猫が母になつきません 第462話「あるく」
普段はびっくりするくらい歩きません。ほとんどは家の中と庭、この範囲内で過ごしています。
その友人は東京で働いていて、独身、一人暮らし、年齢は私よりも少し上。登山が趣味ということを知っていたので、私でも一緒に歩けそうな軽めのハイキングコースに行くことにしました。途中までは乗り物で行けるし2時間くらいのコースなら楽勝…と思ったのですが行ってみると徒歩のルートはアップダウンがはげしくけっこうきつい。こんなはずでは…私は途中からかなり後悔していました。インターネットに載っていた地図がかわいいイラストで描いてあったのでなんだか簡単そうに見えたのよぉ(泣)。休み休み登り、後ろから来た若い人には先に行ってもらいながら、なんとか展望台までたどりつくことができました。しかし、登ったら降りなくてはならない。友人に山の歩き方のコツを聞いたりしながらなんとか下山することができました。
以前右足のかかとを骨折しているので、長時間立ち仕事をした時とか、坂道をのぼっている時にふいにとかその傷が痛むことがあって、こんなに歩いたら後で絶対痛むだろうなと心配していましたが、幸い痛みは出ず。思ったよりも足はよくなっているのかもしれないなとうれしい発見。山歩きなんて一人では絶対にしないし、きついコースだったら途中でやめているし、誰かと一緒だからこそ得られた達成感がありました。
実は友人の一番の目的は観光ではなく我が家に来ることでした。今の家に引っ越した時に家から見える海の景色を撮って送ったことがあって、友人はその写真を見てなぜか「私はここに行かなくてはならない」と思ったそうで、1日目は迎えにいったその足でさっそく我が家に連れて来ました。東京生まれでずっと都会暮らしの友人からすると、遠くに見える海や山の景色、庭付きの古い平屋のいちいちが新鮮らしく「落ち着くわー」を連発し、心から我が家を満喫していました。
60代なら目前に迫った老後をどう過ごすのか?という漠然とした不安を多くの人が抱えているもの。彼女も私がなにげなく送った写真の風景を見て、こんなところでの暮らしはどんなだろうと思ったのでしょう。何歳まで働くのか?居心地のいい場所はどこなのか?ひとりで?誰かと?心身の健康がいつまで保てるかもわからない。でもほとんどの人は何もせず、不安なままどんどん歳をとっていきます。私とて同じ穴のむじななのですが、彼女からすると私の暮らしは「とてもうらやましい」ものだったようです。そう言われるとやはりうれしい。このところ生活空間を整えることに注力していた甲斐がありました。
ちょっとかわいそうだったのはさび。人がうちに泊まるなんて初めてなのでどうするだろうと思っていましたが、最初こそ奥の納戸に隠れていたものの、少しずつ出て来て遠くから友人の顔を見てまた隠れたりしていました。好奇心が勝ったのかな。少し不自由な思いをさせてしまいましたが、さびなりに私の友人をもてなしてくれました。ご協力、感謝。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。
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