兄がボケました~認知症と介護と老後と「第69回 兄は元気です」
ライターのツガエマナミコさんが兄の認知症介護や自身の老後についてなど、日々思うことを綴る連載。現在特別養護老人ホームで暮らす兄への週一回の面会を欠かさないマナミコさんですが、施設で過ごす兄の様子に一喜一憂しています。先日、てんかんの発作が起きたばかりの兄ですが、直近の面会では穏やかな様子だったようで…。
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兄は“妹たらし”
今年に入って、近所の中学校の制服が変わっていることに気づきました。徒歩3分とかからない距離の中学なので常に登下校の中学生たちを町の風景として見てまいりました。その風景に違和感を覚えたのがこの冬でございました。
何を隠そう、その中学校はウン十年前わたくしも、わたくしの兄も通った母校でございます。在学当時、女子は紺色のブレザーに紺色のボックススカート、男子は黒の詰襟といういわゆる公立中学の古典的スタイルでございました。兄の詰襟姿を見て祖父母が喜んでいたことをうっすら覚えております。ところが最近見た彼らの出で立ちは、男女共にモスグリーンのブレザーに、グレーっぽいスカートorズボンで、私立中学のようなあか抜けた雰囲気を醸し出しております。
調べてみると昨年度からすでに変更されていたようで、公立中学校の制服も変わるものなのかと、目から鱗の出来事でございました。最近まで気づかなかった要因は、100%と言っていいほど全員がジャージ通学であること。制服は家で洗濯ができないことから何年も前からジャージ通学が一般化したようでございます。
言われてみればすれ違う中学生はみなジャージ姿。その違和感にはまったく気づいておりませんでした。わたくしが制服姿を大量に見かけたあの日はなにか特別な式典でもあったに違いありません。はて? そんな特別な日のためだけに制服が存在する時代なのでございましょうか。きっとお子さまがいる方々には「何言ってるの、今頃」というお話でございましょうね。独り者とは、かように世の中と乖離してしまう危険をはらんでおります。
どうりでメルカリあたりで「ほとんど汚れなし」として制服が売りに出ているわけでございます。わたくしの制服は3年間着たおして、卒業する頃には型崩れし、お尻のあたりはテカテカで、とても人さまにお譲りできるしろものではございませんでした。制服の概念も変わったのでございますね。
制服ひとつで思うことがたくさんあり、おかげさまでわたくしの中に制服への特別な感情があることを発見した次第でございます。OBとしては母校の制服が変わってしまったことに一抹の寂しさがございますが、今のおしゃれなモスグリーンの制服もいつか必ず古びたデザインと言われる日が来るのですから長い目で見れば五十歩百歩。いやいや少子化が加速したら、制服どころか中学校ごとなくなってしまうこともあり得ます。近くにまだ思い出の校舎があり、思い出の軟式テニスコートが存続していることだけで十分なのだと今更ながら噛みしめております。
今週の兄も元気そうでございました。またちょうどおやつを食べさせていただいているところで「今日はフルーツ盛り合わせでした。もうお腹いっぱいだと思います」とスタッフさまがニッコリ。兄も1~2センチ角のフルーツをヨーグルトで和えたものをおいしそうにモグモグしておりました。食欲がある様子をみるとホッといたします。
わたくしが三拍子の歌を歌いながら三拍子の指揮まねをすると同じように手をヒラヒラさせたり、「お~てて、つ~ないで」と歌うと、わたくしの手を両手できゅっと握ったりしてキュンとさせられました。会話こそできませんが、兄は立派な“人たらし”ならぬ”妹たらし“でございます。
先日は、昨年お父さまを亡くされて、お母さまと二人暮らしをしている友人とランチをしました。「父が亡くなってから認知症が進んだ気がする」と言い、以前にもまして大変そうな毎日でございます。
「お母さまが要介護度3になったら特別養護老人ホームにお願いする?」という酷なわたくしの質問に、「家にいたいと言う限りは家にいさせてあげたい」と、彼女らしい答えをしておりました。わたくしができることは、彼女が思い切り愚痴を吐き出せる時間であり、場所になること。わたくしにとってこの「兄ボケシリーズ」がそうであったように、励ましていただいた読者のみなさまのコメントさながら、厚い包容力でサポートしたいと思っております。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ
