「訪問ヘルパーが異変を察知、医療機関と連携し事なきを得た誤嚥性肺炎の高齢者」などベテランケアマネが明かす肺炎の恐怖
日本人の死因5位の「肺炎」。肺炎で亡くなる方の9割以上が65歳以上の高齢者で、介護サービスを受けながら発症することも多い。実際に高齢者が肺炎にかかると、どういう症状の変化をたどるのか―高齢者介護の現場を知る元ケアマネジャーにリアルケースを語ってもらった。
教えてくれた人
田中克典さん/元ケアマネジャー。障害者施設などでの介護経験を経て、2000年からケアマネジャーとして活躍。23年間で450人以上の高齢者を担当してきた。『親の介護手続きと対処まるわかりQ&A』(玄光社)など著書多数。
高齢者が肺炎になったら…。介護の現場で発生した高齢者の発症事例を生レポート
【カルテ1/90代女性のケース】高齢者は自ら不調を訴えられないことも
高齢の肺炎患者のうち、7割以上が誤嚥性肺炎だとされる。ケアマネジャー歴23年の田中克典さんも、誤嚥性肺炎にかかった高齢者を多く見てきたという。
「微熱が続く、だるそう、すぐ横になる、普段と様子が違う―こうしたサインに早く気づき、医療機関といかに連携を取るかが、生死の分かれ目になります」(田中さん・以下同)
高齢者の場合、症状が急変しやすい。異常の早期発見・早期治療がとにかく大切だという。
「実際、脳血管障害の90代の女性にこんなことが起こりました。彼女は日常生活動作のすべてに介護を要する要介護5で、寝たきりの生活。1日3回ホームヘルパー(以下ヘルパー)が介助に来ていました。飲み込む力も弱っていたため、日頃から食事中にむせることが多かったといいます。ある日、微熱が続いていたことと、声かけにも反応が鈍いことが気になり、ヘルパーが訪問看護事業所に連絡。すぐに主治医が来て診療したところ、誤嚥性肺炎の疑いがあったため救急搬送。治療を受けたことで肺炎の症状は回復しました。この女性は会話が困難で、自ら“調子が悪い”と言えませんでした。ヘルパーが日頃の状態を把握しており、表情やしぐさから異変を感じ取ったおかげで、助かりました」
訪問ヘルパーが毎回同じ人ではなかったのも功を奏した。多くの人の目があったからこそ、異常に気づける人もいた、ということだ。夫婦や親子などの2人きりで介護をしていると、余裕がなくなり異変に気づけないことも。介護には外部の手や目も必要なのだ。
【カルテ2/80代男性のケース】基礎疾患がある人は急変しやすい!
慢性閉塞性肺疾患(※)の持病があった80代男性のケースは深刻だったという。
「このかたはもともと、息切れやせき、たんが出る病気を患っていたので、在宅で訪問診療、訪問看護を受けていました。いつも運動がてら、部屋からトイレまで往復していたのですが、あるとき、“トイレから戻るといつにもまして息が荒く、部屋に戻ったらすぐ横になった”と訪問看護事業所に連絡が。看護師が駆けつけると、正常値が99~96%の血中酸素飽和度が90%に低下し、呼吸不全状態に。そこで主治医に連絡すると、入院が必要だと判断されました。結果、細菌性肺炎を患っており、新型コロナウイルスも陽性。持病もあったことから急激に悪化し、命を落とされました」
基礎疾患がある人は、介護保険で訪問看護サービスを利用し、血圧や体温、血中酸素飽和度などのバイタルサインの変化を見逃さないことが大事だ。加えて、異変に気づいたら即医療機関と連携を取れる体制を整えておこう。
※たばこの煙などの有害物質を習慣的に吸い込むことによって、肺に持続的な炎症が生じる病気。「COPD」ともいう。
【カルテ3/62才男性のケース】運動をし、若く元気でも大丈夫じゃない!
80代、90代の場合、周囲も日頃から体調に気を使うが、見落とされがちなのが、元気な60代だという。
「定年退職後、毎朝のジョギングなどで健康を維持していた62才の男性が、熱とせきが続いて、夏風邪がなかなか治らないからと医療機関で検査を受けたところ、間質性肺炎と診断され、そのまま入院。なんと、1か月も経たないうちに亡くなったケースもありました」
60代と若く、運動習慣があるからといって油断できない。特に間質性肺炎は、素人には風邪と間違われやすく、発見が遅れがちだ。
いつもと違う症状が出たらすぐに医療機関を受診しよう。
取材・文/桜田容子 イラスト/たばやん 写真/写真AC
※女性セブン2023年11月9日号
https://josei7.com/
●肺炎を起こす誤嚥、1日600回も危険が。みそ汁やミカンは要注意