老親に老後費用や財産のことを上手に聞き出す方法
介護コミュニティサイト「介護100番」には数多くの介護の悩みとアドバイスが寄せられます。その中から、家族の介護に参考になりそうなものをご紹介します。今日は誰もが悩む事例──
「親に切り出しにくい、親の老後費用や施設入所について、どうやって親から聞き出すか」です。親御さんと離れて暮らしている方には、この年末年始は良いチャンス。相談者さんの問いかけに、皆さん、自分の経験からアドバイスをされました。
足腰が弱ってきた両親、いざという時に備えたいが
ご両親と離れて暮らしている相談者さんは、郷里に暮らす両親の老後のプランや費用がちゃんとあるかどうか、心配されています。
「九州に住む父と母はともに75歳、父は要支援1、母はペースメーカーを入れていて障害者1級です。二人とも足腰が弱り、買い物もタクシーを利用しています。近くに信頼できる家族・親戚はおらず、地域包括支援センターのソーシャルワーカーさんが一番の頼みです。
子供は私、姉、妹の3人ですが、みな東京や大阪にいてそれぞれ仕事を持ち、故郷には戻れません。今は定期的に交代で帰省して様子を見守っています。
今後さらに体が弱った時に備え、施設に入る準備などのためにも、収入や財産についてなど、言いにくいことや聞きにくいことを、たくさん聞いておかなければならないと思います。
今は正常な判断力はあると思いますが、聞き方ひとつで信頼関係を損ねかねないことなので、この微妙な問題を皆さんはどのように切り出されたか、ぜひ体験談やアドバイスをお訊ねしたいと思います」
事あるごとにちょくちょく聞ける関係を
まずは親と良好な関係を築いている方からのアドバイスです。
「親の体が弱くなった頃から、お金についてちょくちょく尋ねるようにしていました。
『通院費用は足りているのか?』
『生活費は大丈夫なのか?』
親は『大丈夫だよ』とは答えていましたが、『元気だった頃のようにはいかないんじゃないの? タクシー代とか病院代とか費用がかさむだろう?』と聞いていくうちに、親の方からいろいろと話してくれるようになりました。
施設入所については親が望んでいましたので、こちらから切り出す必要はありませんでした。しかし、そういう話がまだなのでしたら、施設の話はいきなり切り出さずに、まずはご両親がどうしたいのかをさらっと聞かれた方がよいと思います。
お子さんが遠方で独立されていて戻ってこられないことはご両親も重々承知しておられても、心のどこかには、いざとなったら戻ってきてくれるだろう、という気持ちもあると思うのですよ。
また、施設=姥捨山(うばすてやま)のイメージを持っている方もまだまだいらっしゃいます。まずはご両親のお気持ちを少しずつでも話していただくようにされてはいかがでしょうか」
預貯金だけは私が管理するようになりましたが……
次は88歳のお母様がいらっしゃる方。親とはいえ、表に現れる言動と裏で考えていることが違うので気を付けた方がよいとアドバイス。
「私の場合は、突然に父が亡くなり、土地、家屋、動産などについて何の処置もする間もなく母が残りました。当時は母もまだしっかりしていたので、まず母に 『これからどうしたいか』を聞き、しばらくは施設入所は考えないこと、そして 母が動産の管理をすると決めました。
88歳になった最近、母から『忘れっぽくなったし、管理ができなくなったので通帳などは持っていてほしい』と依頼され、預貯金は私が預かるようになりました。
子供から見てしっかりしているようであれば、親から何らかの問いかけがない限り、そっとしておくのがよいのではないでしょうか。互いに信頼しあっていれば、おのずと結果は出ます。
気をつけなければならないことは、表に出てくる言動と、内にある心理が違うことが多々あるので、慎重に対処しなければならないことですね。また、子供が複数いる場合は、全員が納得できる結論を出すことは難しいものだと思いました。
ちなみに母はまだ元気で、一戸建ての家に一人で住んで自立しています。しかし不動産については、まだ亡くなった父の名義のままで、家族の悩みの種になっています」
アルツハイマー型認知症ではお金や通帳に執着するケースも
介護職に就いている方からの、実際にさまざまなケースを見聞きしたうえでのアドバイスです。
「仕事で数多くの高齢の方を見てきました。皆さん、お金の管理から弱ってくることが多いですね。
とくに、アルツハイマー型認知症などではお金や通帳に執着するケースも多く、 金銭管理はご家族皆さんが頭を悩ませる問題です。
親御さん自身が、先々まで準備しておきたいという性格の方なのでしたら、判断力があるうちに「任意後見契約」を結ぶという選択肢もありますよ。これは、判断力がなくなってきた時、公正証書の任意後見契約に従って、任意後見人が 本人を補助できるという仕組みです。
この契約を結んでおけば、預金者が認知症となったために介護に必要なお金を引き出せなくなる、という事態を避けることができます。
また、生活支援員が通帳などの重要なものを預かってくれる、社会福祉協議会 の『日常生活自立支援事業』などのサービスもあるようです。
私たちの親の世代は、ネットで情報を得ることもほとんどないですし、プライドも高いです。『何にも知らないんだから!』などとこちらがイライラしないようにして、時折こうした情報を小出しに話題に出しておいて、あとは親御さんの判断をじっくり待ってはいかがでしょうか」
猜疑心をあまり刺激しないようにして
最後に相談者さんからの返答は──
「ありがとうございます。なるほど、あまり焦らずに、できるだけ自然体で、親の気持ちをゆっくり確認することだと受け止めました。
実際、母はここのところ、ずいぶんと猜疑心が強くなっていますので、下手に刺激しないほうがいいかもしれませんね。
時間も迫ってきておりますが、一方的に危機感をあおることなく、すこしずつ両親と相談していきたいと思います」
今日の用語「日常生活自立支援事業」とは?
認知症高齢者などで判断能力が不十分な方が、地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づいて、福祉サービスの利用援助や日常的金銭管理などの援助を行なう事業です。
運営主体は、各都道府県社会福祉協議会です。ただし、本事業の契約内容について判断できる方が対象となります。判断力判定のポイントは、サービス内容やサービス利用による料金の発生などが理解でき、納得できるかどうかです。
申請窓口は市町村の社会福祉協議会など。相談は無料ですが、契約後のサービス利用料は有料です(生活保護受給世帯は無料)。
具体的な援助内容は──
〇福祉サービスの利用援助、住宅改造や居住家屋の貸借の援助など日常生活上の消費契約や、住民票の届出などの行政手続きに関する援助など。また、それらに伴う預金の払い戻し・解約や預け入れの手続きなど、利用者の日常生活費の管理や定期的な訪問による生活変化の察知など。
〇通帳や証書(年金証書、権利書、保険証書、契約書など)などの預かりサービスなど。
*以上は、介護110番の「なんでも相談室」の相談スレッドを書籍化した『母がおカネを隠します。』に掲載された実際の相談事例です。
文/まなナビ編集室
初出:まなナビ