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暮らし

介護施設で実際に起きたトラブル事例 施設内トラブルを回避する5つのポイントを弁護士が解説「トラブルから5~7日以内に動くのがベスト」

 高齢者施設は居室が個室であっても基本的には集団生活。施設と利用者や利用者同士のトラブルもよく聞く。入居した施設で事故や事件に巻き込まれた場合はどうすればいいのだろうか?施設に入る前に知っておきたい事例と解決法を専門家に伺った。

介護施設でのトラブルを弁護士が解説

「施設とのトラブルの場合、利用者のかたやご家族が泣き寝入りすることが多いです」

 こう話すのは、介護・福祉に関するトラブル解決の専門家である弁護士の外岡潤さん。外岡さんは弁護士として活動しながら、ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)を取得し、介護現場も経験している。

「介護施設とトラブルが発生したとき、利用者側のご家族は、『相手は大手企業だから、どうせ聞いてもらえない』『争ったところで負けてしまう』などという理由から、法的手段に訴えないことが多いんです。

 介護施設で起こった事故の場合、約10万~20万円の治療費だけで済まされてしまう場合もあります。

 しかし、命にかかわるような大きな事故の場合、死亡慰謝料が支払われるケースもあり、介護施設と利用者間のトラブルの場合、利用者側に寄り添う判例も多くあります。

 ただし、被害者やご家族の多くは、決して金銭が目的というわけではなく、施設側のしっかりとした説明や、誠意ある態度、謝罪の言葉がほしいと考えているかたがほとんどです。

 施設には見守り義務がありますので、大切なご家族に何が起こっていたのか知りたいと思うのは当然のこと。真実を明らかにするためにも、法に照らすことをあきらめないでほしいですね。

 確かな説明がない場合や、不審な点があるなど、あきらかに施設側に非がある場合は、勇気を持って弁護士など専門家に相談することをおすすめします」(外岡さん、以下同)

介護施設でのトラブル事例

 実際の介護施設でのトラブル事例について外岡さんに教えていだいた。

【施設と利用者間のトラブル】

・転倒や誤嚥によるケガや死亡事例

「転倒と誤嚥が7割近くを占めます。スタッフも24時間1人に付きっ切りになれないので仕方ないのですが、足腰が弱った利用者が気づかないうちに転んでしまうケースが多いです。

 その場合、施設から連絡が入り病院に連れて行ったり、骨折などしていると入院したり、最悪は寝たきりになり病気を併発することで亡くなったりということが実際にはあります」

・金銭トラブル

「施設側の説明とは違う利用料を請求されたり、初期費用が返還されずにトラブルになったりする場合もあります」

【施設スタッフまたは利用者同士のトラブル】

・盗難または盗難されたという思い込み

「利用者の物が盗まれたといったトラブルは実際にあります。

 また、認知症のかたが盗まれたと思い込んでしまい、利用者同士で言い争いになるケースもあります」

【利用者同士のトラブル】

・男女の恋愛

「お元気なかたが多いサービス付き高齢者向け住宅でのケースですが、男性のAさんが女性のBさんを気に入り、つきまとってしまうことがありました。

 利用者同士のトラブルは、当人同士で話し合うのが難しいため、施設長や管理人さんなど第三者に間に入ってもらうことをおすすめしています」

・騒音トラブル

「どうしても居室が近いので、隣室や上階の音が気になるかたもいます。その場合も、施設長などに相談して対処してもらいましょう」

→介護施設で深夜ゾクッとした話3選|散乱する衣服、すすり泣き、トイレの不審な灯り…

コロナ禍でトラブル内容にも変化が

 「近年の相談事例は、コロナにまつわるものが多いですね。

 面会が制限されて、家族や外部と接する機会が減ったことで、親の元気がなくなってしまったり、認知症が進んでしまったりといった事例があります。

 また、施設内でクラスターが発生して病院に搬送できずに容態が悪化してしまった相談もありました。

 介護施設の入居者は高齢のかたなので、基礎疾患があるとコロナにかかれば最悪の場合、命を落とされることもあるのです。責任問題を回避するために施設側はなるべく入居者と外部の接触を避けた方策をとります。

 しかし、入居者とご家族には面会する権利である「面会権」があります。一方で施設側は施設の所有者や管理者が施設を包括的に管理する権利・権限である「管理権」があるので、双方がせめぎ合っているのが現状です」

 面会規制が緩和されてはきているが、昨今コロナの勢いが増してきているので、事前にコロナ対策や面会の方針などを聞いておくといいとのこと。

介護施設でのトラブル回避法 5つのポイント

 施設でトラブルにならず穏やかに安全に暮らしてもらうためにはどうすればいいのだろうか?

1.事前の施設の見極めが大切

 複数の施設の説明を聞いたり見学をしたりして、より良い施設を探すこと。

「トラブルになった場合などの対応についても聞いてみるといいでしょう」

2.契約書や重要事項説明書をしっかり確認

 入居の契約の際、渡される書類はしっかり目を通す。わからないところがあるままで契約はしない。

3.個室に見守りカメラなどを設置する

「リビングや廊下に防犯カメラが設置されている施設は多いのですが、それぞれの居室にはカメラがない場合があります。

 許可を得れば見守りカメラをつけることは刑法上では違法ではありません。ただし、トイレや浴室の中などの撮影はいけません。迷惑行為防止条例や軽犯罪法違反となる可能性があり、また民事においてはプライバシー侵害であり、不法行為に該当し違法となります」

4.介護記録を見せてもらう

「トラブルになった際には証拠が大切となります。

 施設は必ず介護記録を付ける決まりになっているので、不審な点がある場合は、見せてもらいましょう。

 利用者のかたがおっしゃっていることと、記録が違っていたりしていないかを確認してください。また、介護記録の内容が薄くしっかり書かれていないのも問題です。今後はしっかり記録してもらうよう要求を伝えた方がいいでしょう。

 利用者本人が記録できる場合、不当な行為をされたときには必ずノートなどに書いておきましょう。ご本人が難しい場合は、家族が面会に行ったときに身体の様子を見たり、言動をチェックしたりしてご家族が記録しておいてください。メモ書きや記録でも証拠になることがあります。

5.防犯カメラの記録をチェック

 施設に防犯カメラが付いている場合は、早急に見せてもらうことをおすすめします。なぜなら約1~2週間でデータが上書きされて残っていないケースも多いのです」

→入居前に判断!「ブラック介護施設」を見分ける10か条

トラブルの相談は早めの対処が肝心!

「施設内のトラブルを発見したら、まずは施設長やケアマネジャーに相談してください。

 施設のスタッフの中で、日頃から信頼でき頼れそうなキーパーソンを抑えておくといいと思います。

 そして、トラブルが起きたらすぐに、利用者や家族はなるべく早く対応すること。できれば5日~7日間以内に動きましょう。

 重要事項説明書には、トラブルになったときの連絡先が書いてありますので、そちらを参照して連絡してください。

 また、我々のような専門家に相談することをおすすめします」

介護現場で実際にあった事例と慰謝料

 実際の施設内事故がきっかけで利用者が死亡したケースでは、家族が介護施設を訴え2500万円の死亡慰謝料が支払われたケースもあるという。

「転倒事故の場合、請求額がそのまま認められることは少ないのですが、利用者側に有利な判決が多いのは事実です。訴えなければ治療費や見舞い金として数十万程度で済まされてしまうこともあるのです」

「介護施設を訴える」ことに遠慮は不要

 お世話になっていた施設を訴えるのは、気が引けるという人もいるのでは?

「施設はあらゆることを想定して保険に入っています。なので、そのあたりは遠慮せずに主張できるところはした方がいいです。

 また、施設で働くスタッフのかたたちも、事故やトラブルを起こしてしまった場合、隠さず上司や施設長に報告することが大切です。大ごとになってからでは取り返しがつかないため、事実を隠すことが一番いけません」

 施設で問題が起こったら、なるべく早く動くことが大切。そして、当事者同士だけではなく第三者を交えて解決していくことが重要だ。

教えてくれた人

弁護士・外岡潤(そとおかじゅん)さん

「弁護士法人おかげさま」の代表であり、ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)の資格を持つ介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命としている。著書に『弁護士が教える親の介護で困ったときの介護トラブル解決法』(本の泉社)、『60分で分かる!障害者総合福祉法超入門』(技術評論社)ほか多数。

ホームページ「介護・福祉系弁護士法人 おかげさま」https://okagesama.jp/

YouTubeチャンネル「知らないと損する介護の落とし穴」
https://www.youtube.com/channel/UC1UcAqSlMExxc6bmVbL6Zeg

取材・文/本上夕貴

●子供はどこまで親の介護をしなければならないのか?実例から弁護士と介護のプロが回答

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