1420万超の人口を抱える東京都ならではの課題とは?介護人材確保に向けた施策で超高齢社会に立ち向かう「介護職のステイタスを上げたい!」【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.7・前編】
厚生労働省の推計によると、2026年度の介護人材は25万人の不足、2040年には57万人が不足すると予測されている。こうした状況を受け、東京都・福祉局が介護人材の確保や育成に乗り出している。東京が抱える課題や施策について、担当者に想いを聞いた。【全2回の前編】
挑戦者たち/プロフィール
東京都・福祉局 高齢者施策推進部・介護保険課長 向山倫子(むこうやま・ともこ)さん
2003年、東京都庁に入庁。高齢者や介護に関する施策のほか、インフラ、観光、文化、生活困窮者の支援など幅広い施策を担当。二児の母。趣味は器集めと料理。
東京都が目指す「介護」とは
「あんしんな医療介護と社会参加でいきいきChoju社会へ」
これは小池百合子東京都知事が掲げる政策「東京大改革3.0」に盛り込まれた医療や介護、高齢者の暮らしに関わる公約の大きなテーマの1つだ。
具体的な公約には、「おひとりさま高齢者の支援を強化」「在宅医療介護支援強化」など支援を受ける側を対象としたもののほか、「東京都版介護職員昇給制度を構築」といった介護現場で働く人たちに焦点を当てたものもある。
こうした公約のもと、現在東京都が取り組む「介護・福祉」に関する施策について話を伺うために都庁を訪ねた。
東京都・福祉局の取り組みとは?
庁舎26階、一面ガラス張りの窓から新宿の高層ビル群が一望できる。福祉局のオフィスは明るく開放的だ。
パーテーションで仕切られた打ち合わせスペースで取材は始まった。
「お待たせいたしました!」
ノートPCや書類を抱えて慌ただしく現れたのは、東京都・福祉局で介護保険課長を務める向山倫子(ともこ)さんだ。
「東京都では介護・福祉分野における3か年計画※を策定しています。この計画に基づいてさまざまな取り組みを実施しています。
東京都が目指す高齢者施策の理念は、『地域で支え合いながら、高齢者がいきいきと心豊かに、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる東京の実現』です」
※第9期東京都高齢者保健福祉計画
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/gaiyou-ver3
向山さんは、大学では社会学を専攻し、「社会をより良くしたい」という思いを抱き、入庁して20余年、昨年から同部署に配属となった。
「私自身、祖母の介護を目の当たりにし、介護保険の重要性、そして介護という仕事の尊さを、身をもって実感しました」と、向山さんは静かに語る。
具体的にどんなことに取り組んでいるのだろうか。都が抱える課題や施策について聞いた。
東京ならではの介護をめぐる課題も…
東京都は全国でも飛び抜けて居住者が多い。1420万を超える人口を擁する巨大都市、東京ならではの課題がある。
「全国的には高齢者の割合は2040年にピークを迎えると言われていますが、東京都は2050年まで高齢者が増加し続ける見込みです。
一方で、介護保険制度は“国全体の社会状況”から法の枠組みが定められるものです。
つまり、東京都は2040年を超えても介護サービスの需要は増え続け、後期高齢者の比率も高まっていく。このことから、東京都だけが全体のトレンドから置いてけぼりになってしまう可能性もあるわけです。これは都が抱える最大の課題であり、今後取り組んでいかなければならないことです」
こうした課題解決に向け、向山さんが所属する福祉局・高齢者施策推進部では、高齢者や介護に関する多彩な施策を展開している。中でも今注目なのが、人材不足が叫ばれる介護職にまつわる施策だ。
未経験者に介護職の体験を実施
「東京都は人口も多いですが、介護事業者の数も圧倒的に多い。他産業との競争が非常に激しく、介護現場の人材の確保は非常に難しい状況にあります。加えて、東京には山間部や離島もありますし、小規模な事業者も多く、課題も多種多様です。
介護人材確保のための施策としては、確保・定着・育成の3つの枠組みで多面的な取り組みを行っています」と、向山さん。
人材確保に向けた取り組みとして、令和6年度から開始したのが「TOKYOかいごチャレンジ職場体験事業」、略して“かいチャレ”だ。
「かいチャレは、多様な人材の参入促進を目標とし、職場体験をしていただく制度です。
学生さんや主婦・夫のかた、元気なシニア世代など未経験者を対象に介護職の体験をしてもらいます。そこから就業場所とのマッチングを行って、定着支援まで一気通貫でサポートしています。
事業は人材派遣業社に委託していて、都からは職場体験に必要な実費相当の資金を支給、参加者には1日5000円を支給しています。現在、年間1000人ほどの参加があり、実際に10分の1程度が就職まで至っている状況です」
新たな視点で「介護職のイメージアップ」を
「介護の仕事の魅力や意義を広く伝えていきたい」という都が抱える課題を背景にスタートしたのが「介護WITHプロジェクト」だ。
「『介護WITHプロジェクト』は、介護現場のイメージアップを目指す戦略的事業です。
介護の仕事と夢や趣味を両立している人や、多様な働き方を実現している事業所をウェブサイトで紹介し、介護の仕事の魅力を発信しています。
事業を始めるにあたり、 “マッチョ介護士”、ボディビルダーのかたが介護職を務める事業所を知り、介護職に対する印象が大きく変わる可能性があると感じました。この事例をヒントに、企画をスタート。介護のもつイメージの改善や向上に加えて、事業所にとっては取り組みが評価され、世の中に周知できるメリットもあると考えています」
東京都・福祉局では、このほかにも東京都福祉人材情報バンクシステム「ふくむすび」も運用。介護人材と職場のマッチングなども行っている。
介護人材のステータスを上げたい!
こうした取り組みによって目指すのは「介護人材のステータスを上げること」と、向山さんは続ける。
「多くの介護事業所を訪問する中で、介護の仕事は質が高く、働くかたがたはみなプロフェッショナルであると実感しました。このことは社会にしっかり伝えていく必要があります。
しかし仕事の質の評価や明確な指標があるわけではないので、その素晴らしさを発信し続けていくことは大事です。もっともっと介護職のステータスを上げていかなければと考えています。
ステータスを上げるためには、処遇改善も必要です。これまでも事業所に対する補助金など一時的な支援はしてきましたが、さらにもう一歩進めて、家賃補助など継続的な支援を実施しています。
例えば、介護職員とケアマネジャーを対象に、東京都の住宅費などが高いことに着目して、負担軽減をサポートしています。『居住支援特別手当』として月1万円、勤続5年目までは2万円を支給しています」
こうした国の制度を超えた東京都独自の支援制度の導入のほか、カスタマーハラスメント対策の強化、経営人材のサポートなど、「手前味噌かもしれませんが、やっていないことはない」と強調するほど、多くの施策を同時並行的に進めている。
介護現場の改善策として、今後力を入れていきたいことはまだまだあるという。
「今年度は、小規模事業者を含め、すべての事業者が利益を生み出せるよう、経営支援にも力を入れていきたいと思っています。それによって東京の介護サービスもより良く変わっていくと信じ、これからも取り組みを続けていきます。
介護職の労働環境を整え、その価値を高めるために、向山さんは日々奔走している。海外にも視野を広げて――(次回につづく)
撮影/柴田和衣子 取材・文/斉藤俊明
