高齢者の転倒を防ぐためのちょっとしたストレッチ3つ
高齢者が寝たきりになるきっかけで最も多いのは、転倒による骨折。昭和大学公開講座「生活の中での体力づくりとは?─活動を大切に─」で、同大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーションセンターの認定作業療法士・渡部喬之先生は、高齢者の転倒を予防するための手軽にできる体操を紹介した。
椅子に腰かけて膝を伸ばして10秒そのまま
高齢者の転倒で怖いのが、腰椎(ようつい)の圧迫骨折だ。その原因は、よろっとして転倒してしまい、腰や背中を打ちつけてしまうこと。
これを防ぐには、よろっとしないようにすることだ。そのためには、膝を伸ばす筋肉をしっかり鍛えてほしいと渡部先生は言う。
そのための体操が、椅子に腰かけ、膝を伸ばした状態で10秒止めること。
椅子に腰かけて足を外に10回開く
大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)にも要注意だ。大腿骨頸部とは太ももの付け根で、骨盤と股関節でつながっている。ここを骨折すると、関節内での骨折となり、非常に治りが悪い。
この骨折を予防するには、大腿部の筋肉を鍛えることだ。そのために行いたい体操が、足を横に開く体操。椅子に腰かけて、左右の足を片方ずつ、外に10回ずつ開く。
椅子に腰かけて両足のつま先を持ち上げて10秒止める
転倒して骨折するのは足だけではない。意外に多いのが手の骨折だ。よろけると思わず手をついてしまうことから手首を骨折する高齢者が多いのである。この手首の骨折を、橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)という。
手首の骨折を予防するためには、とにかく転倒しないことだ。
高齢者の転倒は足関節背屈筋(そくかんせつはいくつきん)の衰えから起きやすい。足関節とは足首のことで、足関節背屈筋は足のつま先を上に持ち上げる筋肉だ。ここは体のさまざまな筋肉の中でも早期に衰えやすいので、高齢者は年を取るにしたがって、つま先をうまく持ち上げられなくなる。つま先が持ち上がらないと、歩行がスムーズにいかなくなり、足を引きずるように歩いたり、何も障害物がないところで転倒したりするようになる。
これを鍛えるための体操が、椅子に腰かけた状態で、両足のつま先を持ち上げてそのまま10秒止める、この動きを何回か繰り返すこと。
これらの体操は、テレビを見ながら簡単にできるものばかり。ぜひ座っている時間を利用して、こまめに足を鍛えたい。
ほんのちょっとめんどくさい生活をしよう
渡部先生は、前の記事「リハビリのプロがズバリ指摘『家事が老化防止によい理由』」で、毎日家事をすることが、体力を強化し認知症を予防することにつながると説いた。
さらに日常生活で提案したいのが「めんどくさい生活をすること」ことだという。それはたとえば次のようなことだ。
●リモコンを使わない。テレビの電源などは直接操作。
●たまには立ってテレビを見る。
●2階にもトイレがあるなら、たまには階段を上がってトイレに行く(あるいはその逆)。
●買い物はまとめてすませないで、こまめに行く(買い物はよい運動になるので)。
●たまにはバスに乗らずに歩く。
●たまにはエレベーターやエスカレーターに乗らないで階段を上る。
このほかにも、よく噛んで食べる、背筋をよく伸ばす、など、日常生活の中で筋力を鍛える動作はたくさんあるという。
万歩計をつけるだけで歩数が増える!?
渡部先生はさらにもうひとつ、ぜひ万歩計をつけてほしいと提案する。万歩計をつけただけで1日の歩数が約2000歩増えるという実験結果もあるという。万歩計をつけているという自覚が、歩こう、鍛えようという意識を生むのだ。
炊事・洗濯・掃除などの暮らしの中での家事、ほんのちょっとめんどくさい暮らしを心がけること、テレビを見ながらの「ながら体操」、そして万歩計。年を取っても、これらで老化を少しでも遅らせ、寝たきりにならない生活を心がけよう。
◆取材講座:「生活の中での体力づくりとは?─活動を大切に─」(昭和大学公開講座/昭和大学藤が丘病院)
取材・文/土肥元子(まなナビ編集室) 写真提供/昭和大学藤が丘病院
初出:まなナビ