兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第222回 緊急度で優先順位が決まる】
ライターのツガエマナミコさんが一緒に暮らす兄は、若年性認知症を患い要介護3の認定を受けています。両親亡き後、長年兄妹2人での生活を続けてきましたが、兄の病状が進行してきて、マナミコさん一人ではケアが難しくなってきたため、兄に介護施設へ入所してもらうことを迷いながらもようやく決意し、準備に入りました。しかし、そうすんなり施設は決まらず…。
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排泄と食事の悩みだけでは、緊急度は低いかも…
昨日の夕方、新聞を取りに郵便受けまで行ったほんのわずかな時間に、大切なマイルームの床にお尿さまを撒かれました~。トホホ。
一昨日は、仕事から帰ってくるとキッチンに置いてあった紙袋の束がビショビショになっており、「なぜトイレでしないの?」「なぜキッチンなの?」とムカついたばかりだったので、昨日は愚痴る言葉も失いました。そして一言も発することなく、淡々と掃除をし、そのあとは部屋の扉を締め切って引きこもったのでございます。
家の中のどこでやられてもイヤですが、わたくしの部屋での放尿は許しがたいこと。夕食作りをボイコットし、ほぼ部屋から出ずに22時まで過ごしました。顔も見たくない気分でしたが、夜の紙パンツ交換はしないわけにはまいりません。案の定、紙パンツにはお便さまがベットリだったので、浴室に誘導し、シャワーをかけまくり、寝室に入っていただきました。わたくしは夕食抜きでしたが、兄はお昼に食べ残していた焼きそばを完食しておりました。それを見て急に空腹を思い出し、23時に食パンを2枚も頬張ったツガエでございます。
さて、特別養護老人ホームに入居するためには、本人の状態を事細かく書く必要があるようで、その用紙が先日ケアマネさまより届きました。改めてチェック項目を拝見すると「兄は入居の優先順位が低いのでは?」と思えてきたのでございます。
兄に問題があるのは「排泄」の大部分と「食事」の一部だけ。常食ですし、むせることもなければ、入浴も一部介助。動作(立位、座位、寝返り)や身体状態(視力、聴力、言語、意思、麻痺)に関しては、「意思」以外問題なく、運動もでき、昼夜逆転で困ったこともございません。
我が家にいると「これはもう家では無理!」と思えるのですが、客観的にチェックしてみると、緊急度は低いように思われてきます。しかも介護者であるわたくしはフリーのライターという自由業。会社員さまよりは自由ですし、病気もしておりませんし、独身で子どももおりませんし、年齢も若い(60歳ですが…)。ショートステイやデイケアなどの分量を増やせば、在宅介護でまだいけそうだと思われる気がして、だいぶ不安になりました。緊急度が低いと優先順位が低く、いつまでたっても順番が回ってこないということも考えられるからでございます。でも世の中には、切羽詰まった高い方々が沢山いらっしゃるでしょうから、すぐに入れなくても致し方ございません。
すべては、この書類を提出してからのこと。今すぐできることは長めのショートステイをお願いすることなので、とりあえずそれを進めたいと思っております。
お話しはガラリと変わりますが、先日「福田村事件」という映画を鑑賞いたしました。100年前に起きた関東大震災で実際に起こった出来事をもとに描かれた映像作品でございます。いつの時代も大きな災害などが起こると必ずどこかでデマを流す人間が現れ、尾ひれがついて口コミが広がるもののようでございます。100年前は「朝鮮人が井戸に毒をいれている」「放火して回っているらしい」などというデマが広がり、なんの罪もない多くの朝鮮の人や中国の人が虐殺されたのでございます。日本人はそんな風に仕返しされても仕方ないようなひどいことをしてきた自覚があるからこそデマを真実と思い、朝鮮の人を恐れたのでございましょう。映画では、地方からきた薬の行商をする一行が朝鮮の人と疑われて虐殺が起こってしまいました。「復讐される」という恐怖が群集心理と相まって村人を暴走させていく様子に「自分はこれを止められるだろうか」と考えてしまいました。
第二の関東大震災は、間もなく起こるだろうと言われております。SNSなどで情報が飛び交い、簡単にフェイク動画が流れる時代に、デマに踊らされないことは難しいかもしれません。でも、情報を疑う気持ちを失わず、安易に群衆に流されない自分でありたいものだと思った映画でございました。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。