在宅介護を頑張る人へ~漫画家&介護福祉士・國廣幸亜さんに聞く「介護職のホンネ」
さまざまな在宅介護の家庭をみてきたプロとしてのアドバイス
「在宅介護は、受ける人の状態、各家庭の事情、環境は皆違います。なので、どうあれば成功・失敗ということはないと思いますが、ご家族だけで完璧な介護をめざし、まじめに取り組み過ぎると、とくに慣れないうちは思いがけない変化やハプニングで生活が混乱してしまい、介護が重荷になってしまう場合もあるかもしれません。
まずは、無理をせず、介護を1人で抱え込まないでほしいと思います。介護をする方が、なるべく普段と変わらない暮らしが続けることが、介護を長続きさせる大きなポイントではないかと思います」
デイサービスなどを利用して、介護者も息抜きを
「『おばあちゃんをデイサービスに行かせて、その間に自分の好きなことをするのは心苦しい』とおっしゃるご家族の方がいますが、むしろ逆で、ぜひ息抜きの時間に充ててほしいと思っています。
私たちは毎日介護に向き合わなければいけないことがどれほど大変なことかたくさん見てきました。ですから、リフレッシュをして、心の余裕を持っていただくことがどれほど重要なことか、よく分かっています。
仕事、趣味、習い事など好きなことをして、ほっとできる時間と居場所を保ってほしいです」
そのためには、介護が負担にならない環境づくりをケアマネジャーに相談して整えることが大切だという。
「訪問介護やデイサービスで関わる介護福祉士などは、ケアマネジャーと必要な情報を共有しています。介護を受ける方の状態、各家庭の事情や環境など、1ケースごとの個別性を考慮して、ケアプランが立てられ、昨今は『介護者支援』も重視されています。ご家族は介護が始まったら、すぐには必要でなくても介護負担軽減や介護者支援として地域にどのようなサービスがあり、どうしたら利用できるか聞いておくといいでしょう」
他にも、自費利用にはなるが介護保険外のサービスを知っておくことも大切という。
「例えば、『通院など外出の付き添い』や『家族が外泊する際の夜間の見守り』、『旅行や長距離移動の介助』、『介護タクシー』、『配食サービス』、『福祉用具相談』など、困ったときに頼れるサービスを把握しておくのも環境づくりのひとつだと思います。
ホームヘルパーなど、介護の仕事は、ただ家事や身の回りのお世話という印象があるかも知れませんが、そうした作業的なことのみならず、利用者の方のさまざまな情報を汲み上げて、更に次の専門職につなげています。『生活機能維持』や『リハビリテーション』という側面からもサポートできるように考えたり、利用者の方とご家族の希望を少しでも実現できるように工夫たり、生活をあらゆる面から支える一員であると思っています。
ですので、家族だけで介護を担うとは考えず、さまざまなサービスをすることが介護を受けるご本人にとっても役立つと気持ちを切り替えて、いろんな第三者に介入してもらってください。
まずは、家庭という閉ざされた空間で頑張り過ぎてしまう前に風通しを良くすること、人に頼る勇気を持っていただきたいと願っています。
そしてそれ以前に私たち介護職員は利用者の方やご家族に話しかけていただける存在になれるように努力すること。困っている方が頑張るのではなく自然に頼れるような地域や社会になっていくことが必要だと思っています」
介護職員は、介護を受ける人のホンネを家族に伝える役割も
介護施設の利用者から、家族にはなかなか話せない本音を聞く機会も多かったという。
「他人だから本音を言いやすいということがあるのかもしれません。高齢者の中には、ご家族への愛情や感謝を素直に表現するのが苦手な人も少なくないんです。介護を受けている方が家庭では見せない一面を知ることによって、疲労や悲しみが軽減される場合もあると思い、私は、お話の内容によって、共有しておくとよいと思うことはご家族に伝えるようにしていました」
介護職員と家族のコミュニケーションで介護負担の軽減を
デイサービスの送迎のときや連絡ノートなどで、介護職員は家族とコミュニケーションをとっているが、それは、家族の介護負担の軽減の一助にしたいという考えもあるからだと國廣さん。
「ご家族も心配なことや、知りたいことがあったら、ぜひ私たちに話してみてください。信頼関係ができると、介護の負担感が減るのではないでしょうか」
関わった魅力的な利用者が懐かしい
介護職を仕事として経験したことで、一番影響を受けたことは何だろうか?
「今は私も40代になり、介護の仕事を始めた頃よりも『自分事』として介護を考えられるようになりました。世界最速で超高齢社会になった日本で、自分も、誰も介護と無縁ではない『介護の時代』を生きているのだと思います。
なるべく自立するというのは、逆に頼れる先を増やし、支え合う関係を作りながら、個々の生活を維持することではないでしょうか。ご親戚やご近所なども含め、介護に関わる人がたくさんいるのがいいでしょう。
これから介護の時代を生きる私たちは、そんな発想の転換が必要ではないかと、仕事を通じて学んだので、自分の人生にも活かしたいです。
利用者さんを思い出しながら漫画を描いていると、それぞれ魅力的で懐かしいです。今も、自分が励まされています。介護を受ける方々は決して弱い人ではなく、強く、たくましい人生の先輩方です」
國廣幸亜(くにひろ・ゆきえ)
幼少の頃より漫画家を志し、1995年に愛知県より上京。会社員をしながら投稿の日々を送る。1998年、講談社『BE・LOVE』誌上にてデビュー。デビュー作は『ささら』。以後ホームヘルパー、介護福祉士などに従事しながら創作活動を続ける。作品は、『実録!介護のオシゴト―楽しいデイサービス (Akita Essay Collection)』『実録!介護のオシゴト 3 楽しいデイサービス&オドロキ訪問介護 (akita essay collection)』『ほっと! 介護日誌~介護の時代を生きる私たち~(書籍扱いコミックス)』(全て秋田書店刊)ほか。
イラスト/國廣幸亜 撮影/横田紋子 取材・文/下平貴子