔵)。不必要だと判断された情報は消去されます。貯蔵された情報は海馬が取り出すことで、思い出すことができる(検索)」
高齢者を悩ませる「物忘れ」のほとんどは、加齢による海馬の機能低下によって、情報を脳から「検索」できなくなっている、つまり“取り出せない状態”を指す。「人間の細胞には寿命があり、脳の神経細胞も加齢とともに壊れていきます。幼少時で400gほどの脳の重量は発達とともに増加し、男性なら20歳でピークの1350~1400gに達します。その後、1日約10万個の脳細胞の死滅とともに、重量は少しずつ減少する。70~80歳でピーク時の重量から5~10%減少します。
その際、『検索』ができなくなって物忘れが増えてくる。男性なら60歳前後から物忘れが進行するといわれています」(同前)
●記憶のプロセス
【1】一時的に海馬に保存:記銘
【2】必要な情報は 大脳皮質へ:貯蔵→不要な情報は捨てられる
【3】海馬が大脳皮質の情報を呼び出す:検索
「もの忘れ」の予防策は「認知症」の有効な予防策
一方で、認知症の場合は「検索」以外にも支障が出る。「記銘」すなわち情報のインプットができなくなるのだ。情報が定着しない以上、「貯蔵」もできなければ「検索」も難しくなる。
「物忘れ」と「認知症」は医学的には似て非なるものだ。しかし、取るべき対策には共通するものが多い。「物忘れ」の予防策は「認知症」への有効な予防策となる。日頃から海馬などの機能低下を防ぐ手立てを講じることが重要である。
※週刊ポスト2017年4月21日号