バニラ・エア車いす搭乗の背景にあるものは
今回の格安航空会社バニラ・エアの車いす利用者への対応について、ネットではさまざまな意見が出ている。「事前に申告すべき」「それをすると断られる」「航空会社側の事情もある」「傷害者差別解消法に違反する」「いや違反しない」などさまざまだ。しかし、そもそもの根本に、車いすで動くことや障がいがあることがどういう日常なのか想像できないところに問題があるのでは、と言うのは、丸の内朝大学でビジネスパーソンと障がい者施設をつなぐ講座の講師をしていた羽塚順子さんだ。(前の記事「バニラ・エアに事前連絡したが乗れなかった車いす女性」)
タリーズコーヒーに行ってみるイベント
「障がいのある人にとっては、ちょっとした寄り道すら、とても難しいことなのです」と、羽塚順子さんは語る。
羽塚さんは、公立中学校の身障学級(現・特別支援学級)で障がい児指導に携わった後、(株)リクルートの営業職、編集職などを経て、現在はウェルフェアトレード(社会的弱者によって作られた価値ある商品)やソーシャルファーム(社会的弱者が多く混ざり合って働く場)をプロデュース、障がい者と企業や地域をつなぐ活動をしている。羽塚さんは障がい者の日常についてこう語る。
「福祉施設に通う障がいのある方たちは、余暇活動といって団体で食事や旅行に行ったりすることがあっても、一人で知らないお店に入れる人はほとんどいません。施設から一般企業に障害者雇用枠で就職しても、職場と自宅の往復だけを繰り返すことが多くなってしまいます。一人ではちょっとお茶を飲んだり、買い物をしたり、寄り道ができないのです。
以前、福祉施設から一般企業に就職した知的障がいや精神障がいのある人たちと、タリーズコーヒーに行ってみようというイベントに参加しました。ある店舗を2、3時間借り切ったことで、初めてカフェでお茶を飲むことができたと、参加者の皆さんはとても喜んでいました。通常、彼らは、一人で知らない店に入って注文するということができなかったりするし、店内の周りの人たちもサポートには慣れていません」
スーパーで転倒した車いすの男性に周囲は…
「また、スーパーで車いすの男性が買い物の荷物の重さで転んでしまったところ、周りの人がどう対応していいかわからずにサーっといなくなってしまったという話を聞いたことがあります。
日本では、子供の頃から、特別支援学校や支援学級と普通学級というように分断されていますから、さまざまな障がいのある人に自然に接したり介助する機会はありません。車いすで動くことがどういうことなのか、目が不自由なのがどういうことなのかがわからなくて、どう対応したらいいかがわからない。
一緒に遊んだり介助する経験をして育っていれば、車いすの利用者が転んだら、迷わず手助けする大人になるでしょう。理屈や頭で考えるのではなく、無意識に手が出て当たり前に介助できる人がたくさんいる社会が、バリアフリーな社会と言えるのではないでしょうか」
車いす利用者や障がいについて考えていくことは、今後の超高齢社会に対応することにもなる、と指摘する。
「経済効率を重んじる企業活動とマイノリティの多様性を受け入れることは対極にあるので、こうした問題の解決は企業だけに求めても難しいと思います。障がい者だけでなく、車いすや認知症の高齢者も急速に増えていくなか、社会にどういう大人を増やす教育にしていくかを含め、価値を転換していかなくてはならないのではないでしょうか。誰もが一生健康でいる保障はなく、いつ事故や病気で障がいを負ったり、車いす生活になってもおかしくないわけですから、特別なことではなく、誰にとっても身近な問題でもあるはずです」
文/まなナビ編集室 写真/(c)Viacheslav Iakobchuk / fotolia
初出:まなナビ