血圧を上げる・下げる食事「カレーライスとぶり照り焼き定食、塩分が高いのはどっち?」【専門家監修】
日本人の約3人に1人が高血圧といわれている。高血圧は放置すると重篤な病気を引き起こす可能性が高くなるので注意が必要だ。スーパーでちょっと高い「減塩しょうゆ」を選んで塩分を摂りすぎないように気をつけている人もいるのではないか。高血圧の予防には食生活の見直しが大切。血圧を下げる食事法を専門家に聞いた。
日本の高血圧患者は4300万人!
<大分県別府市の調査によれば、夜7時以降に温泉に入る人には高血圧患者が少ない>
<梅肉エキスに降圧効果があることをアメリカと日本の共同研究が明らかに>
<アメリカで行われた17万人を対象とした研究で食事に塩を振りかける人の心疾患リスクが高いと判明>
これらはここ1年で発表された、血圧と行動に関する調査結果だ。世界には現在、約13億人の高血圧患者がいるとされており、日本人だけでも4300万人。その魔の手から逃れるべく、専門家たちの手によって日夜あらゆる研究が行われている。なぜなら高血圧は、命にかかわる事態を引き起こしかねない“病気予備軍”として恐れられているからだ。
群星(むりぶし)沖縄臨床研修センター総合診療医の徳田安春さんが指摘する。
「高血圧の状態が長い間続くと血管が傷んで破れたり詰まったりしやすくなり、脳出血や脳梗塞、大動脈解離や大動脈瘤(りゅう)を引き起こすリスクが高まります。加えて、血圧が高くなれば血液を送り出す際に血管に抵抗力が生じ、そのポンプである心臓には負担がかかって、心不全が起こりやすくなる。さらに体中の臓器に栄養を送る血管にも高い圧力がかかって全身の臓器もダメージを受ける。特に腎臓はその負担が大きく、腎不全になる可能性も高まります」
日常生活と血圧の相関関係を知ることが大切
本来、血圧の数値は常に一定ではなく、日常の中のちょっとした行動や身を置いている環境で変動する。『ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳』著者で、日本歯科大学内科客員教授の渡辺尚彦さんが言う。
「サーカディアンリズムといって、ヒトは約24時間の周期で体内の環境を変化させる機能を持っています。そのため、どんな人も1日のうちで数値が変化します。基本的に、朝の起床時の血圧はやや高めで、活発に活動するお昼頃に最も高くなり、夕方にかけて低くなっていきます。そうしたバイオリズムに加え、行動や食事などでさらに数値が変わってくる。たとえば浴室が寒かったり、イライラして怒鳴ったりすれば血管が収縮して圧力がかかり、血圧は上がります。逆に、お風呂上がりや睡眠時などリラックスしているときは、血管が開き、血圧は下がっていくのです」
つまり、普段の生活の何気ない選択の積み重ねの先に、血圧計の数値があるのだ。
「行動や食事で瞬間的に上がった血圧は元に戻りますが、そのまま上がりやすい生活を続けていれば慢性的に高血圧の状態になってしまう。逆に、血圧が上がりにくい生活を送れば数値は安定する。高血圧と診断されると降圧剤で血圧を下げるのが一般的ですが、即効性があるものの、副作用が懸念されるうえ、一度のみ始めると手放せなくなり、ずっとのみ続けることになります。日常生活と血圧の相関関係を知っておくことが、高血圧対策のいちばんの薬になるのです」(渡辺さん)
血圧の数値を左右するのはまず「食習慣」
医師たちが口を揃えるのは「血圧の数値を左右するのは、まず食習慣である」ということ。実際に、<梅肉エキスに降圧効果がある> <きのこで血圧が下がる>など「食」に関連した調査研究は非常に多い。徳田さんが解説する。
「こうした研究から読み解けるのは減塩や排塩の重要性です。梅やきのこは塩分を排出する効果を持つ『カリウム』が豊富であるうえ、それらを使った料理は、食物由来の旨みや酸味によって塩やしょうゆで味を足す必要がないため、結果として降圧につながると考えられます。
血圧は遺伝的体質や肥満によっても上昇しますが、塩分摂取量が多ければ血圧は上がり、減らせば下がるといえる。日本人に高血圧が多いのは、明らかに塩分摂取量が多いことが理由です」
実際、日本人の食塩摂取量は1日平均10g。WHO(世界保健機関)が推奨する5gの2倍だ。「塩分過多が高血圧につながる」という言説はもはや常識だが、にもかかわらず摂取量が減らない背景には、間違った減塩法がはびこっている現実がある。
カレーとぶりの照り焼きどっちが塩分が高い?
「よく患者さんに『カレーライスとぶりの照り焼き定食、どっちの塩分が多いと思いますか?』と質問するのですが、みなさん大抵カレーライスと答えます。
しかし実際は逆で、漬けものやみそ汁も含めるとぶり定食はカレーライスの2倍の塩分が使われている。白いご飯に合うおかずは塩分が高いものが多く、和食を選ぶことは高血圧につながります。特にしょうゆには要注意。かけすぎないようにスプレータイプのものに変えるだけでも塩分摂取量は20分の1に抑えることができます」(渡辺さん)
徳田さんもしょうゆの使い方が血圧の数値を左右すると話す。
「刺し身や焼き魚など何にでもしょうゆをかけると、塩分摂取量はぐんと増えます。刺し身には自然の塩をほんの少し、3~5粒程度をつけて食べてみてください。最初は味が薄いと思うかもしれませんが、舌は次第になれてきます。私は日常生活でしょうゆを一切使っていません。
また、塩は精製されたものではなく、自然のものを使ってください。精製塩は100%近くが塩化ナトリウムですが、天然塩はカリウムやマグネシウムが含まれ、ナトリウムを体外に排出する効果があります」
減塩食品がかえって血圧を上げる原因に
最近は減塩を謳(うた)う調味料や食品も増えているが、そうした商品はかえって血圧を上げる原因になると徳田さんは続ける。
「減塩商品という安心感から量を考えず摂取してしまう人は少なくありません。また、減塩を謳った加工食品には添加物が多く含まれるものもあり、発がんや動脈硬化症のリスクも指摘されています」
近年の研究では、塩の摂取によって血圧が上がりやすい人とそうではない人がいることも明らかになりつつある。渡辺さんが言う。
「『食塩感受性』といい、遺伝や人種などでその高低が決まるとされています。塩の影響を受けやすいのはアフリカ系の黒人。体の中に塩分をためやすく、血圧が上がりやすいという特徴があります。一方で、白人は塩分を排出しやすくて血圧が上がりにくい。日本人はその中間だと考えられています」
とはいえ現在、個人レベルで「食塩感受性」を明確に計測できるような検査方法は確立されていない。そのため、日常における塩分量を意識し、減らそうとすることが数値を下げる最短ルートになることは間違いない。
皮付きピーナッツとレモン果汁で血圧低下
減らすべき成分がある一方、積極的に摂ることで降圧効果が見込める食品も少なくない。渡辺さんが自ら行った実験をもとに推奨するのは「皮つきピーナッツ」と「レモン果汁」だ。
「1日1回、起床時に20粒のピーナッツを食べると、3~4週間後には平均で血圧が8mmHgも下がり、その状態が維持されました。ピーナッツの渋皮に含まれるポリフェノールが血管を広げて血圧を下げるからだと考えられます。渋皮ごと食べるようにして、塩で味付けしたものや、油で炒ったものは選ばないでください。
レモン果汁に関しても、高血圧患者に起床3時間後、大さじ1杯を飲ませたところ血圧が13 mmHg下がりました。レモンに含まれるカリウムとポリフェノールの作用だと推測できます」(渡辺さん・以下同)
渡辺さんによれば、ぶどうジュースでも同様の効果が見られたという。果汁100%のジュースを1日3回、200㏄飲んだところ、血圧が4 mmHg下がったのだ。
「理由はぶどうのポリフェノールですが、同じ原料でも赤ワインはNGです。アルコール全般が含有している『アセトアルデヒド』には、血圧を上げる作用があるため、せっかく摂ったポリフェノールの効果が相殺されます」
血圧を下げる「食べ方」塩分は朝に減らす
血圧を左右する食べ物がわかったら、その食べ方にも気をつけたい。
渡辺さんは「時間」に着目する。
「酢の主成分である酢酸は、血管を拡張させる物質『アデノシン』の分泌を促して、血圧を下げる働きがあります。ただしその効果は口にする時間によって、大きく変わってきます。高血圧患者に、3週間にわたって15mlの酢を飲んでもらう実験を行ったところ、人によって飲む時間帯で効果が違いました。寝る前がいい人もいるし、正午がいい人もいます。個人差が大きいうえに、やってみないとわからない。血圧をこまめに測りながら、実践してみてほしい」
一方、塩分に関しては朝に減らすのが効果的であることが明らかになっている。
「起床後すぐは活動のために、レニン、アルドステロン、アドレナリンなど血圧を上げるホルモンの分泌が増えます。なかでもアルドステロンはナトリウムを体にためる作用があり、血圧が上昇しやすい。朝食を減塩食にすると効果的です。ただし、朝食そのものを抜くのは逆効果になります。空腹に伴うストレスで交感神経が刺激され、血管を収縮させるホルモンが分泌されて血圧が上がりやすくなります」
国立がん研究センターの調査では朝食を食べない人は脳出血のリスクが36%上がるという。塩分控えめを意識した朝食をしっかり摂ることが血圧を下げることにつながる。