話題の脳トレ スピードトレーニング「ブレインHQ」認知症専門家の評価は?
軽度認知障害(MCI)と診断され、2年半前から朝田氏のクリニックに通院するYさん(64歳)は4か月ほど前から『ブレインHQ』を始めた。このトレーニングは1回20分で週3回以上行うことが推奨されているが、Yさんはほぼ毎日20分ずつ取り組んでいるという。
「このゲームはすごく面白くて、あっという間に時間がたってしまいます。熱中しすぎて財布を忘れたり、電車を乗り過ごしたりしてしまうくらいです(笑い)。数回やれば覚えてしまうゲームもありますが、多くのゲームがあり、それぞれ違った遊び方ができるので、飽きずに続けられています」(Yさん)
Yさんは朝田氏の指導のもと、『ブレインHQ』以外にも運動やアートなどのプログラムにも積極的に参加し、「今の状態からなんとか這い上がろうとがんばっています」とのこと。
「このゲームの場合、連続して遊ぶのは20分が限度。無意識のうちに集中しているのか、20分くらいたつと頭が痛くなってくるんです。それだけ、脳が鍛えられているという証拠なんでしょうね」(Yさん)
Yさんの認知機能は、クリニックに通い始めた頃よりはかなり改善されてきたが、このゲーム単独での効果は定かではない。しかし、Yさんにとって『ブレインHQ』が作業興奮を引き起こすツールであることは間違いないようだ。
10時間のトレーニングの成果が10年後にも?
アメリカで行われた実証実験では、65歳以上(平均年齢74歳)の高齢者2785人を4グループに分け、3グループは「スピードトレーニング」を含め3種類のトレーニングを受け、残り1グループはトレーニングを受けなかった。その後、10年間にわたって追跡調査したところ、「スピードトレーニング」を受けた人は10年後までの認知症発症リスクが48%低かった。
この実験の成果について、朝田氏はこう評価する。
「長期間にわたり、多くの被験者を観察した大規模な試験で、試験の方法を見ても信頼できる結果と言えるでしょう。ただし、高齢者がたった10時間、長くて18時間のトレーニングを受けただけで、その成果が10年後まで持続していたというのは、にわかに信じがたいお話です。トレーニングで学んだテクニックを維持するスキルも授けたのかもしれませんね」
認知症患者の8割は女性
現在、日本の高齢者(65歳以上)の人口は3384万人、総人口に占める割合は26.7%となった(総務省統計局調べ)。また、認知症の患者数は推計で462万人、軽度認知障害(MCI)の人は推計400万人に上る(平成24年・厚生労働省調べ)。つまり、高齢者の約3割は認知機能に何らかの問題がある状態だ。
「年齢別に見てみると、認知症の患者は85〜89歳で急増します。また、認知症の発症について、70代までは男女差はありませんが、80歳を境に、女性の患者が男性の約3倍と、圧倒的に多くなります」
認知症には、若年性のもの、アルツハイマー病などいくつかのタイプがあるが朝田氏は、「高齢になって発症する認知症には、遺伝の影響はほとんど関係ありません。それよりも『80代までどんな生活をしてきたか』が発症リスクを大きく左右する可能性があります。言い換えれば、生活のしかたによって予防効果が期待できるのです」
運動や一部の脳トレでは、認知症対策としての効果が科学的なデータによって裏付けられている。実際にやってみるかどうかが、80歳以降の明暗を分けるかもしれない。
取材・文/市原淳子
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朝田隆(あさだ・たかし)
「家族みんなで 無くそう逆走」監修。1955年生まれ。メモリークリニックお茶の水院長、筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学医学部特任教授、医学博士。数々の認知症実態調査に関わり、軽度認知障害(MCI)のうちに予防を始めることを強く推奨、デイケアプログラムの実施など第一線で活躍中。『効く!「脳トレ」ブック』(三笠書房)など編著書多数。