認知症治療に期待の新薬「レカネマブ」対象者は?いつ使える?治療の最前線をレポート!
無力どころか、副作用によって症状が悪化するケースもある。認知症の義母を介護している東京都在住の岩田朋子さん(61才・仮名)が振り返る。
「認知症といっても、元の性格が穏やかだったからか、以前話したことを忘れてしまうくらいで大きな問題はなかったんです。だけど半年前のある日、デイサービスから電話が来て『スタッフを怒鳴りつけたり、暴れたりするから引き取りに来てほしい』と言われて…。急に病気が進行したのだと思って焦って病院に連れて行ってみたら、お医者さんに『ごめんなさい、薬が合わなかったみたいですね』と謝られて。そのときちょうどのみはじめたドネペジルが原因だったようです。確かに薬を中断したらすぐに症状がおさまり驚きました」
内野さんは、ドネペジルには攻撃性が増す、興奮が抑えきれなくなるなどの副作用が出る可能性があると話す。
「ドネペジルは脳を活性化させることによって、認知機能を改善する薬です。無気力だったりうつ状態だったりする患者に投与するならばいいのですが、普段から元気な人の場合、かえって症状が悪化することがある。また、中等度以降になると薬の効果がみられないケースも多く副作用のデメリットの方が大きくなるため、私は薬を積極的に処方しないようにしています」(内野さん)
海外ではそうした副作用をはじめとする薬の弊害を重く見て、処方を疑問視する声が多いと室井さんは指摘する。
「日本が医療にアクセスしやすい国民皆保険制度であることが前提ではあるものの、それをかんがみても欧米と比較して認知症薬を処方されている人が多い印象です。特にアメリカやフランスでは、副作用への懸念や効果への疑念によって処方に懐疑的です。実際、フランスでは2018年に4種類の認知症薬すべてが国民保険の適用から除外されました。副作用と治療効果を勘案したうえで『医療上の利益が不充分である』と判断した結果です」
とはいえ、薬によって症状が緩和され、患者のみならず介護者も救われるケースがあるのもまた事実だ。富田さんが言う。
「認知症は根治が難しい半面、死に直結する病気であるわけではないゆえ、『心穏やかな状態になる』ということが治療において極めて重要なポイントになります。介護者にとっても、患者本人がただ穏やかに過ごしているだけならそれほど負担はかかりませんが、怒りや興奮、徘徊などの症状が出ると、とたんに介護が大変になる。相性のいい薬が適切に処方され、うまく“心穏やかな状態”を保つことができれば、本人はもちろん介護者の負担が減る。そういった意味で、薬の処方は必要だと言えます」
投薬の仕方によって、味方にも敵にもなりうるのが認知症薬なのだ。内野さんは薬を味方につけるためには「医師選び」が大切だと断言する。
「本来であれば薬を処方する前に、医師が認知症のタイプや症状を診断する必要があります。しかし、知識や経験の少ない医師から漫然と薬を処方され、言われるがままにのんでいる患者も多いのが現実です。認知症の場合、医師と長いつきあいにもなるため、病院選びは重要です」(内野さん・以下同)
では、長く寄り添ってくれるいい医師は、どう見つけるべきか。
「まず、診療時間が短く、薬を処方して終わらせるような医師は避けること。薬をのめば治る病気ではないし、要介護度が進めば施設という選択肢も出てくるので、それまでの患者の半生や家庭環境、バックグラウンドなどを考えてゴールまで見据えた話ができる医師が理想です。ひとりの患者に10分以上かけて、じっくり診察してくれる医師がベストです」
写真/PIXTA
※女性セブン2023年10月5日号
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