介護の最良の方法!? 毎日を楽しくする「にやりほっと」とは?
「ヒヤリハット」という言葉がある。
1つの大きな事故の手前には29の軽微な事故があり、さらにその前には300の「ヒヤリ」「ハッ!」とする事故があるとされている。そのような経験則を「ハインリッヒの法則」と呼び、一番手前のヒヤリハットの時点で事故を防ごうとしている。
介護現場でも同じで、危険につながる恐れがある「ヒヤリハット」な状況をできるだけ排除するよう介護スタッフは常に神経を尖らせている。その結果、介護スタッフは事故を未然に防ぐことに意識が集中し、利用者の行動はおのずと制限されてしまうことが多いという。
そんな介護の現状に疑問を抱いた、長谷工シニアホールディングスの若手スタッフの間で生まれたのが「にやりほっと」。利用者の生活満足度を上げるために、マイナス面ではなく、笑顔などプラス面に注目するというシステムだ。
「にやりほっと」が生まれた経緯、概要について長谷工シニアホールディングスの山口明子さんにうかがった。
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若手スタッフの利用者への思いから生まれたツール
「『にやりほっと』は長谷工シニアグループが運営する『ライフ&シニアハウス井草』の若手スタッフの発想から始まりました。
普段は車イスで生活している利用者がトイレで自分から立ち上がった際、慌てるスタッフに対して『私はまだ立てるのよ』と誇らしげに微笑まれた。以前だったらこれは『ヒヤリハット』の例で報告される内容ですが、スタッフは『この人は立つことができる』と『できること』の例として『にやりほっと』報告書に記録。それが他のスタッフと共有され、ご家族ともご相談の結果、立ち上がることをサポートするケアプランが導入されることになったのです」。
スタッフが「できること」として記録したのは、「利用者の笑顔を受け止めることが、生活満足度を上げるきっかけになるのではないか」という思いからとのこと。利用者の「にやり」とした笑顔からスタッフが「ほっと」させられた。「にやりほっと」はこういった出来事を機に試験的に導入されることとなった。
利用者の笑顔がスタッフのモチベーションに
「利用者の笑顔は特別珍しいものではありませんが、これまでは個人レベルでの記録として日々の仕事に埋もれてしまうことがほとんどでした。どんな些細なことでもいいから、にやりほっと報告書に記録、共有することで、入居者の笑顔やできることが増え、それがスタッフのやる気につながるなど、利用者はもちろんスタッフにとっても大きな意味を持つ事例がたくさん生まれたのです」。
まだまだできるという利用者の気持ちをサポートするよう意識した結果、利用者の生活満足度や役割意欲、身体機能向上につなげることができた。「ライフ&シニアハウス井草」で誕生した「にやりほっと」の取り組みは、社内の業務改善活動で表彰されたのをきっかけに、長谷工シニアグループの全ホームで水平展開させようという動きに変わった。組織的に運営できるよう「にやりほっと探検隊」という推進チームも結成。「実は、私はそのメンバーの1人です。全施設への浸透を目指し頑張っています」。
家庭で実践できるノウハウが詰まった本を出版
今年5月に出版された「にやりほっと」の取り組みをまとめた本『できることを取り戻す魔法の介護』(にやりほっと探検隊:ポプラ社)には、その人の生活習慣や得意なことから探る「できること」、好きなことを発見しコミュニケーションを図る、役割意識を持つ、認知症の人への対応など、介護現場のエピソードをもとに家庭でできる具体的な実践法を紹介。
イラスト付きコラムでポイントを表記するなど、誰が見てもわかりやすい内容が特徴だ。巻末には「15分できることリスト」、長期、短期の目標がひと目でわかる「ケアプラン」などのお役立ち情報も掲載。
相手のことを知る、やりたいことをサポートするといったコミュニケーションは、介護に限らず、人間関係を築く上の要となる部分。介護に直面している人はもちろん、そうでない人にも手に取ってほしい1冊だ。
撮影/松本幸子 取材・文/綱川晶子
長谷工シニアホールディングス
公式HP:http://www.haseko-senior.co.jp/niyari-hotto/
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