【白内障】眼内レンズはどう選ぶ?取り換えは可能?
早ければ40代で始まり、60代では80%が発症するという白内障。原因は老化。水晶体が濁ってものが見えにくくなったりぼけて見えたりする。見えるようになるためには、水晶体を除去し代わりに眼内レンズを入れる白内障手術が必要だ。杏林大学医学部付属病院の公開講座「白内障、よく聞く話のホントのところ」で柳沼重晴先生に眼内レンズの選び方について訊いた。
眼内レンズの度数と、眼鏡の度数は違う
水晶体は、眼でレンズの役割をしている。それが老化によって濁ってきて見えずらくなるのが白内障だ。そこで、水晶体を取り去り、代わりに眼内レンズを入れる白内障手術が必要となる。(詳しくは「早ければ40代、60代で8割!白内障のサイン4つ」)
白内障手術をすると決断すると、まずしなければならないのが、眼内レンズの度数を決めることだ。
柳沼先生によれば、「度数」と聞くと「1.0くらいがいいですね」といった返答をする患者さんが時折いるが、そのように決めることはできないという。
「人間の眼であれば、水晶体が膨らんだり薄くなったりして厚みを変えることでピントを調整してくれます。その調整が加齢で難しくなり、近くが見えなくなるのが老眼です。
しかし眼内レンズは、若い頃の水晶体のように厚みを変えることはできません。単焦点レンズであればピントを、近く、中間、遠くのいずれかに合わせ、それ以外の距離は眼鏡の補助が必要になります」
近くか遠くかは、生活スタイルを重視して
よく聞かれるのが、近くと遠くとどちらがよいか、ということだという。柳沼先生は次のようにアドバイスをしている。
「できるだけ今までの生活スタイルを踏襲したほうが違和感がなく、ストレスがありません。
たとえば近視だった人なら、今まで近くが見えていたので、近くにピントが合う方が今までの感覚に近いでしょう。遠くを見るときは眼鏡で調整をする。
逆に今まで、遠くが見やすく、近くは老眼鏡をかけていた人は、遠くにピントがくるレンズにして、近くを見るときは老眼鏡をかける、といった具合です。
時折、ずっと近視だったので遠くが裸眼で見えることに憧れていて、遠くにピントが来るようにしたい、という人もいます。しかし注意したいのは、今まで近くがよく見えていたので、近くが見える能力は失われない、と思っている人がいますが、術後は近くはピントが合わずに老眼鏡をかけることになり、感覚が手術前と逆になります」
最近のレンズは着色が主流
最近の眼内レンズには、薄い黄色がついているものが主流となっている。これは眼に有害な紫外線や短波長のブルーライトをカットするためのものだ。
また、白内障が進行してくると水晶体が茶色っぽくなってくるので、いつもセピア色のレンズの眼鏡を通してものを見ているような状態になっている。そこで手術で透明なレンズを入れると、逆に世界が青っぽく見えてしまうということがあった。
黄色みを帯びたレンズはこの青視症(せいししょう)を防ぎ、自然なクリアさで見えるようにする効果もある。
近くも遠くも見える多焦点レンズは?
眼内レンズには、近くか遠くか、どちらかにしかピントを合わせられれない単焦点レンズと、近くと遠く両方にピントを合わせられる多焦点レンズがある。
ただし多焦点レンズは先進医療となり、国民健康保険の対象外となる。最近は先進医療保険が普及していることから、多焦点レンズを選ぶ人も増え始めている。
柳沼先生は、多焦点レンズを選ぶ時には注意が必要だという。
「多焦点レンズについて、近くも遠くもどこを見えてもくっきり見えると思っている方がいますが、多焦点レンズは近くと遠くの2点が見えるものです。そのため中間がややぼけることがあります。
また、多焦点レンズは若干コントラストが落ちます。それは、レンズに入ってくる光の量が違うからです。
単焦点は光が10入ってくれば10取り入れますが、多焦点は遠くに4、近くに4を振り分けて、残り2の光が無駄になるんですね。このレンズの光学的特性から、夜に車のヘッドライトなどを見ると、光の輪が見えてぎらつくことがあります。
どちらがよく見えるかというと、単焦点レンズで眼鏡を併用した方がしっかり見えます」
柳沼先生は、次のような方であれば多焦点も向くかもしれないという。
〇絶対にメガネをかけたくない!
〇眼に病気や乱視がない!
〇神経質な性格ではない!
「眼内レンズ選びは慎重に」と柳沼先生は言う。なぜなら、多焦点レンズを入れてみたが、気に入らないから単焦点に、という再手術は非常に難しいからだ。
レンズの寿命は? 取り換えられる?
現在の白内障のレンズは半永久的にもつといわれている。白内障手術後に、手術した人の10~20%に、後発白内障といってレンズを挿入した水晶体嚢が白く濁ってしまう症状が出るが、外来によるレーザー治療で治療できる。
眼内レンズの入れ替えはできないこともないが、基本、一生に一度のものと柳沼先生は言う。
「白内障手術では、水晶体嚢(すいしょうたいのう)から水晶体を取り出す時、超音波で乳化させ、小さな傷口から吸引します。レンズを入れるときも、素材はアクリルなので小さく巻いた形で水晶体嚢に挿入し、レンズは中で広がります。
しかしレンズを取り出すとなると、水晶体を取り出した時のように乳化させて取り出すことが難しいのです。レンズを入れるときは小さい傷口から入れられますが、取り出す時は大きく切開しなければならなくなります。
また、白内障手術をすると角膜内皮細胞が減りますが、再手術となるとまた減ってしまいます。
眼内レンズを取り換えるのは、何か重大な問題が起きた時だけ。それも前より大きな手術となります。
だからこそ、近くが見えたほうがよいか、遠くが見えたほうがよいか、それとも多焦点レンズにするかは、慎重に考えて選んでください」
教えてくれたのは
◆取材講座:「白内障、よく聞く話のホントのところ」(杏林大学医学部付属病院 )
文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/杏林大学医学部付属病院提供
初出:まなナビ