《老健の賢い活用法》「要支援1から使えるデイケアが併設されている場合も。早めに繋がっておくのがおすすめ」【医師解説】
「介護老人保健施設」（通称、老健）は、介護が必要な人がケガや病院で入退院した後、一定期間入所して在宅復帰を目指す公的な施設だ。入所期限があるので終の住処にできないと敬遠されることもあるが、実はメリットが多くあるという。有効な活用法を専門家に伺った。
教えてくれた人
医師・医療法人社団「創生会」理事長 田口真子さん
神戸大学医学部卒業。循環器専門医として複数の病院での勤務後、2004年カネディアンヒル介護老人保健施設の施設長となる。5老健を含む13介護系施設を運営する医療法人社団「創生会」の理事長を務め、介護が必要な人たちの診療やケアを行っている。https://i-souseikai.jp/
介護施設をメインに働く女医として開設のブログ「介護のお医者さん21年目！介護とうまくつきあっていこう」が高齢者福祉・介護ブログ村ランキングの1位。働くママや介護する家族らに寄り添い、共感や勇気を与える内容で人気。https://ameblo.jp/kampodoc/ 近著に『最高の介護』（講談社）がある。
老健は在宅介護中から気軽に利用してほしい
「老健（介護老人保健施設）は、皆さん気がついていないかもしれませんが、実はとても便利に使っていただける施設なんですよ」
こう話すのは、5つの老健を含む13の介護系施設を運営する医療法人社団「創生会」理事長で医師の田口真子さんだ。
「老健は入所で利用する場合、要介護1以上で65才以上のかたが対象です。ケガや病院で入退院した際などに、一定期間入所しリハビリをして在宅復帰を目指していただくことが目標となります。
他の高齢者施設との決定的な違いは、医師とリハビリ専門職の配置が義務付けられているところで、介護施設ではなく医療施設であるという点です」（田口さん、以下同）
記者の母（90代）は要介護1だが、在宅介護中でも利用できるのだろうか？
「利用できます。老健を入所のためだけの施設と思っているかたも多いのですが、デイケア（後述）やご自宅への訪問リハビリサービスなども提供しています。こちらは、要支援1のかたから利用できます。
在宅介護をされているかたでも、老健をセーフティネットとして使っていただきたいですね。
本格的な介護が始まる前に、老健のデイケアや訪問リハビリ、ショートステイを利用しておけば、いざ入所となったとき、その老健の雰囲気やサービス内容・スタッフの様子を知っておくことができます」
老健の利用条件やサービス内容
・条件
介護認定で要介護1以上の自宅での生活が難しい人（40才～64才の人は、医療保険に加入していて、特定疾病の要介護認定を受けている人）。デイケア・訪問リハビリサービスなどは、要支援1から利用可。
・申込方法
施設に直接連絡。または、ケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーを通して申し込む。住民票がない地域の施設も利用可。
・利用料金（月額）
多床室／約13万円、個室／約20万円
施設や部屋の種類、本人の負担割合によって変わる。そのほかに、施設により洗濯・散髪など別途料金がかかる場合がある。
・利用期間
原則として3か月。最長6か月が目安
・サービス内容
入所して最初の3か月はリハビリがほぼ毎日ある。長期入所のほかに、施設によりショートステイ・デイケア、訪問リハビリなどを提供。
老健の「デイケア」とは？
「デイケアとは、通所リハビリテーションのことです。おもに病院や老健で提供され、要支援1のかたから利用できます。
他の施設が実施しているデイサービスとは異なり、医師とリハビリ専門職の配置が義務付けられている老健や病院が提供しているリハビリ中心のプログラムです。利用にあっては医師の診断書が必要なことが多いです。
デイサービスは通所介助のことで、要支援1以上の人が利用できます。おもに特養や民間の高齢者施設で提供され、心身機能の維持や他のかたとの交流などを目的としています。ご家族が用事などで出かけるときに、一時滞在する場としても利用されます。
レクリエーションメニューが豊富なので、ついデイサービスばかりを選びがちですが、しっかりとリハビリができる老健のデイケアを週1回は採り入れてみて欲しいと思います。デイサービスとの併用もできますので。
さらに、普段から老健を利用しておくと施設側にも利用者のカルテが残るため、入所が必要になったときに受け入れがスムーズになります。受け入れる側としても、利用者様の御身体の状態や性格など知っておけるので、対処しやすくなります」
老健のタイプと選び方
「ひと口に老健と言っても大きく分けて、リハビリによる在宅復帰に力を入れている超強化型、長期入所に寛容で特養化している加算型、その中間にあたる強化型の3タイプがあります。
利用したい老健がどのタイプなのか、サービス内容はどうかなどを知っておくためにも、早めに利用しておくといいと思います。
また、施設によっては訪問リハビリステーションを持っているところがあります。多くの老健が訪問リハビリも行っていると思います。ケアマネさんに確認してくださいね」
老健のメリット・デメリット
「老健の最大のメリットは医師がいることです。高齢者の居住用の施設というよりも病院寄りの施設なので、より安心感を持っていただけると思います。老健の施設の利用料に医療費が含まれています。
次のメリットは料金の安さです。特養と同じように公的施設なので、民間の介護付き有料老人ホームやサービス高齢者住宅などよりは、コストが抑えられます。入居一時金もかかりませんし、収入によっては減免制度も使えます。
デメリットとしては、高い薬を使っていると入りにくい場合があります。なぜなら、施設側が10割を負担しているからです。入居に際して審査判定がありますが、ショートステイやデイケアなどで利用歴があるかたの方が入所がスムーズなこともあります」
老健のメリット
・医師が常駐 ・安価 ・在宅介護時代から利用可 ・特養待ちなどでも利用できる
老健のデメリット
・医療保険が使えないので、受けられる医療に限りがある
・新薬など高い薬を服用している人や注射薬などを使っている人など医療費が高い人は入所認可が下りにくい
・利用期限かある（原則3か月から最大6か月で退所しなくてはならない）
老健は3か月（最大6か月）までしかいられない？
「施設の滞在期間については原則3か月、最大6か月なのですが、これも施設によって開きがあります。入所から3か月間は必ずリハビリがあります。それ以降はなくなるので、早く在宅復帰したい場合は3か月が目安となります。
施設側にとっても3か月間は加算が大きいので区切りとなるケースが多いのですが、場合によっては6か月以上いられる施設もあります。
施設も経営状態によっては先ほどお話したタイプも流動的に変わるので、リアルタイムの情報を知るために、施設を見学して相談してみてください」
特養の順番待ちで利用する人もいる
「特別養護老人ホームが空くまでの待機場所として利用されるかたもいます。うちは強化型の老健ですが、それでも半分ぐらいが特養待機のかたです」
『特養の順番待ちで使いたい』『家には戻れないと思っている』とか、今の状況やご要望を正直にお話してみてください。『いやうちは必ず在宅復帰させるところですから…』と言われたら、違う施設を探しましょう。
入所の際には、とくにケアマネジャーさんを通す必要はありません。ご家族から直接ご依頼いたく場合や、入院先の病院からご依頼いただくこともあります。ただし、通いのデイや訪問リハビリを利用される場合は、ケアマネジャーを通す必要があります。
普段から年1回でもいいので老健を使っておくといいですよ。ショートステイやデイケアは、要支援1から利用できるので関係性を作っておくといいと思いますよ」
写真提供：田口真子さん 取材・文／本上夕貴
