地域との交流に積極的に取り組んでいる高齢者向け施設【まとめ】
オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
家族や友人が入居していなければ、なかなか中の様子を知る機会がない高齢者向け施設。見学を申し込む程ではなくとも、将来のことも考えて訪問してみたいという地域の人は多いようだ。一方、多くの施設も地域との交流を望んでおり、交流スペースを作って開放したり、入居者や近所の住民が自然と交流できるイベントを開催する所が増えてきている。地域の高齢者福祉の拠点としても期待される高齢者向け施設。今回は、地域との交流を活発にするために工夫をしている施設をピックアップして紹介していく。
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入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住「銀木犀・浦安」
千葉県浦安市にある「銀木犀・浦安」。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)であるこちらの入り口を開けると、眼の前には駄菓子屋コーナーが。そして、駄菓子を買いに来た近所の子供たちが買ったものを食堂に座って食べながら笑っている。その奥には入居者たちが談笑している姿。子供たちは入居者の孫ではなく、いわゆるご近所さんだ。一般的なサ高住ではもちろん、他の高齢者向けの施設でもめったにない光景がそこには広がっていた。
●駄菓子屋と食堂で地域との交流をはかる
ここでは入居者が駄菓子屋の店番をして、子供たちと毎日触れ合っている。微笑ましい光景ではあるが、運営側としては入居者以外を建物の中に入れるというリスクを負っているという側面も。
地域との交流を活発にしたいと考えている高齢者向け施設は多く、ほとんどの事業主が施設内の閉じられた環境で過ごすのではなく、入居者と近隣の住民が自然な形で交流してもらいたいと考えているという。そのために地域のお祭りや防災に参加したり、施設内で催し物を企画して近隣の住民を招待するなどしているが、継続的な成果に結びつけることに苦労しているところが多いようだ。
銀木犀・浦安では駄菓子屋と一般も利用できる「銀木犀食堂」を運営することで地域との交流を実現。銀木犀・浦安の所長である麓慎一郎さんに銀木犀食堂を始めたきっかけを聞いた。
「銀木犀は、入居者の方が食堂で食事をしているのが外からよく見えます。それでここをレストランだと思って、『ご飯食べられますか?』と言って入って来る方が何人もいらっしゃったのです。『だったら食堂をやってみたい』と思って代表に相談して実現しました」(麓さん、以下「」は同)
銀木犀は建物の中で近所の人がランチをしていたり、子供たちが駄菓子を買って遊んでいるなど一般的なイメージのサ高住とは毛色が全く異なる。しかし、訪れてみると、明るい雰囲気にあふれていて、むしろこちらが生活の場として自然なのではないかと感じた。このような運営方針が、入居者の心身にプラスの効果をもたらしているようだ。
「ストレスのかからない生活が健康に一番いいということではないでしょうか。メンタルの安定に勝るリハビリはないと思っています。普段の生活動作も重要なリハビリです。環境に慣れてメンタルを安定させることが大事。自分でやりたいと思う気持ちがあって、はじめて効果が出てきます。そのために重要なのがコミュニケーションですね」
→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<前編>
→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<後編>
地域に密着した「日常感覚」の介護付有料老人ホーム「杜の癒しハウス文京関口」
「杜の癒しハウス文京関口」は、東京メトロ・有楽町線の江戸川橋駅からわずか徒歩2分。交通の便が良く、周囲には地蔵通り商店街、小石川後楽園、江戸川公園などがあり、住環境も申し分ない。運営会社の三幸福祉会は特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームを運営。わが家で暮らすように日常生活を送ってほしいという願いを込めて、入居者のことを「ファミリー」と呼んでいるという。
「施設に入居したというよりは、江戸川橋に引っ越してきたというイメージで過ごされている方が多いです」(施設長の柳沼亮一さん、以下「」は同)
●地域との関係作りで安心感がアップ
杜の癒しハウス文京関口は、地域と密接な関係を築いているという。高齢者施設が地域と良好な関係だと、入居者と家族は安心感を持つことができるそうだ。その理由は、外出時のトラブルや体調の変化に地域の人が気付いて対応してくれるから。目の前の地蔵通り商店街の人も顔見知りのため、何か異変があれば知らせてくれるという。地域が見守りの役割を担ってくれているのは心強い。
「商店街の方が顔を知ってくれていて、連携が取れているので、外出してもらっても安心です。実際にちょっと転んでしまった時に連絡をもらったことがあります。防災協定も結んでいますよ」
地域とのつながりを作るために、防災倉庫を施設内に設けたり、祭に参加するなどして、徐々に信頼関係を作っていったという。町会との防災協定では、施設を災害時に避難場所として提供すること、施設で何かあった際には助けてもらうことなどの約束を交わしているそうだ。消防署とも連携を取り、炊き出しなども含めて災害を想定した訓練を定期的に行っており、地域のお祭の際には神酒所として1階ロビーや駐車場を開放している。
地域との交流に積極的に取り組んでいる柳沼さんに高齢者向け施設への入居を考えている人、その家族へのアドバイスを聞いてみた。
「介護は一人で悩むものではないので、まずは相談してほしいですね。ギリギリまで頑張る人が多いですが、入居する本人がある程度分かるうちに施設を探したほうが良いとお伝えしています」
→地域に密着した「日常感覚」の介護付有料老人ホーム<前編>
→地域に密着した「日常感覚」の介護付有料老人ホーム<後編>
地域に根ざし高齢者サービスの拠点となる特別養護老人ホーム「千歳敬心苑」
2017年3月10日、東京世田谷区の烏山区民会館で、あるイベントが行われた。「千歳敬心苑」開設20周年記念事業「実践報告会」だ。介護職員がこれまで実践してきたことを発表する場で、千歳敬心苑にとって初めての実践報告会。当日は地域の人など300名ほどが来場し、会は大盛況。この会は千歳敬心苑の人材育成担当の山口晃弘さんが発案し、実行委員長を務めた。
山口さんが人材育成担当として千歳敬心苑に来て最初に行ったのは、どういった介護をするかビジョンを作ることだったという。
「まず職員全員と面談をし、現場に入りました。そして『私たちは、敬いと真心で地域社会から最も必要とされる介護サービスを創造します』というビジョンを策定しました」(山口さん)
次に山口さんが行ったのが、実践報告会の提案だ。初めてのことに戸惑う職員も多かったが、日時と会場を決めて突き進む山口さんに周囲も段々と感化されていった。報告会の資料に掲載された、入居者と笑顔で写る職員の写真がその日々を物語っている。
●地域で必要とされ、愛される施設を目指す
策定したビジョンの通り、千歳敬心苑は施設近隣の小学校と相互訪問を定期的に行うなど、地域との交流にも力を入れているという。小学生が来苑してレクリエーションをし、入居者がゲストティーチャーとして小学校を訪問するなどの交流を行っているそうだ。秋祭りなどの季節行事には、お囃子サークルなどがボランティア参加するなど、地域に根ざした20年の積み重ねをさらに発展させている。
千歳敬心苑では地域の「買い物難民」のための施策にも取り組んでいる。「世田谷区で買い物難民?」と思われるかもしれないが、実は東京都内でも買い物に苦労している高齢者は多い。公共交通手段が、体の不自由になってきた高齢者全員のニーズを満たしているわけではないのだ。そこで地域貢献の一環として「買い物キャラバン」という無料の買い物送迎を始めたという。実施にあたって民生委員と連携を取り、困っている高齢者の把握に努めているそうだ。
他に取り組んでいるのが、高齢者や障がい者の居場所作りのために月に1回、千歳敬心苑で夕食を共にする「ちとせdeご飯」。一食500円で、自力で来ることが難しい人には送迎も行っているという。いずれも地域の福祉のニーズを探りながら、改良を行っているそうだ。
→地域に根ざし高齢者サービスの拠点となる特別養護老人ホーム<前編>
→地域に根ざし高齢者サービスの拠点となる特別養護老人ホーム<後編>
いかがだっただろうか。今後ますます地域全体で高齢者を支えていくことが社会的にも求められる中、今回紹介したような先進的な取り組みが広がっていくことを期待したい。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。