「咀嚼は脳にいい!」そのメカニズムを専門家が解説 正しく噛んでボケ防止を
残念ながら、間違った噛み方では、どんなにたくさん噛んだところで意味はない。顔には30種類以上の「表情筋」と、2種類の「骨格筋」があり、表情筋は皮膚と皮膚をつなぎ、骨格筋は骨と骨をつなぐ役割を果たしている。それらをしっかり使うことができていなければ「正しい咀嚼」とは言えないのだ。
『若返り!モデルスマイル塾』(小学館)の著書がある、二子玉川ガーデン矯正歯科の歯科衛生士で健康咀嚼指導士の石野由美子さんが説明する。
「歯を使って噛み切ったり、すりつぶしたりした食べ物を一度舌の上に集めて、“ごっくん”と飲み込むまでで『咀嚼』が完結します。歯はそのための“道具”の1つということ。ただ歯で噛むだけではなく、唇や口輪筋、舌、ほお、あごといった口まわりの筋肉を総合的に使った一連の動作です。口まわりの筋肉は放射線状につながっており、その動きを意識して噛むことが大切です」
正しく噛むには、どちらか一方に偏ることなく、左右の奥歯でバランスよく噛みしめるのがポイントだ。
正しく噛めているかは『口角』を見る
「正しく噛めているかどうかのチェックポイントの1つは『口角』です。左右のどちらか一方が上がっているのは、上がっている方でばかり噛んでいる証拠です」(石野さん・以下同)
唇は閉じたまま、口まわりの筋肉を動かすのを意識して、ひと口30回を目標に噛んでみよう。
「奥歯で“ギュッ”と噛むと、骨と骨をつなげる骨格筋の一種である『咬筋(こうきん)』が動き、ほおやこめかみの下あたりが“ぷくっ”と盛り上がります。ここまでしっかり噛んで初めて、脳に筋肉から信号が送られ“咀嚼した”と認識することができるのです」
正しい噛み方を理解しないまま、間違った噛み方がクセになってしまえば、健康に甚大な悪影響が出る可能性もある。しっかり噛むことができていなければ、いくら食べても脳に信号が送られないため、満腹中枢が働かず、食べ続けるはめになる。早食いが肥満につながるのは、咀嚼が不充分なために脳が食べたことを認識できず、食べすぎてしまうからだ。
正しい噛み方・間違った噛み方の見分け方
【○】唇を閉じ、奥歯でしっかりと噛んで、ゴクンと飲む。噛むたびに耳の下の咬筋が「ぷくっ」と持ち上がる。
【×】唇が開いたままだったり、前歯だけで噛んでいると、脳に信号が送られない。
間違った噛みクセは「唾液」の分泌も減少させる
さらに、正しく噛めていないと、嚥下をスムーズにする「唾液」の分泌も不充分になる。そもそも唾液は年齢とともに減少するうえ、ホルモンバランスの変化によって粘度が上がる。年を重ねるほどに唾液の分泌を促せるよう意識すべきなのだ。
「唇を閉じたまま奥歯できちんと食べ物を噛みしめると、ほおの内側にある唾液腺が刺激されて唾液が充分に分泌され、飲み込みやすくなります。また、舌を使って左右の奥歯へしっかりと食べ物を運ぶことでも、舌の裏にある唾液腺を刺激し、唾液の分泌を促します。一方、前歯だけで噛んだり、口を開けたまま噛んだりしていると唾液腺が刺激されません」
唾液には、噛んだ食べ物をまとめるだけでなく、口内の雑菌の繁殖を抑える自浄作用や抗菌作用もある。つまり、唾液の量が足りていなければ口内の細菌が増えて、感染症のリスクが上がるのだ。
「唾液の量が少ないと、粘膜保護ができないため新型コロナウイルスにも感染しやすくなります。食べ物を充分に噛み砕けないことで胃に負担がかかり、消化不良や誤嚥のリスクも増します」(大谷さん)
その影響が及ぶのは、体だけではない。
「正しく噛めていなければマイネルト神経系が刺激されず、アセチルコリンが放出されないため、認知機能が下がりやすくなります」(堀田さん)
死を招く噛み方は“ボケる咀嚼”でもあるのだ。
教えてくれた人
堀田晴美さん/東京都健康長寿医療センター研究所・研究部長、大谷直さん/東陽町歯科医院・院長、石野由美子さん/二子玉川ガーデン矯正歯科・歯科衛生士・健康咀嚼指導士
イラスト/勝山英幸 写真/PIXTA
※女性セブン2023年7月20日号
https://josei7.com/
●ガムで「噛む力」を評価!注目の“咀嚼チェックガム”で人生100年時代の新たな口腔ケアを習慣に