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日野原医師「よど号ハイジャック事件」人質の経験が変えた人生観

「医学部を卒業後、京大の病院に勤めていた頃に、1人の女性の死に立ち会ったそうです。いよいよというとき、その女性は日野原先生に“母が来たら、私は充分幸せに生きられましたと伝えてください”と言ったそうです。日野原先生は“そんなこと言わずにがんばれ!”と励ましながら延命治療を続けたそうです。

 日野原先生は、それをずっと悔いていると言っていました。なぜあのとき“お母さまにはしっかり伝えるよ”“安心して休みなさい”と言って手を握ってあげられなかったのか。その後悔が、死をあるがままに受け入れるという日野原先生の姿勢に繋がったんだと思います。遺されるほうは、一日でも長く、一分でも長くと願います。でも、死を迎える人にも意志があり、その思いは尊重されるべきである、と」

正田家のホームドクターとして美智子さまと深い交流も

 日野原さんは、「正田家のホームドクター」として美智子さまの父・正田英三郎さんの健康診断や、母・正田富美子さんを診察したりと、正田家と深い交流があった。

 日野原さんの思いには、美智子さまも共感される部分があったのだろう。美智子さまの母・富美子さんは、1987年に膵臓がんが発覚し、翌年5月、美智子さまや家族に見守られながらこの世を去った。当時の様子を、日野原さんは雑誌のインタビューで次のように明かしている。

《「単なる延命治療はやめてほしい」という美智子さまのご要望もあり、富美子さんは、ホスピスケアを病棟で行った最初の例といえるでしょう。音楽療法として、天皇ご一家のカルテットの演奏を録音されたテープを繰り返し聴かれていました》

 美智子さまもまた「命の終わり」がどうあるべきかについて深く考えを巡らせていらっしゃった。

「美智子さまが海外のホスピスを訪問される際、“患者さんにどう言葉をおかけすればいいでしょう”と日野原さんに質問されたことがあったそうです。日野原さんからのアドバイスは“床にひざまずいて、目線を同じくするといい”というものでした。それ以外にも、美智子さまと日野原さんは頻繁に電話などでお話しする機会があったそうです。誰もが迎える人生の終わり、『命の始末』について語り尽くされていたのでしょう」(前出・病院関係者)

尊厳のある生き方とは

 今月、東大などの研究チームが英医学誌に発表した調査によると、1990~2015年までの25年間で、日本の「平均寿命」は79.0才から83.2才に4.2才伸びた。一方、健康上の問題がなく生活を送ることができる「健康寿命」の伸びは、70.4才から73.9才と3.5才に留まっている。これが意味するのは、現代の日本人は「不健康な状態」で生きている期間が長くなっているということだ。

 医学の進歩によって、命そのものを生き永らえさせる技術は飛躍的に発展した。鼻のチューブから酸素を送り、点滴や胃ろうで栄養を摂取し、排泄の世話をしてもらう。寝たきり状態であったとしても、命をつなぎ止めることができるのだ。

 だがそれは果たして「尊厳のある生き方」なのか。「生かされてしまっている」といえなくはないだろうか。

「医療従事者、特に重い病気で苦しむ末期がん患者などの近くにいる医師などは、いくら治療しても苦しむだけで、やがて死を迎える患者を目の当たりにして“自分が行っていることは、本当に患者のためになっているのか”という根本的な疑問にぶつかることがあります。

 もちろん、死は大きな悲しみと喪失感を伴いますが、“残りの人生をどうやって生きるか”と同じくらい“どうやって死を迎えるか”ということは重要な問題なんです」(医療関係者)

 昨年11月、《真意告白! 橋田壽賀子「安楽死させてください」》という本誌の特集は大きな反響を呼んだ。

《自分がもし何の自覚もないまま多くの人に迷惑をかけてしまったら…。こんな恐ろしいことがありますか。親しい人の顔もわからず、生きがいもない状態で生きていたくはない。だからこそ、あえて提言したのです。“私がそうなったら、安らかに殺してください”と》

《私は認知症になった場合を考えると、恐ろしくてたまらないのです。何もわからず、ベッドに縛りつけられて生きるなんて考えたくもない。誰にも迷惑をかけないで安らかに逝きたい》

 そう話す橋田は、スイスに外国人の安楽死を受け入れる医療団体があることまで自ら調べていた。

”いい加減”で死ねない現代

『自死という生き方 覚悟して逝った哲学者』(双葉社刊)は、社会思想研究家の須原一秀氏の遺稿をまとめたものである。生前「死ぬときは潔く死ぬ」と周囲に明かしていた須原氏は、2006年4月に65才で自ら命を絶った。

 病気などで迫り来る死を「死の受動的・消極的受容」とした須原氏は、借金や病気といった一般的な自死の原因は抱えていなかったという。それでも「命を終わらせる」ことを選んだのは、須原氏の思う「尊厳ある命の始末」が65才での自死だったということなのだろう。

 個人が尊重され、生きながらえる時間が伸びれば伸びるほど、他人の力を借り、時に負担をかけ、金もかかる。“いい加減”で死ねない現代にあって、私たちは、自己と他者の「命の始末」について、改めて考えさせられる。

 日野原さんは最期の刻を慣れ親しんだ自宅のベッドの上で迎えたという。多くの人の最期の願いを受け入れたように、自分もまた願った形で天国へと旅立った。その姿を、美智子さまは優しく見送られたに違いない。

※女性セブン2017年8月10日号

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この記事へのみんなのコメント

  • リカ

    一人で犬と外国で20年暮らす60代女子です。やはりそれぞれの生き方と死に方には一つの共通点があると感じました  延命はやめてほしいというより 外国人としての死に方があるとしたら 心不全や脳梗塞等で、突然死しかないと思います。国の医療体制からすると、生き延びようなんて考えても無理だと思うし。 介護人が居るわけでもないし。 終末期医療に深く考える機会となって とても読んで良かったです。 ありがとうございました

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