連載

認知症の母が発症して7年が経過。変化したこと、変わらぬこと

 盛岡に住む母の介護を東京から遠距離で続ける工藤広伸さん。父や祖母の介護経験もあり、その体験や数々のエピソード、培ったノウハウをブログや書籍で公開し話題に。講演会や雑誌などのメディアを通じても、広く情報を発信している。

 認知症の母の介護を続けてもうすぐ8年になるというが、その間、母の症状はどのように変化してきたのだろうか。発症当時からの様子を改めて振り返ってもらった。

 * * *

 2012年11月からスタートした母の介護は、もうすぐ8年目に突入します。多くの介護職の力を借りながら、母は今でも自宅で自立した生活を送っています。直面した困難を親子でどう乗り越え、今に至ったのかを振り返りたいと思います。

2012年(認知症介護1年目)

 認知症だった祖母が子宮頸がんで大量出血し、救急車で病院に搬送されました。当時、祖母の介護をしていた母でしたが、岩手にいる妹は

「お母さんも最近、もの忘れが多くなった気がする」

 と心配していました。

 わたしは母の認知症を疑いながら、東京の会社で働いていたのですが、祖母の入院時に、母が大事な入院手続きをすっかり忘れ、同じ内容の電話を何度もしてきたことで、母の認知症を確信したのです。
 
 こうして、祖母と母のダブル遠距離介護生活が始まりました。

2013年(認知症介護2年目)

 祖母は入院中にベッドから転落し、大腿骨を骨折。骨折がきっかけで寝たきりになった祖母は、入院から1年後に亡くなりました。

 身近な人の死によるショックや喪失感から、認知症の症状が一気に悪化することがあるそうです。

 母も祖母の死をきっかけに、認知症の症状が悪化するのでは?と心配したのですが、何事もなく、死をあっさり受け入れました。わたしは祖母と母のダブル介護から解放され、母1人の介護に専念できるようになりました。

2015年(認知症介護4年目)

 2012年、母をデイサービスに通わせたほうがいいとケアマネから提案され、わたしは初めてデイを見学しました。そのデイは、80代後半の認知症の女性が多く、デイ職員の歌に合わせて、女性たちは手拍子をしていたのですが、全く元気がありません。

 デイの楽しさを感じられなかったわたしは、ケアマネの提案を断り、母の実家近くの生け花教室に連れて行きましたが、その後、母が自ら教室へ行くことはありませんでした。

 最初のデイ見学から2年が経過し、母をデイに通わせることを諦めつつあったのですが、かかりつけ医から面白いデイの情報を聞き、母と一緒に見学に行きました。

 母が昔住んでいた地域にあったそのデイは、レクリエーションがなく、母がやりたいこと(料理やおしゃべり)を主体に過ごしていいというスタイルで、初めて見学した日に、母は他の利用者さんと意気投合。

 やっと、母をデイに通わせることができたのです。

2017年(認知症介護5年目)

 母と27年間別居していた父が悪性リンパ腫で倒れ、わたしは再び、父と母のダブル介護生活が始まりました。 

 介護が始まって3か月で父は亡くなってしまったのですが、母の介護にも大きな変化がありました。父の在宅医療を支えてくれたケアマネの仕事ぶりがあまりにも良かったので、5年間お世話になった母のケアマネと交代してもらったのです。

 新しいケアマネのおかげで、わたしと母の介護生活は盤石なものとなりました。

2019年(認知症介護7年目)

「あの木の名前、なんだっけ?」

 40年以上前から自宅の庭にある「梅の木」を、去年までは理解していた母ですが、今年はわたしに何度も質問するようになりました。

最近のことは覚えられなくても、昔のことはよく覚えていた母でしたが、昔のことまで忘れるようになってきました。

7年間で変わったこと

 母の認知症の変化を知る指標となるのが、料理のレパートリー数です。

軽度の認知症だった時期は、ロールキャベツや肉じゃがなど、簡単な料理は難なく作っていました。しかし最近は、魚を焼く、野菜を煮る、卵を炒める程度で、料理のレパートリー数は、この7年で8割減っています。

 もうひとつの指標は、長谷川式認知症スケールの点数(30点満点の認知症テスト)です。初年度のテストは28点でしたが、今は15点。今日の日付や今の年齢が分からなくなり、4桁の数字を逆から言う問題も間違えるようになりました。

7年間で変わらないこと

 料理のレパートリーが減り、認知症テストの結果が悪くなっても、母はショックを受けていません。「年を取れば、誰でも忘れっぽくなる」くらいに思っていて、あっけらかんとしています。

 尿便失禁の回数も増え、できないことだらけですが、それに勝っているのが母の「多幸性」です。文字どおりたくさんの幸せを持っていて、常に楽観的な状態をいいます。

 認知症の方の中には「多幸的」になる人もいますし、逆に「死にたい」といったネガティブな感情が強くでる人もいるそうです。母は認知症を発症してからずっと、多幸的であるように思います。

 亡くなった亭主関白の父の、3歩後ろを歩くような母でしたから、自分の思いを押し殺しながら、わたしを必死に育てたのだと思います。当時の母と比べれば、多幸的な今のほうが幸せかも?と思うこともありますし、母自身も「今が一番幸せ」ということもあります。

 わたしが寒そうにしていると「寒くないっか」と、必ず声をかけてくれる母。レストランに行くと、「わたしの分も食べなさい」と言ってくれる母。昔から自分自身より子どもを優先する母でしたが、認知症が進行した今でも、「寒くないっか」と変わらず声をかけてくれます。
  
 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

● 認知症の母のラーメン調理に立ち会ってわかった衝撃の作り方【認知症介護の日常】

●息子が認知症の母のために何度もカレーを作る深い理由

●遠距離介護 呼び寄せなくても案外うまくいく!|その方法【まとめ】

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