「脊柱管狭窄症による痛みで、長く座れず、買い物も行けなかった女性が夫と遠出も可能になった」70代女性が実践したホームエクササイズのポイントを理学療法士が解説
Tさんは典型的な反り腰の姿勢でした。姿勢不良の原因は個々に異なりますが、Tさんの場合はお尻やふくらはぎの筋肉に硬さがあり、脚全体の柔軟性が低下していました。
まず行ったのが、狭窄部位の神経根への血流改善を目的にしたセラピストによる施術です。それにより凝り固まっていたお尻の筋肉の柔軟性を改善しました。その後、徐々に運動療法を開始し、お尻や脚全体を緩めるストレッチを指導。痛みが軽減してきたところで有酸素運動を開始しました。
Tさんの痛みを和らげるには、過度に緊張したお尻と脚全体をゆるめ、神経への血流を改善することが重要でした。Tさんの場合、座っていられないほどの症状だったため、最初はセラピストによる施術でお尻の筋肉の柔軟性を出します。その後ストレッチを加えることで、徐々に血流の改善をめざしました。今回の症例のように、座って症状が強く出るかたのストレッチのポイントは楽な姿勢を維持した状態でのケアです。
ストレッチでは、テニスボールや軟式野球のボール、マッサージ用の硬めのボールを用意します。ゴルフボールは小さく、硬すぎるため筋肉を傷める可能性もあるので使用は控えましょう。ボールがない場合は固く縛ったタオルなどでも代用できます。
3つのストレッチメニュー
【1】仰向けでのお尻の圧迫ストレッチ
【2】横向きでのお尻の圧迫ストレッチ
【3】ボールを使用したふくらはぎストレッチ(ボール無しでも可)
写真付きで詳しく解説します。
【1】仰向けでのお尻の圧迫ストレッチ
凝り固まったお尻の筋肉をセルフケアでゆるめ、血流の改善を目指します。
1. リラックスして仰向けになり、両ひざを曲げた状態になります。
2. テニスボールを用意し(無ければ固くしば1ったタオルでも良い)お尻の下に入れます。
3. 深く呼吸をしながら、ゆっくりとお尻にボールを押し当てるようにし、筋肉をほぐしていきましょう。
4. 1箇所を20秒~30秒行ったら、数センチずらして軽い痛みを感じる部分を3箇所ほどほぐしましょう。
5. 奥に届くようなイメージで行いましょう。
6. この運動を、各30秒間、左右3か所ほど繰り返します。
【2】横向きでのお尻の圧迫ストレッチ
硬くなったお尻の筋肉を柔らかくすることで痛みを軽減。
1. 脚の付け根の外側(ポケットの位置)に骨のでっぱりを探します。
2. その少し上にボールを当てる意識を持ちます。
3. リラックスして横向きに寝ます。
4. 両膝を90度ほどに曲げ、先ほど確認した位置にボールを入れます。
5. 深く呼吸をしながら、30秒ほど圧迫ストレッチをします。
6. 数センチずつ場所を変えて、各部位30秒、左右行いましょう。
【3】ボールを使用したふくらはぎストレッチ(ボール無しでも可)
1. リラックスして両膝を曲げ、後ろに手をついて座ります。(後ろに倒れそうな方はクッションや座椅子などを使用してください。)
2. ふくらはぎの外側をねらって、深く呼吸をしながら、ゆっくりとふくらはぎにボールを押し当てるようにし、筋肉をほぐしていきましょう。
3. そのまま左右につま先足をひねり、固いと感じる部位をほぐしましょう。
4. 30回程、ほぐれたと感じるまで行いましょう。
5. 数センチずつ部位をかえてふくらはぎ全体をほぐします。左右行いましょう。
<ボールが無い場合>
ボールが無い場合は、自分の足のすねを使ってストレッチしていきます。
30分、座れるようになり、 買い物にも行けるように
結果として、セラピストの施術やストレッチの施行から数か月で徐々に血流が改善し、腰痛とお尻の痛みが軽減。以前より長く座れるようになりました。
また、脚とお尻の柔軟性も向上し、腰痛の軽減がみられました。座れる時間が少しずつ延びてきたため、自転車エルゴメーター(固定された自転車のことで、筋の協調性、脚の循環、関節の可動域などの改善が期待されるマシーン)などの有酸素運動やその他の運動も開始。リハビリテーションを通して継続的な運動を行うことで、最終的に20分〜30分程車に乗れるようになりました。
日常生活では、近所への買い物が可能になり「楽しみだった主人との買い物も可能になりました」とTさん。脊柱管狭窄症が完治したわけではないものの、デイサービスで定期的な運動を継続し、手術をせずに現在も日常生活を送れています。
まとめ
脊柱管狭窄症による腰痛は、高齢者に多く見られる症状です。痛みやしびれだけでなく、悪化すると歩行障害や排尿障害が出ることもあり、日常生活に大きな影響を及ぼす場合があります。
実際に、症状の悪化から手術や痛み止めなどの対症療法が提案されることが多いですが、高齢者には手術自体のリスクが気になる方も少なくありません。そこで、リハビリテーションやホームエクササイズによって症状が軽減された事例を紹介しました。
ストレッチや適切な運動の継続で、完治は難しくても症状の改善が期待できます。また、普段の活動量が低下している高齢者にとって、運動習慣や適切なセルフケアの継続は症状を軽減するだけではありません。心肺機能の向上や全身体力の向上にとても重要です。
脊柱管狭窄症でお悩みの方は、症状を軽減するための一歩として、自宅でのケアを取り入れてみてはいかがでしょうか? 今回のケア方法は、自宅で簡単に行えるものばかりです。ぜひ実践し、継続してみましょう。