「夫の実家の親戚の集まりでは嫁だけが働かされて嫌だ」と憤る女性に毒蝮三太夫が解決策をズバリ「マムちゃんの毒入り相談室」第49回
「嫁」にとって、夫の実家との付き合い方は極めて難しい。何かと気を使うし、流儀や価値観も大きく違う。夫にとっては気軽に過ごせる自分の実家であり、妻が悩みや苦しみを訴えてもピンと来ないケースが多い。親戚の集まりがあるたびに食事の支度を手伝わされるのがしんどいと訴える相談者に、マムシさんが解決への道筋を説く。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「親戚の集まりで女性だけが働かされるのがすごく嫌」
今年も8月15日がやってきた。太平洋戦争で日本が負けて、78回目の「終戦の日」だ。空襲を受けて燃える街をおふくろと逃げ回った夜のことは、忘れようにも忘れられない。そういう体験を話せる人も少なくなってきた。俺は戦争を体験したものの責任として、死ぬまで語り続けるつもりだ。若い人たちも、かつて日本でどんなことがあったのか、戦争というのはどんなにむごいことなのか、ぜひ知っておいてほしい。
今回の相談は、33歳の会社員の女性からだ。ああ、これは腹が立つだろうな。
「結婚4年目です。毎年お盆と年末年始に夫側の親戚一同の集まりがあります。 その際の食事作りの手伝いに女だけが駆り出されます。結婚した年に義母から『お嫁に来たんだからエプロン持って来て一緒に支度しましょう』と言われ『こんなものか』と思っていましたが、最近しんどくなってきました。せっかくの休みなのでゆっくりしていたいです。
夫は、ソファに座ってスマホをいじるだけで何もしません。イラついたので『一緒にやろうよ』と声をかけたことがありますが『俺がやってもしょうがないでしょ』と言われました。洗い物や火加減を見たりなど夫にできることもあるはずですが、はなからやろうとしない態度に怒りを覚えました。『お前の実家のことだろ?』と。
慣れない台所で毎回2時間程立ちっぱなし、結婚式で会った程度の人たちと話すこともありません。片付けも嫁です。いちばん不満なのは、手伝いの不公平さです。ご馳走になるのに男も女も関係ありません。義母は大人数での集まりが大好きなので何かと誘われますが、少人数かひとりが好きな私からすると正直ありがた迷惑です。かといって結婚した以上避けては通れないことなので、まったく参加しないわけにもいかず悩んでいます」
回答:「情けないのはダンナ。妻の苦労をわかってないね。実家と妻とどっちが大事なのか考えてもらおう」
こんなふうに「嫁」が家や男の従属物のように扱われるケースは、まだまだある。もちろん、明らかに不公平だよ。でも、お義母さんは自分もずっとそうしてきたから、嫁がせっせと働くのは当たり前としか思わない。その意識を変えるのは難しいだろうね。
いちばん情けないのは、実家のやり方に甘えてるだけで、何の疑問も抱いていないダンナだ。無意識かもしれないけど、結婚したんだから実家の家風に合わせろとか、嫁なんだから俺の親に仕えろとか、そんな気持ちがあるのかもしれない。つまりは、妻の苦労はこれっぽっちも考えないで、親ばっかり大事にしていい顔をしてるわけだ。
何はさておき、ダンナの意識を変えないと話にならない。どういう不満を抱いているのか、どうつらいのか、言葉にして訴えよう。「私が大事なの、実家が大事なの」ぐらい言ったほうがいい。黙っていたら、ダンナは永遠に気づかないよ。「嫁が働くのは当たり前だろ。そのぐらい我慢しろよ」なんて言うダンナだったら、見切りをつけたほうがいいね。
盆正月の休みでダンナは飲んだくれてるのに、妻はぜんぜん休めないっていう問題は、昔から深刻だったんだよね。俺は行ったことないけど、昔は正月には年始回りをする習慣があった。テレビ局のプロデューサーやディレクターの家には、芸能人やら関係者やらが次々にやって来る。そのたびに奥さんは酒や料理を用意しなきゃいけない。たいへんだよ。
ウチのは三越百貨店に勤めてたから、長い休みは正月ぐらいしかない。結婚当初は俺の実家の敷地にあるたぬき荘に住んでたから、正月に家にいたらオヤジやおふくろの世話をすることになる。だけどオレは評判が悪くなるのを覚悟で、伊豆や箱根にふたりで旅行に行ってた。お正月に実家でお屠蘇を飲んだことは一回もない。でも、オヤジもおふくろも何にも言わなかったな。
ウチのから「お正月は家にいたくない」って言われたわけじゃない。いつも働いているのに正月休みまで働かせたらかわいそうだと、俺が思っただけだよ。この話を人にすると「マムシさんの世代で、そういう人は珍しかったでしょうね」なんて言われるけど、世代とか時代とかは関係ない。自分がいちばん大事だと思う存在を大事にするのは当たり前の話だ。それと、ダンナが「こいつのことを大切にしよう」と思ってくれるような奥さんになることも大事だな。
あなたもまずはダンナに気持ちを伝えて、実家との付き合い方を考えてもらおう。顔を出さないわけにいかないなら、女の人にばかり負担がかからないやり方をダンナから両親に提案させる。外食してもいいし、男たちがテイクアウトでうまいもんを買ってきてもいい。じつはほかの女の人たちも、食事の支度をするのは嫌だと思ってるんじゃないかな。
結婚4年目だっけ。夫婦っていうのは長い付き合いだ。相手への不満やヘンだと思うことは、お互いに言葉にして相手に伝えたほうがいい。そのときはケンカになるかもしれないけど、心の中に溜め込むとやがて発酵してイヤな臭いが漂ってくる。昔から「ケンカするほど仲がいい」って言うのは、そういうことなんじゃないかな。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう )
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。