「1日5回笑いましょう。高齢者こそ暮らしに笑顔を」医師が明かす免疫力を上げる笑いの必要性
幼い頃から「笑い」に取り憑かれてきたR60記者。笑いと健康を研究する医師に取材し、笑いが健康にもたらす効果について学んだ。「笑い療法」なるメソッドがあり、介護や医療現場でも笑いを取り入れているという。日常生活でどういかせるのか、そのコツをリサーチした。
教えてくれた人
外科医・医学博士 高柳和江さん
神戸大学医学部卒。クウェートの国立病院で小児外科医療に10年間従事。亀田総合病院の小児外科医長や順天堂大学小児外科非常勤講師などを歴任。一般社団法人「癒しの環境研究会」https://www.jshe.gr.jp/index.htmlを発足させ、医療における笑いや癒しの研究を続ける。『びっくりするほど健康になる!
「笑い」の健康効果を取材してわかったこと
大阪で幼少時代を過ごし、人生を過ごす中で「笑い」が身近にあった記者。笑いと健康の関係について取材をする中で、医師の高柳和江さんから、「笑い療法士」の養成を通じて、笑いを医療現場に届ける活動を行っていることや、笑うことで免疫力が高まるという話を伺った。
→高齢者ほど笑いを!《笑いが健康に及ぼす効果》について専門家に直撃「医療現場で活用されている笑い療法」とは
改めて笑いについて考える機会を得ることができたのだが、俳優として喜劇にも取り組んでいた若かりし頃の記憶が蘇った。
舞台役者の端くれだった当時、初舞台の稽古場で「笑うシーン」の稽古をした後に、仲間と一緒に居酒屋で打ち上げをしていたときのこと。笑い方には色々あるが、笑い声の最初の音はいずれも脱力しながら息を抜く「は・ひ・ふ・え・ほ」から始まることを発見したのだ。
この要領で、五十音別に親和性のある喜怒哀楽を並べてみると、つまり「は・ひ・ふ・へ・ほ」は“喜(笑い)”を表す表現となる。そして、「か・き・く・け・こ」は“怒”、「あ・い・う・え・お」は“哀”、「さ・し・す・せ・そ」は“楽”にあたるのではないか、と。
「あぁ、えんえん」などは哀しみ、「キーッ、くやしい」などは怒り、「燦々、すっきり」などは楽しさを表す、といったように。
日本語の成り立ちと「笑い」の関係性
日本語の成り立ちを調べてみると、日本語は常に母音と子音の組み合わせにより構成されている「母音優位」の言語であることが分かる。
これは英語やハングルや中国語のような「子音優位」な言語と違い、世界的に珍しく、この仕組みを持つ言語は日本のほかにはポリネシア系のみだという。
「母音と子音」優位の言葉は、左脳と右脳の使い方にも違いが生まれるらしい。特に母音優位の日本語を使い続けると、虫の音や雨の音を左脳で処理するようになり、オノマトペがたくさん生まれ、俳句のような短い言語で空間を作り出す文化が生まれたといわれる。
そんな脳を持つ日本人に響く、笑いのツボや笑いのアプローチがあるとしたら――。
「相手の共感を誘う笑い」とは
高柳さんは、癒しの環境研究会の代表を務め、患者の自己治癒力を高め病気の予防をサポートする専門家「笑い療法士」の育成をされている。笑い療法では、「無理に笑うのではなく、相手に共感し、笑いを引き出していく」ことが大切だという。「共感の笑い」こそ、共同体意識の高い日本人社会にふさわしいのではないだろうか。
高柳さんの活動の中でこの共感の笑いは、医療現場だけでなく、様々な場面で広がりをみせているという。
「『笑い療法士』の育成を20年以上続けてきましたが、もっと広く一般のかたにも笑いの力で元気になってもらいたいと思い、誰でも気楽に参加できる場として『笑医塾』を始めたんです」
この活動は『幸せに成功する生き方のコツ~Dr.高柳和江の笑医塾~』として、長らく講演なども行っているが、青森県から声がかかったという。
ほほえみの力、青森県から全国へ
「当時、青森の三村申吾知事から『先生、“笑い”の力で、いじめや自殺、虐待といった問題をなんとか減らせないでしょうか?』という問いかけに、やりましょうとお引き受けしたんです。
そこで私が考案したのが、『ほほえみの太陽法』というメソッドです。
・自分を好きになり、相手を幸せにしたいと思う
・ストレスを感じたときの対処の仕方
・否定的な内容を相手に伝える方法
・感謝する
この一連のコミュニケーションを学ぶ講座を『笑医塾』に取り入れ、青森県主催の『ほほえみプロデュース事業』として2007年から開始しました。
県の健康福祉部が募集した主婦を始め、看護師や介護職など医療・介護現場のかたから、一般のかたに至るまで、450人を超えるかたに研修会を開催。青森県で研修を受けたかたたちは、5万5千人以上に増えています」
当初は、県の事業として2年間の事業でしたが、「この事業をなくさないでほしい」という県民の声により、10年以上続けられ、青森県では25人に一人の県民が研修を受けたことになる。実際、自殺率もどんどん下がったという。現在では、青森に留まらず、千葉県成田市、兵庫県、東京都新宿区、葛飾区など、各地でこの「ほほえみの太陽法」のメソッドを取り入れた研修が実施されているという。
「『自分がただ笑う時』と『相手が自分の話しで笑った時』では、どちらが幸せですか?と聞くと、みなさん後者だと言います。相手から笑いを引き出すためには、頭を働かせる必要があり、笑ってもらえると達成感もあるんですね。講習では、この頭の働かせ方についても学べるんです。頭の回転がよくなったというデータもあります」
1日5回笑ってみよう
笑いが大好きな記者も、このメソッドをもとに日常でいかせることはあるだろうか?
「まずは、自分にとって安全な環境を作ること、心のゆとりを持つことから始めてください。
1時間の中で、55分忙しくても5分の時間を取ってコーヒーを飲む。そして「おいしい~」と心から言えたら、それはゆとりの時間です。
私は皆さんに、『1日5回笑って、1日5回感動しましょう』とお伝えしています。そのためにはまず、朝起きて鏡に向かって微笑んでみてください。髭を剃ってさっぱりしたら「う~ん、いいね!」「よし大丈夫、元気だ」でも、何でもかまわないので自分に笑いかけます。メイクをして鏡を見て「可愛い」「なかなかいけるわね」ってにっこりしてみるのも良いですね。
夜寝る前にも同じようにすれば、これでもう2回笑ったことになります。朝昼晩の食事のときに「おいしい!」と笑えば、5回になりますね。
毎日笑っているうちに、笑いが自分にくっついてきます。『元気がないから笑おう』ではなく、『笑うから元気になる』んですよ。高齢者ほど、笑うことでナチュラルキラー細胞が活性化して免疫力が高まる人間の仕組みを、うまく活用してほしいと思います」
高柳さんは、朗らかな笑顔で語ってくれた。笑いの力を信じて生きていた記者だが、60代はもっともっと笑うと決めた。
取材・文/立花加久