前頭側頭型認知症(ピック病)8つの特徴とは?家族目線で解説
盛岡に住む認知症の母を東京から遠距離で介護を続け、その記録をブログで公開している工藤広伸さん。息子の視点で”気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」を、当サイトでも数々紹介してもらっている。
今回のテーマは、認知症の一種「ピック病」についてだ。
最初、アルツハイマー型認知症と診断されていた母の病名が、途中で「ピック病」に変更になったという。認知症にはさまざまな型があるが、診断された型は、本当に正しいのか、ずっと変わらないのかなど、家族ならでは視点で教えてもらう。
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認知症の母は当初、医師からアルツハイマー型認知症と診断されました。しかし、1年後に問診や認知症テストを行った結果、前頭側頭型変性症という聞き慣れない病名に変わりました。
あまり知られていないこの病気について、母が通うもの忘れ外来「なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)」で頂いた家族向け説明資料を基に、8つの主な特徴について説明します。
前頭側頭変性症の主な8つの特徴
前頭側頭型変性症は3種類
前頭側頭型変性症は、
・前頭側頭型認知症(ピック病)
・進行性非流暢性失語、
・意味性認知症
の3種類に分かれます。わたしの母はピック病と診断されたのですが、3つの中ではピック病になる人が圧倒的に多いそうです。
ピック病が示す主な症状について、母の症状と合わせて説明していきます。
●ピック病の8つの主な特徴
【1】 反社会的行為
・わが道をいく行動がみられる
・人の言う事を聞かない、自分勝手な行動をとる
・他人の物を勝手に取ってきてしまう
・平気で痴漢、放尿をする
・運転の際、交通違反や事故を繰り返す
母は、目立った反社会的行為はありませんでした。強いてあげるならば、人の言うことは聞かない傾向にありました。
【2】常同行動
・繰り返し膝をこする、パチパチと手を叩くような単純な運動を繰り返す
・何を尋ねても、自分の名前、生年月日など同じ語句しか答えない
・どんな天候でも、毎日決まったコースを散歩する
・時刻表的に毎日、決まった時間に行動する
・決まった少数の食品、料理ばかりを食べる
母は、午前中に必ず台所の床の拭き掃除をするとか、居間や客間の窓を季節に関係なく決まった時間に開けるといった、時刻表的な行動が見られました。
【3】病識の欠如
・自分が病気であることの自覚がないため、通院や介護サービスの利用を拒否する
【4】刺激に影響されやすい
・外の刺激に容易に反応する
・物の意味や危険性が分からないため、目に見えたものに触れる
・張り紙、時計の時間などを大声で読む
・相手のしぐさ、表情をマネする
【5】性格
・場の空気を読めない
・無表情である
・スイッチが入ったように起こる
・不機嫌で横柄になる
【6】注意力、集中力の低下
・落ち着かず、一つのことが続けられない
・なかなか座らない
【7】食・性行動の異常
・食欲が変化し、たくさん食べる
・病的に甘いものばかり食べる
・性的な気持ちが高ぶる
【3】から【7】に関して、母は該当しませんでした。
【8】自発性・意欲の低下
・家事をしなくなる
・入浴、散髪、歯みがきをしなくなる
・着替えをしない
・質問に対して真剣に答えず、即答する
母は入浴しませんし、質問も若干ですが食い気味に回答することがありました。
診断がアルツハイマー型認知症からピック病にが変わった理由
ピック病に診断が変わった理由は、『長谷川式認知症スケール』という認知症テストの結果と母の日常行動によります。
『長谷川式認知症スケール』の問題
『長谷川式認知症スケール』の問題の中に、次のようなものがあります。
「これから言う言葉(桜、猫、電車)を繰り返してください。あとでこの3つの言葉を思い出してもらいますから、よく覚えておいてください」
この後で100から7を引いて、そこからまた7を引くという計算問題を行い、もう一度3つの言葉を思い出してもらうのですが、この設問を「遅延再生」といいます。遅延再生とは、覚えていた事柄を一定時間経過した後で思い出すことなのですが、アルツハイマー型認知症の方はこの問題が苦手です。しかし、母はこの問題を簡単にクリアしました。
さらに、時計の絵を最初に書き、10時10分の針を書くという時計描画テストというものがあるのですが、
アルツハイマー型認知症の方の場合、針が書けなかったり、数字の位置が特定の場所に集中したり、数字を逆回りに描くことがあります。わたしの母は、このテストも問題なくクリアしました。
これに加えて、時刻表的な行動をすることや、お風呂に入らない、わが道を行く行動もあったりして、母はアルツハイマー型認知症というよりかは、ピック病という診断になったのです。
認知症の型の診断は、一生変わらないのか
先日、改めて母に認知症テストを受けてもらったら、遅延再生の問題ができなくなっていました。
わたしは、ここ1年くらいで母の短期記憶の保持が難しくなっていると感じていました。具体的には何度も同じ話をし、その時間の間隔が前よりも短くなっていました。それを医師に伝えると、今度はアルツハイマー型認知症に近いという診断になりました。
わたしは、アルツハイマー型認知症と一度診断されたら、死ぬまでアルツハイマー型のままだと前は思っていたのですが、今は加齢とともに認知症の型が変化したり、あるいは2つの認知症が混合したりすることもあると、医師から学びました。
認知症の型は今号する可能性がある
介護家族は認知症の型が変化したり、混合したりするという知識を持っておくといいようです。
認知症の人の日常生活の変化を見極め、医師に伝えることで、それぞれの型に合ったお薬が処方されるようになります。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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