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連載

86才、一人暮らし。ああ、快適なり【第44回 スポーツは誰のものか】

 ジャーナリストで作家の矢崎泰久さんは、1960年代に若者から熱烈に支持されたカルチャー誌『話の特集』を創刊し、30年にわたって編集長を務めた人物だ。

 現在、86才。自ら望んで一人暮らしを続けている。独自の視点で世の中に問題を提起する姿勢を貫く矢崎氏の人生観、ライフスタイルなどを綴っていただき連載でお伝えする。

 今回のテーマは、「スポーツ」だ。スポーツは観るものか、やるものか…。さて、矢崎氏にとってスポーツとは?

 * * *

スポーツ観戦が好き

 スポーツには、大きく分けて、「観るスポーツ」と「やるスポーツ」があるように思う。

 もちろん、今の私には、観ることしかできない。うっかり挑戦したら、たちまちあちこち痛んでしまう。1日5000歩を歩けと医者に言われても、それすらせいぜい3000歩ぐらいである。

 MLB(メジャーリーグベースボール)好きだから、NHKのBS放送で、平気で20時間ぐらい観戦する時がある。日本のプロ野球と違って、アメリカは勝負が決着するまで試合は終わらない。そこが好きだ。

 若い頃は、中学・高校ではサッカー部、大学では山岳部に籍を置いた。“山好きの海嫌い”の典型だった。たいていのスポーツは好きだった。

 海を嫌いになったのは、戦時中の教師に原因がある。水泳の苦手な私に、毎日ビンタを浴びせ続けた。プールから出ようとすると、足蹴にされた。海への遠征が嫌で仮病を使って欠席したことがバレてからは、いわば水攻めの毎日を体験させられた。水難の相があると思い込んで育った。

 当時のことが頭に染みついているから、オリンピックだろうと水泳競技は観ない。その反動でもないだろうが、どんなスポーツも観るのは好きだ。何でも来い、とばかりに、暇さえあればテレビでスポーツ中継を観ている。

 時には、公園でやっている少年野球を観に行ったりもする。ついでにゲート・ボールやベビー・ゴルフを見物する。誘われたりもするが、そればかりは辞退する。老人ではあっても、私ほどの高齢はほとんど居ない。無理は危険だ。

 現代では、スポーツの種類が多い。私なりに面白い順番を付けると、1.野球、2.アメリカン・フットボール、3.ラグビー、4.柔道、5.マラソン、6.ゴルフ、7.ボクシング、8.レスリング、9.カーリング、10.サッカー、となる。

 学生時代にやっていたサッカーが何故10番目の最下位かと言うと、やっていたから観ているとイライラするのだ。しかも、サッカーはロー・スコアのゲームで、騒いで観ているならともかく、一人でテレビの画面を観ていると退屈きわまりない。シュートが決まらないと怒り心頭に発したりもする。生半可に知っているだけに、プレイヤーに腹が立つのだ。

 もっとも同じサッカーでも、ヨーロッパのプロ・リーグは別である。技術が高く、神業としか思えない選手が山ほどいる。

 日本の選手でもヨーロッパで活躍している人も少なくないが、やっぱりスケールが違うと思う。失礼かもしれないが、足捌(あしさば)きが違うような気がする。つまり、生まれてヨチヨチ歩きをする頃から、サッカー・ボールに馴染んでいるのである。

 中南米やアフリカ諸国にも、サッカーの上手い選手は沢山いる。こちらは、ヨーロッパと違って、貧しくてサッカーをやって遊ぶしかなかった子供たちが、長年かけて大成したという場合が多いのだろう。ボールさえあればできる。もともと金持ちの子供のスポーツではないのだ。

東京オリンピックに一言

 さて、来年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。創立者のクーベルタンも言っているように、あくまでも平和の祭典である。国威掲揚や観光立国の為にオリンピックを招致するのは我慢ならない。

 しかし、参加するアスリートには罪はない。大きな大会での優勝を目指すのは当然だからだ。4年に一度というのも大切な要素だろう。輝きは一瞬のものでもある。

 開催まであと1年近くとなり、チケットの発売が既に始まっている。設備や開催に大金が必要なのは分からないでもないが、観たい競技順にバカ高いのは腹が立つ。行くものか!と叫びたくなるではないか。

 開会式や人気の種目、陸上競技や水泳などは、目の玉が飛び出るほどに高価である。開会式などは、ただの式典なのに良いチケットはベラボーに高い。どこのどなた様がチケットを購入するのか調べてみたいほどである。

 ま、それでも、スポーツの祭典には違いない。いかなることがあろうと、開催されるからには、アスリートたちには大いに頑張って欲しい。矛盾しているようだが、私と同じように腹を立てながら東京オリンピック・パラリンピックに期待している人々は少なくないだろう。

 アスリートはひた向きに頑張れ!スポーツは君の為にある。

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矢崎泰久(やざきやすひさ)

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1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』最新刊に中山千夏さんとの共著『いりにこち』(琉球新報)など。

撮影:小山茜(こやまあかね)

写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。


 

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