兄がボケました~認知症と介護と老後と「第96回 想定外の展開」
ライターのツガエマナミコさんの兄は。特別養護老人ホームに入所中。その施設内で新型コロナウイルスに感染し、肺炎を併発し病院に救急搬送されました。入院当初は、万が一があることも医師に説明され、気を揉んだマナミコさんでしたが、その後、順調に回復し、すぐに退院できるはずだったのですが…。
* * *
まさかの転院?
「すぐに退院できそう」と申し上げておりましたが、予想に反して今も兄は入院中でございます。
主治医の先生が「順調に回復しているので来週には退院できそうです」とおっしゃったのは、感染症の隔離措置が解けて間もなくでございました。
「大したことがなくてよかった」と週明けから退院のご連絡を心待ちにしておりました。でも週末になっても一報がなく、肺炎が長引いていることが予想されました。
数日前の面会では笑顔を見せてくれていたので、すんなり退院できるものと思っていただけに心配は募りましたが、きっと来週こそは退院できるだろうと希望を持っておりました。
そんな矢先、先生からお電話があり「8日前の段階では今週中に退院できると思ったのですが、痰の吸引回数が1日3~5回から下がらないのです。介護施設では夜間看護師が不在で吸引ができないと聞いているので施設にはまだ帰れません」とのこと。
さらにその先は想定外の展開でした。
「うちは急性期病院なので、このまま入院というわけにはいかなくて、別の病院に転院していただきたいのです」
完全に豆鉄砲を食らったハトのように一瞬すべての動作が止まりました。
「なるほど」というのが精いっぱいで、頭の中では「どうしたらいいのだろう?」という疑問符と正体のない不安が渦巻いておりました。
「もちろん、転院先はこちらで探します。今日は“転院になります”というお話と、その同意を伺うためにお電話しました」と、簡素で端的でございました。
こんなとき、患者サイドに何が言えるのでございましょうか。わたくしには「わかりました。よろしくお願いします」しか思いつきませんでした。
午前中にこのお電話があった日の午後、今度は「転院していただくにあたり面談でいろいろお話したい」と病院の相談員さまからお電話をいただきました。
明日はそのお約束の日。兄の面会がてら転院のためのお話を伺ってまいります。
転院は人生初のケース。これまで家族に転院を経験した者はおりません。ツガエはまた一つ新たなバージョンを学ぶことになりました。
転院話が持ち上がる前、兄に「もうすぐ退院できるみたいよ」と伝えたときには、まるで理解したかのようにゆっくりと首を縦に動かしてニッコリしていただけに、病院から出られたと思ったら結局また病院だったとわかった兄はどんなにガッカリするだろうかと、せつない限りでございます。「もうすぐ帰れるよ」と言ったときのちょっと嬉しそうな兄の顔から「やはり病院は嫌なのだな」と察することができたので、なおさら辛うございます。
でも、転院して数日で吸引が不要になれば、また施設に帰れるはずでございます。そこに一縷の望みをかけるしかございません。
ただ、入院生活が長引いて、兄自身が気力を失ってしまったらどんどん弱っていくような
気がいたします。まだ67歳とはいえ、認知症で寝たきりの痩せた身体なのでございます。
元気になって何ができるというわけでもないのに「元気になって」と願うのは、わたくしのエゴでしかないような気もして、願いながら大いに滅入ってもおります。
まぁ、わたくしが何を願っても願わなくても、兄の運命はなるようにしかならないと腹を括ることにいたしましょう。
そういえば入院保険のことを兄が入っている保険会社にお電話してみました。180日間(半年)のうちトータルで最大124日分が出る(1日5000円の入院保険)ものだそうでございます。その後も半年間空けば、また同様に180日間のうち最大124日分が出るそうな。
最近は入院費も上がっておりますし、治療費や薬代、レンタルのパジャマやオムツ代もかかるので、1日5000円では到底足りませんが、ないよりはマシでございます。
電話口で転院の可能性があるとお話すると、「今の病院のお支払が済みましたらそこで請求していただいて、また転院先を退院されたときに同じように請求していただくのが、わかりやすいかと思います」とのお話でございました。
面倒な後見人手続きが終わったと思ったら、入院だ、転院だ、保険だとまだまだ手続きに追われるツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
