「母の歯と葉の切ない話」NO老いるLIFE~母と娘のほんわか口福日誌~第44話
漫画家で栄養士の資格をもつうえだのぶさんは、自然豊かな山口県で“慢性膵炎”を抱える母とふたり暮らし。地元の道の駅で購入したシシ肉を鍋にして堪能した翌朝、母の部分入れ歯が…。うえだ家、ピンチ!
母の部分入れ歯が…
夕飯にしし鍋をむしゃむしゃ食べていたせいか、翌朝部分入れ歯がパッキリ2つに折れてしまった母。
「うわ~~!」と叫ぶ母の声に、慌てて駆け付けた私。まじか、またトラブル!?
「いつも通りに洗っていたら、急に折れたんよ~」と、困惑顔の母。私は「やらかしてしまったー!!」と心臓バクバク。入れ歯、作り直したらお金もかかるし…。
絶対昨晩のシシ肉が原因よね。最近入れ歯の治療を受けたばかりだったのに…。ああ~後悔先に立たず、覆水盆に返らず。
(以下、私の妄想です)
歯科医師「入れ歯が割れるなんてありえないですよ!いったい何を食べさせたんですか?」
私「しし鍋です…」
歯科医師「はぁ、そんな無茶をするなら、もう治療はできませんよ(プンプン)!」
私「わーん、そんなこと言わないで~」(すべて妄想です)。
とりあえずお粥を作って母には食べてもらい、歯医者さんの受付開始時間になったら自分で電話をするように伝えました。
私「何時でもいいからって予約をお願いして…あ、しし鍋の話はしなくていいからね~(怒られるか、笑われるか、恥ずかしいしね…)」
しばらくして、仕事部屋に母がパタパタと走ってきました。
母「予約取れたよー!『あ、折れました?じゃ、持ってきてください~』だって♪」
母いわく「すぐに診てもらえる」とのことで慌てて病院へ。1時間以上待ったけど、その場ですぐに部分入れ歯の修理をしてくれました。そして「なぜ折れたのか?」については、とくに聞かれなかったそうです。
***
私が母と暮らす山口県の瀬戸内側では久しぶりの雪。小雪が舞う中、歯医者さんの帰り道を運転中に、母に伝えました。
私「私が弾力のあるお肉食べさせたから、ごめんね…」
母「あんたのせいじゃないいね。私が好きで食べたんじゃけえ」
私「でも入れ歯ってそんな簡単に折れるのかな?もしかして元々の作りが悪かったとか?」
母「あ、いや、あの、あんたには言ってなかったんだけど…」
――ん、何?(嫌な予感)
母「前に治療受けた時、先生から『(部分入れ歯を入れた』前歯では、固めのものを食べるときは注意して、食べ物にかぶりつかないようにしてね』って、言われちょったんよね~」
シシ肉、ガッツリかぶりついちゃってたでしょ…。あー、もー!そういうの先に教えてよね!(モヤモヤスイッチON)
高齢の親の診察、どこまで立ち会う?
我が家では、母の診察にはよっぽどのとき以外は同席しないことにしていますが、こういう肝心なことを聞き逃してしまうと、トラブルが起きるんですよね。
高齢の親の診察には必ず同席するべきなのかな? 読者の皆さんはどうされていますか?(マジで聞きたい)
NOオイルMemo「カルシム豊富な大根の“葉”はふりかけに!」
雪の日の入れ歯騒動から一週間後、再び中国地方には雪がどっさり降り、鳥取に住む知人から“雪に埋もれて甘くなった”という大根を頂きました。
農家育ちの母は大根の葉っぱも捨てません。母の十八番は「大根葉のふりかけ」。私も母の味を受け継いでいます。
私「大根葉ってほうれん草よりもカルシウムが多いんよ。ありがたいよね~」
すると、母がふと悲しい顔をして言いました。
母「子どもの頃からずっと食べよるのに、なんで骨も歯も弱いんじゃろう…」
まあ、カルシウムだけじゃ骨はできないから、たんぱく質が足りなかったとか遺伝とか体質もあるかもしれんし、それに、いや、それよりも…。
私「先生に言われたことを守らなかったからじゃないの?」
しょんぼりする母に少し強めに伝えてみたものの、「自分が食べられるものと高齢の母が食べられるものの間に少しずつ差ができ始めていること」を実感した冬の終わりでした。
■大根葉のふりかけ(2~3回分)
<材料>
茹でた大根葉…100g
めんつゆ(2倍希釈)…大さじ1
砂糖(あればきび砂糖)…小さじ1
ごま油…大さじ1
すりごま…大さじ1
かつおぶし…1パック(約3g)
脂質約15g 食塩相当量約1g
<作り方>
茹でた大根葉を細かく刻み、しっかり水気を切ってごま油で炒める。しんなりしてきたら砂糖を入れてさらに炒め、めんつゆを回し入れて、全体の水気がなくなったところで火を止める。すりごま、かつおぶしを入れて混ぜ合わせたら完成。
薄めの味付けなのでごはんにたっぷりかけて食べられます。
大根の葉っぱには、実はほうれん草よりも多くのカルシウムや鉄分が含まれているんですよ。大根葉にも含まれるβカロテンは油脂に溶けやすいので、油と一緒にとると吸収がよくなるそう。母の膵臓を労るために「脂質1食10g」が目安の我が家では、小さじ1くらいの油で炒めています。
*参考資料:日本食品成分表2025(八訂)/医歯薬出版株式会社
絵と文
漫画家・うえだのぶ
イラストレーター・漫画家。58才。山口県で82才の母とふたり暮らし。40代で地元の短大に入学し、栄養士の資格を取得。地元山口県を拠点に、漫画を利用した食育や時短調理などの栄養講座の講師なども務めている。
アメブロ:https://ameblo.jp/abareinupoti/ インスタ: https://www.instagram.com/nobuueda/?hl=ja