84才、一人暮らし。ああ、快適なり<第3回 自由って何だろう>
これでも羨ましいと思われるのなら、仕方ない。しかし、それほどゆったりもしていない。自由にはいろいろなリスクが付いて回る。
食事を作る手間はかかるし、皿を洗って収納しなければならない。好きなテレビ番組を観るにしても、それなりの計画(スケジュール)を立てなくてはならぬ。遊べば仕事は必ず溜まるし、先延ばしにすれば、自由はたちまち奪われる。つまり、良いことづくめではないのである。
無理をすれば体調を崩すし、回復するにはそれなりの時間がかかる。自分を騙し騙ししながらでも、管理をしなくては、たちまち綻びが生じる。自由はそれほど楽に手に入らないことを思い知らされる。
そこで何より大切なのは、プラス思考することである。マイナス思考は落ち込むばかりか、精神的な疲労を植え付ける。どんなことでも明るい面に目を向けて、老いる楽しみを味わう道を予測する。過去を振り返るより、未来に期待する方が、どれほど身体に良いかを知ったらいいのだ。
そんなわけで、完璧とまではいかないけれど、今ある自由にカンパイ!
矢崎泰久(やざきやすひさ)
1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』など。
撮影:小山茜(こやまあかね)
写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。