倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.12「スマホの中の父ちゃん、また会いたいな」
漫画家の倉田真由美さんは、夫、叶井俊太郎(享年56)さんのことを「父ちゃん」と呼ぶ。すい臓がんと診断され余命宣告を受けてから1年半が過ぎ、今年2月16日に旅立った叶井さん。今回は「父ちゃんとスマホ」を巡るお話。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
思い出探し
毎日、思い出探しばかりしてしまいます。
写真、動画、メール、日記。夫が昔書いていたコラム。昨年思いついて夫には内緒でこっそり始めた、電話での通話の録音。毎日、見たり聞いたりしています。そしてやっぱり不在が悲しくつらくて、泣いてしまいます。
「時間薬」というものがあるのは知っているし、いつかは効いてくるんだろうけど、まだまだ難しいようです。
思い出を掘り起こすもので一旦諦めかけたのが、夫のスマートフォン。夫の情報が詰まっているはずで、中を確かめてみたかったんですが、私はパスワードを聞いていませんでした。ネットで調べると、「亡くなった人のスマホは、たとえ家族でもパスワードが分からない限り開くのは不可能」という情報が出てきます。どうも、パソコンなどよりよほど個人情報が守られているようです。
彼が設定しそうな、思いつく番号を入れてみてもダメで、肩を落としかけたところに娘からの意外な一言。「父ちゃんのスマホのパスワード、私が聞いてるよ」と。夫、私ではなく娘にパスワードを伝えていました。
娘から聞いたパスワードは、私が「これじゃないかな」と思ったのと数字とアルファベットが逆なだけでした。無事開いた時は、いつも夫が触っていたものだけあって夫の気配のようなものを感じ、嬉しいような胸が苦しくなるような複雑な思いがしました。
私信に手をつけるつもりはありません。彼のプライバシーは彼のものです。私が見たいのはアルバム。夫がたくさん撮ってきた娘の写真です。そこには大抵私もいたはずなので、私は写真からその場面を思い出すことができます。夫と娘と行った場所、そこでの様子を甦らせることができます。
もう一度会いたいな
ところが期待に反して、夫のアルバムにはあまり写真がありませんでした。夫のスマホは昨年買い替えたばかりのもので、それ以前の写真が一切入っていないのです。娘の写真、夫はいつも私よりたくさん撮っていたのに。
落胆しましたが、夫は以前のスマホを処分しているようなのでどうしようもありません。でも、それで思いついて、私自身の昔のスマホを見てみることにしました。
6、7年通電していない、古いスマホ。押入れの引き出しの奥から探し出して、充電してみました。
充電終了後、祈るような気持ちで電源ボタンを押したら、無事に立ち上がりました!アルバムを見てみると、今のスマホに移していなかった写真がたくさん残っていました。過去の自分が撮った写真なのに、「こんなの撮ってたんだ」と忘れていたものもいくつもありました。その中には夫の姿も。
写真の中の夫は、元気で楽しそうです。この頃の夫にもう一度会いたいな。どの写真を見ても、そう思ってしまいます。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』