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連載

「父の命日と松茸ごはん」NO老いるLIFE~母と娘のほんわか口福日誌~第59

 漫画家のうえだのぶさんは山口県で慢性膵炎を抱える母とふたり暮らし。栄養士の資格をもつのぶさんは、母のために膵臓を労る脂質控えめ”NOオイル”な食生活を探求する日々。母は介護予防のためのデイサービスでリハビリに励んでいる。そんな母娘にとって、10月は特別な意味をもつ月だという。

特別な日

 10月には私にとって「特別な日」が3つあります。

 ひとつは誕生日。もうひとつは「まんが家デビューの日」。1999年の10月に4コマまんが家としてプロデビューしました。そして3つめが「父の命日」。1997年の10月に58才で他界しました。肺がんでした。

 私、父が亡くなるまでは他の仕事をしてました。まんが・イラストは趣味の範疇で。

 31才の時に父が亡くなり、心の整理をするため地元で個展を開き、そこで地元の漫画家の先生と出会って、「まだできるよ」と言われ東京の出版社に持ち込みに行って、33才でプロデビューしたんです。人生って不思議ですよね。

 今年は父が他界してから28年目。とうとう亡くなった時の父と同じ年齢になります(父は59才の誕生日前に逝きました)

 父の葬儀で親戚や父のお友達が「早すぎる」「若すぎる」と泣いてくださるのをいまひとつピンとこないまま見送りましたが、あらためて「こんなに若かったのか」と実感しています。

 毎年父の命日には仏壇に「松茸ごはん」を供えます。

 初めは「松茸」だったんです。さすがに国産は無理なので外国産のお手頃なものを買ってお吸い物にして供えていました。でもあれって販売期間が短いのかタイミングが合わないのか、なかなかスーパーでは出会えず、いつの頃からか「松茸ごはんの素」で炊き込みごはんを作って供えるようになりました。

父と松茸の話

 なぜ松茸?

 えーと、ちょっと悲しい話になりますごめんなさい。

 父は入院した時からがんの位置が悪くて、体調はいい(熱も痛みもない)のに誤嚥防止のため食事ができず、栄養点滴で過ごしていました。がんであることは本人の希望で伏せてあったので(19話20話参照)、つきそいの時にはお互いそしらぬ顔で「退院したら何食べたい?」みたいな話をしていました。

 父は必ず「松茸の土瓶蒸し」と一番に言っていました。あとはお寿司とか天ぷらとか。部屋のテレビで流れるおいしそうな料理を観ながら「こんなの食べたいのう」とかも言ってました。

 最期の日、父は手術中に意識を失いました。待合室にいた母と私は突然呼び出され、人工呼吸器をつけた父の横で呼びかけをするよう言われました。

先生「お父さんの意識が戻るようなことを言ってあげてください」

 ドラマで出てくるあれです。「お父さん!」「起きて!目を覚ましてー!」ていう。もちろん言いましたよ。必死で呼びかけました。でも父の意識は戻りません。

 そこでふと頭に浮かんだのが「松茸」でした。

 入院から3か月。何も口にできなくてきっとおいしいものが食べたいに違いない。そうだこれだ。

「お父さん、松茸!松茸食べよう!松茸!松茸!」

 突然父の耳元で叫びだした私にぎょっとするお医者さんと看護師さん。

 でも母もすぐ察して「お父さん松茸!土瓶蒸し!」と叫び始めたんです。今思い返してもシュールな光景だったと思います。生死の境を彷徨っている人間の横で涙を流しながら「松茸!」「土瓶蒸し」と叫び続ける母娘。

 結局意識は戻ることなく、父は数時間後に息を引き取りました。

 そんなわけでわが家では毎年仏壇に「松茸」を供えるんです。初めの数年間は法事で親戚や父のお友達と共に「お吸い物」を飲みながら父の思い出話をしていました。今は母と2人(時々、弟)で「炊き込みご飯」を仏壇に供え手を合わせます。

 毎年同じ思い出話をして、同じ後悔を口にして、同じように泣いて、「お父さんの分もおいしいものいっぱい食べて楽しく過ごそうね」と言いあって終わります。

 ところで、私はひょんなことから「国産松茸の土瓶蒸し」なるものをご相伴に預かる幸運な機会がありましたが、人生で一度っきりです。母も「見たことない」と言います。

 家で作ったことなんてないのにどこで食べたんじゃろー、と母がこの話になる度に言います。貧乏サラリーマンの父がいったい、いつ、どこで、なぜ⁉

「あっちに言ったら聞いてみるけー(みるから)」

 松茸ごはんを食べながら母がボソッと言いました。

NO老いるMemo「キノコを使ってNOオイルな旨み」

「旨みの相乗効果」という言葉を聞いたことありませんか?

「旨み」というと「グルタミン酸」がおなじみですが、他にも食べ物に含まれる旨みの成分はいくつかあって、それを合わせると旨みがぐーんとアップする、というのが「相乗効果」なんです。

 例えば「かつおだし」こちらは「イノシン酸」、そして「こんぶ」こちらは「グルタミン酸」です。スーパーで売ってる「かつお・こんぶ」の混合顆粒だし。あれ「相乗効果」です。

 そしてなんと、松茸・椎茸・しめじをはじめ、ほとんどのキノコには「グルタミン酸」と「グアニル酸」という2種類の旨み成分が最初から備わっているんです。生まれもっての「混合だし」。さらにこの組み合わせは「相乗効果」が大きいんだそう。

 しかもキノコはNOオイル。食物繊維も摂れます。ブラボー。

 秋の炊き込みご飯やこれからおいしくなるお味噌汁や鍋料理、ぜひお手頃なキノコを活用してください(キノコ業界の皆さまから拍手がいただけそう!?)。

*参考資料「コツと科学の調理辞典 第3版」医歯薬出版。

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絵と文

漫画家・うえだのぶ

うえだのぶさん

 イラストレーター・漫画家。58才。山口県で83才の母とふたり暮らし。40代で地元の短大に入学し、栄養士の資格を取得。地元山口県を拠点に、漫画を利用した食育や時短調理などの栄養講座の講師なども務めている。
アメブロ:https://ameblo.jp/abareinupoti/ インスタ: https://www.instagram.com/nobuueda/?hl=ja
『読者体験!リアル迷惑人間大集合1 』Kindle版が発売中。

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