予防も可能!? 認知症ワクチンが5年以内に活用される見込み
そんな先行きの見えない認知症の治療薬の研究が今年の7月、大きく動いた。7月13日、米カリフォルニア大学分子医学研究所と豪フリンダース大学の研究チームが、世界初となる「認知症ワクチン」を共同開発したと発表し、世界中の研究者が注目したのだ。
前述の通り、アルツハイマー型認知症は脳内にたんぱく質「アミロイドベータ」が蓄積することで進行するとされる。共同研究チームはあるワクチンに特殊な補助剤を組み合わせることによって、このたんぱく質を脳内で分解できることを発見したという。
そもそもワクチンとは、人間の体内にない有毒なウイルスや細菌などの弱毒株や死菌をさす。これを体内に投与して免疫系を刺激し、体内に抗体を作らせて病気に対抗するのが「ワクチン療法」だ。この仕組みを利用したのが、身近なインフルエンザワクチンや日本脳炎ワクチンだ。大阪市立大学医学研究科認知症病態学の富山貴美准教授が解説する。
「簡単に言えば、認知症ワクチンは脳内で悪さをするアミロイドベータなどたんぱく質の働きをストップさせるんです。しかも体内の免疫系が学習すれば、体内で持続的に抗体が作られるようになり、継続的にワクチンを投与しなくてもすみます」
このワクチンが画期的なのは、認知症を「予防」する可能性があることだと富山准教授は指摘する。
「認知症ワクチンを予防的に投与して、アミロイドベータなどの働きを抑制する免疫系を作ることができれば、認知症の発症を予防できるかもしれません」
根本的な治療薬がなく、一度発症したら病気の進行を食い止めることしかできなかった認知症をワクチンで予防できるようになれば、新規患者の増加を食い止められる。このワクチンさえ打てば、「自分はいつボケるだろうか」という不安を払拭できるかもしれないのだ。
米ABCニュースによれば、これらの研究に米政府が投資した資金は2016年だけで10億ドル(約1000億円)を超える。それだけの巨額を投じる価値があると米政府が見込んでいるのだ。
共同研究チームのニコライ・ペトロフスキー教授(豪フリンダース大学)は、臨床実験の成功を前提としながら、認知症ワクチンの実用化にこう自信を見せる。
「この先3年から5年以内には、実際に認知症ワクチンが医療現場で充分に活用される見込みがある」
さらに同教授は、認知症の初期段階にある人ならば、ワクチン投与で症状の回復も見込めると述べる。年齢50才以上の健常者ならば、ワクチンを予防的に接種できると主張する。
近い将来、インフルエンザのように認知症の予防接種を受けることが当たり前になるかもしれない。その一方で、富山准教授は、「発症後」の患者への効果を疑問視する。
「すでに認知症を発症した患者は脳神経細胞がかなり死んでおり、その細胞を元に戻すか、生き残った細胞を元気づける必要があります。しかし、脳の神経細胞を元に戻すことは非常に難しい。iPS細胞や遺伝子治療を用いた治験も他の病気の分野(パーキンソン病)で始まっていますが、まだまだ道のりは遠い」
※女性セブン2016年9月22日号