猫が母になつきません 第429話「ふくふく」
年末に用事があって実家があった町にいったときのこと。用事はすぐに終わったので久々に以前よく行っていたスーパーに立ち寄ることにしました。
勝手知ったるなじみの場所、どこになにがあるかも知り尽くしているし、何がお買い得で何が高いかも知っている。ここは野菜の種類が多くて大体なんでも揃うけど、お魚がちょっと高い…あと、パンの種類もすごく多い。ここにしか売ってない母のお気に入りのパンがあったな。クリームチーズとドライフルーツが入ってる。今も売っていた。
買い物を終えてレジで会計を始めたときのこと、グレーのモヘアの帽子をかぶったおしゃれなマダムに声をかけられました。マダムは買い物価格から5%分が割引になるクーポン券を私に差し出して「あなた、これ使いなさい。私はもう一枚あるからいいの」と小さな声で言いました。とっさのことに私はちょっとあたふたして「え?あ、すいません」とクーポン券を受け取り、レジの店員さんに渡しました。私がお金を払い終えた時、マダムは隣のレジで会計中で、私が後ろから「どうもありがとうございました」と声をかけると、小さく会釈を返してくれました。
マダムが小さくて帽子をかぶっていらしたので、思い出そうとしてもまったくお顔を思いだすことができません。
年内が有効期限のクーポン券があまっていて、たまたま近くに私がいたというだけなのでしょうが、見知らぬマダムがくれた小さな福は、今も私の心いっぱいにふくふくしています。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。